第八話 大尉宅
前回のあらすじ:ナナヨンに仕掛けられた爆弾以外の爆弾を捜索すべく、駐屯地全体で大捜索が行われた。
その結果、爆弾は仕掛けられた1つだけであった。
駐屯地は通常体制に戻り、新見もデスクワークに戻る。
その晩、大尉の家で晩御飯をご馳走になる事になった新見。
新見は心を躍らせながら、大尉の家へと向かう……。
1月27日… 19:31… 津山市…
まだまだ雪が残っている津山。
大尉の家は、津山駅から川を渡った先にある。
私も大尉も車通勤だから、大尉の家までお互いの車で行く。
「…大尉ってSUV乗るんだ…」
こうして大尉の車に追従して行く。
こうやってついて行くのは得意。
ナナヨンの運転で学んだ。
「あ、ココかな?」
大尉が車を1回のバックで家の駐車場に入れる。
「…あ、2台分入れる」
大尉は平屋の一軒家の様だ。
私はまだ賃貸なのに…。
「私も1回で入れられるかな…」
操縦士時代の腕を信じる!
キキッ。ピーッ。ピーッ。ピーッ。
バックミラーを確認しながらゆっくり入れる。
ナナヨンより視界が広いんだから、入れられるはず!
「よし…そのまま…!」
キッ。
「よしっ!1回で入れられた!」
エンジンを切って、荷物を持って車を降りる。
早く家の中に入ろう。
まだまだ外は寒い。
「車ロックしてっと…」
ガチャッ。
「少佐殿、寒いでしょう。中へどうぞ」
大尉がドアを開けて待ってくれていた。
「お邪魔します」
玄関で靴を脱ぎ、大尉について行く。
「リビングでお待ち下さい。料理を作って来ます」
「うん」
「少佐殿は、何か食べたい物とかありますか?」
「何でも良いよ」
特に食べたい物は思いつかない。
大尉が食べたい物を私は食べる。
「では、そうですね…焼き鮭定食にしましょうか」
焼き鮭、定番だね。
「OK」
「では、少々お待ちください」
大尉が料理を開始する。
私はソファーに座って料理する大尉を見守る。
「鮭…鮭…あった」
冷蔵庫から鮭を2つ取り出す。
あのままでも美味しそう。
ずっと大尉を見てるのも何か恥ずかしいから、テレビを付ける。
〈…次のニュースです。本日、日本陸軍、日本原駐屯地で爆発物が発見されました…〉
「ニュースなってるね」
「えぇ、そうですね。最近は色々物騒ですからね」
「この前の岡山なんて特にね」
あの事件は陸軍全体に衝撃を与えた。
沢山問題が出て来た。
独断専行のお陰で早く終わったのは良いけど、本来は命令通り待機すべきだった。
でも、機動隊頼りって言う所も問題。
銃にRPGを持ってる武装集団に機動隊だけで対処するのは厳しい。
「もう少し、陸軍が出る基準を下げるべきだとは思いましたね」
「流石に、RPG持ってる敵は陸軍が出るべきでしょ」
「そうですね、機動隊の盾だけで防げるとは思いません」
こうして話してる間にも、心地良い料理音が聞こえてくる。
大尉って、お惣菜買うときあるのかな。
「大尉ってお惣菜とか使うの?」
「いえ、あまり使いません」
「偉いね~、私なんてほとんどお惣菜ばっかだよ」
流石大尉、私生活もしっかりしている。
だから私より身体がスリムなんだ。
数分後…
「「いただきます」」
大尉特製の焼き鮭定食が完成した。
焼き鮭に、玄米入りご飯、ほうれん草のおひたし、お味噌汁…凄く健康的な食事。
私の食事とは正反対だ。
「あ、骨に気を付けて下さいね」
「うん、気を付けるよ」
私への配慮もしっかりしてくれる。
大尉はデキる女だ。
「ん!美味しい!」
「良かったです、少佐殿」
大尉は私を見て微笑んでいる。
きっと、料理に自信が無かったのだろう。
こんな美味しい料理、毎日食べたい位なのに。
「料理も美味しい何て…大尉は良いお嫁さんになるよ、絶対」
「そ、そうでしょうか…?」
「うん、間違いない」
部屋の掃除もしっかりしてて、料理も美味しいくて、金銭管理もしっかりしてる。
時間に正確で、仕事も完璧にこなす。
こんな大尉が良いお嫁さんじゃないなら、一体何になるの?
「…ありがとうございます」
大尉は顔を赤らめながらそう言った。
最近は大尉も表情豊かになって来た。
昔は真顔ばっかりだったのにね。
数分後…
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした、お皿を回収しますね」
「良いよ、自分で持ってくよ」
「いえいえ、少佐殿はそのままで大丈夫ですよ」
「そっか、OK」
大尉は食器を回収して、シンクに持って行く。
そして、食器を水に浸す。
「少佐殿、今日はもう遅いですし、泊って行かれますか?」
「え?良いの?」
「はい。一応、来客用の寝室はありますから」
「ありがとう、大尉」
「いえいえ」
まさか大尉の家に泊まれるなんて。
夢にも思って無かった。
「では、案内しますね」
「あ、服とか持って来てないや」
「大丈夫ですよ、私の方で用意させて頂きます」
「あ、ありがとう」
服も用意されてるなんて…。
流石大尉、用意周到。
「こちらが寝室です、トイレは向かい側にあります」
「お風呂は何処?」
「お風呂は突き当りにございます」
「うん、ありがとう」
「いえいえ、それではごゆっくり」
「はーい」
寝室には1人用のベッドや書き物机、ポット等が備え付けられていた。
まるでビジネスホテル。
無料で泊まっていいなんて、大尉は気前が良すぎる。
「ベッドもふかふか!最高!」
このまま大尉の家に住み続けたい。
美味しいご飯、快適な部屋、服も用意してくれる。
「大尉、一緒に住むの許してくれないよね~…」
絶対断られる。
これは間違いなく言える。
泊めて貰ってるけど、せいぜい上官と部下の関係。
ほぼ他人みたいな物。
他人と一緒に住むなんて、私なら御免だ。
「はぁ~…帰りたくない…」
こんな事考えてても仕方ないし、お風呂入ろーっと。
お風呂もきっと綺麗だろう。
数分後… 風呂場…
「はぁ~気持ちいい~」
予想通り、お風呂場も綺麗だった。
リンスもシャンプーも良い物ばかり。
それに、テレビもある。
「大尉の実家ってお金持ちなのかなぁ…」
大尉の給料でこんな家を買えるとはとても思えない。
親に買ってもらったのかな、多分。
牧場って…儲かるのかな。
「そろそろ上がろっと」
数分後… 寝室…
「ふぅ…お風呂気持ち良かった」
髪を乾かして、ベッドに寝転ぶ。
時刻は2231。
そろそろ寝ても良い時間。
「寝よ」
私は電気を消して、眠る体制につく。
私の家よりも快適なベッド、明日からもこのベッドで寝たいな……。
1月28日… 06:00… 寝室…
「ふわぁ…あぁ…」
教育隊からの癖で、毎日0600に起きる。
お陰で、仕事に遅刻しない。
コンコンコン
「少佐殿、朝食の支度が出来ております」
「え?朝ごはん出来てるの?」
「はい」
「うん、すぐ行くよ」
リビング…
「本日の朝食は、だし巻き卵ときんぴらごぼう、お味噌汁です」
「おぉ~」
大尉は毎日こんな朝食を作ってるのだろうか。
いや、きっとそうだ、そうに違いない。
「「いただきます」」
まずはだし巻き卵から食べよう。
大尉もそうしてるし。
「ん~、美味しい…美味しいよ、大尉」
「喜んでもらえて、何よりです」
美味しい…惣菜のだし巻き卵より何倍も美味しい…。
毎日食べたい…凄く美味しい…。
「大尉は毎日朝ごはん作ってるの?」
「はい。毎日作ってますよ」
「面倒な日とかあるでしょ?」
「ありませんね」
「流石だね」
「別に普通の事ですよ」
流石大尉、やっぱり毎日作ってるんだ。
惣菜で済ませる私とは大違い。
「あ、テレビ付けて良い?」
「構いませんよ」
私はテレビを付けて、ニュースを見る。
グータラな私の唯一の日課だ。
〈次のニュースです。今日午前5時ごろ、瀬戸内海沖で工作船拿捕されました〉
こうして、毎日情報を仕入れる。
工作船か、最近は拿捕数も増えて来たらしい。
〈海上保安庁によりますと、工作船は広島船籍の漁船に偽装されており、工作員を送り込む為の物であったとの事です〉
「最近は物騒ですね、少佐殿」
「本当に物騒よね」
〈逮捕されたのは6人の中国人で、中国政府はこの事に付いて関与を否定しています〉
「工作員とか沢山居るよね、絶対」
「はい。陸海空軍内部にも必ず紛れ込んでいるはずです」
「うん、どうにかしないとね」
「摘発するのは難しそうですね…」
「ね…」
数分後…
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした、お皿、回収しますね」
「うん。ありがとう」
「どうでした、少佐殿」
「どうでしたって?」
「この家、如何でしたか?」
答えはもう決まっている。
この答えしか存在しない。
「快適だったよ、ずっと住みたい位ね」
「………」
「…大尉?」
大尉は黙ってしまった。
食器を洗う手も止まっている。
あれ、何か気に障る様な事言ったかな?
「………住みますか?」
「え?」
「住みますか?この家に」
「…えっ!?い、良いの?」
「はい。構いませんよ」
「で、でも…」
「少佐殿ですから、何も問題ありませんよ」
ちょっと冗談のつもりだったんだけど…。
でも、この家に住みたくなったのは事実。
「………」
「1人じゃ寂しかったんです。それに、部屋も余ってますから」
「…本当に、良いの?」
「はい。構いませんよ」
「……じゃぁ、お願いしようかな」
「ふふっ、分かりました」
「大尉、これから宜しくね」
「はい、少佐殿」
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