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裁くのが神だというのならなぜ彼女をこんなにも苦しめるのだろうか

あの日、中川美咲は死んだ。これは、償いと弔いと、友情の物語ー

七瀬真帆が修平のことを真正面から聞かれたのは、テレビ局の廊下だった。


収録は終わっていた。


メンバーと別れ、マネージャーと楽屋へ戻る途中、取材スタッフの一人が追いかけてきた。


「七瀬さん、すみません。一点だけいいですか」


真帆は足を止めた。


「はい」


「中川美咲さんの件なんですけど」


その名前が出た時点で、何を聞かれるのか大体分かった。


スタッフは言葉を選んでいるようだった。


「岡田修平さんの件について、美咲さんとはお話しされましたか」


「しました」


「やっぱり責任を感じていらっしゃるんでしょうか」


真帆は一拍置いた。


「本人に聞いてください」


「ですよね。すみません」


スタッフは引いた。


それで終わるかと思ったが、もう一つだけ続いた。


「七瀬さん自身はどう思われますか」


真帆は相手を見た。


「何をですか」


「中川さんと岡田さんの関係について」


関係。


またその言葉だった。


「友達でも恋人でもないですよ」


「もちろん、それは分かっています。ただ、かなり頻繁に交流されていたようなので」


「Xでですよね」


「はい」


「じゃあXで話してたんじゃないですか」


スタッフは少し困った顔をした。


真帆はそれ以上言わなかった。


質問の意図は分かっていた。


美咲が修平に何をしたのか。


修平が美咲をどう思っていたのか。


どちらにどこまで責任があるのか。


みんな答えを欲しがっていた。


でも、真帆は修平に会ったことがない。


知らない人間の心の中まで代わりに説明する気はなかった。


その日の夜、美咲からメッセージが来た。


> 今日また聞かれた?


真帆はソファに座ったまま返した。


> 聞かれた


> なんて?


> お前は責任感じてるのかって


> お前って言ってないでしょ笑


真帆はそこだけ少しむっとした。


> そこどうでもいい


> で?


> 本人に聞けって言った


しばらく返事が来なかった。


その間に真帆はテレビをつけた。


音量は小さいままにしておく。


ニュースが流れていた。


別の事件。


天気。


スポーツ。


美咲の話は出なかった。


それが少し珍しく感じるくらい、この数日は名前を見すぎていた。


通知が来た。


> 私、修平くんが話しかけてくれるの嬉しかったんだよね


真帆はすぐには返さなかった。


美咲から、もう一つ。


> ゲームの話とか仕事の話とか

> どうでもいいことばっかだったけど


真帆は画面を見た。


意外ではなかった。


美咲は、どうでもいい話が好きだった。


ライブの感想より、昨日食べたもの。


大きな相談より、仕事で変なことがあった話。


そういうものをよく拾った。


修平も、その中の一人だったのだろう。


> うん


と返した。


美咲から、


> 最近来たかなって見ることもあった


と続いた。


真帆は眉を寄せた。


> それが何


少し間が空く。


> 何って


> 嬉しかったから何?


返事は来なかった。


真帆は続けた。


> 話しかけてほしかったから何?


今度はすぐに、


> そういう言い方しないでよ


と来た。


> じゃあどういう言い方すればいいの


> 分かんないけど


真帆はスマートフォンを持ち直した。


美咲が何を言おうとしているのかは、なんとなく分かった。


修平から声をかけられるのが嬉しかった。


来ない日は気にした。


自分から声をかけたこともある。


それを今、美咲自身が一つずつ拾い直している。


その先にある言葉まで、真帆には見えた。


だから何。


そこまで考えて、真帆はそのまま送った。


> だから何


返事はなかった。


一分ほど経って、


> 真帆は怖くないの?


と来た。


真帆は少し考えた。


> 何が


> 私がもっと距離取ってたら違ったかもしれないじゃん


真帆はテレビを消した。


部屋が静かになる。


> それはあるかもね


送った。


今度は美咲からの返信が止まった。


真帆は続けた。


> でも逆もあるでしょ


> 逆?


> あんたが返信しなくても同じだったかもしれない


> 分かんないじゃん


> そうだよ

> 分かんないじゃん


美咲から返事が来ない。


真帆はそのまま待った。


やがて、


> 私が嬉しかったのは本当だよ


と来た。


> うん


> 修平くんが来ると話そうって思ってた


> うん


> それって良くなかったのかな


真帆は少しだけ考えた。


ここで「良くなかった」と言えば簡単だった。


「良かった」と言うのも簡単だった。


でも、どちらも違う気がした。


> 知らない


送った。


美咲から、


> 冷た


と返ってきた。


真帆は、


> 知らないもんは知らない


と返した。


続けて、


> でもあんたが修平くんと話すの嬉しかったのと

> 修平くんが死んだのは別でしょ


美咲からの返事は、しばらく来なかった。


真帆は画面を見ながら、自分の言葉を読み直した。


別。


本当に完全に別なのかは分からない。


美咲とのやり取りが修平に何の影響も与えなかったとは思わない。


そんなことを言えば、それも嘘になる。


でも、美咲が嬉しかったことまで犯罪の証拠みたいに並べるのは違う。


真帆にはそう思えた。


通知が来た。


> でも会いたいって思わせたかもしれない


> そうかもね


> じゃあ


真帆は、最後まで打たせずに返した。


> だから何


今度は続けて送った。


> あんたが会いたいって思わせたら

> あんたが殺したことになるの?


美咲は何も返さない。


> あんたは死ねって言った?


> 言ってない


> 来いって言った?


> 言ってない


> 会えるって言った?


少し間があった。


> 言ってない


真帆はそこで止めた。


これ以上は、裁判みたいになる。


美咲も修平も、そんなふうに並べたくなかった。


しばらくして、美咲から、


> でも修平くん死んだよ


と来た。


真帆はその一文を見た。


それだけは、どうにもならない。


> うん


返す。


> 死んだ


続けて、


> だからってあんたが殺したわけじゃない


美咲から返事はなかった。


十分ほど経った。


真帆は風呂へ入った。


上がってからスマートフォンを見ると、美咲から一件だけ来ていた。


> そうなのかな


真帆は、


> 少なくとも私はそう思ってる


と返した。


少しして、


> そっか


と来た。


その夜の会話は、それで終わった。


翌日、真帆はまた取材を受けた。


今度は最初から修平の話が出ると分かっていた。


「中川美咲さんに対して、一部では責任を問う声もあります。七瀬さんはどうお考えですか」


真帆は質問を最後まで聞いた。


「美咲が岡田さんにどう返してたかは、X見れば分かると思います」


「はい」


「それ以上は、私には分かりません」


「美咲さんから相談は?」


「それは私と美咲のことなので」


以前にも使った言葉だった。


記者はそれ以上踏み込まなかった。


記事が出たのは翌日だった。


見出しは、


《七瀬真帆、中川美咲への責任論に「それ以上は分からない」》


だった。


今回は、そこまで間違っていない。


真帆は記事を最後まで読まずに閉じた。


美咲からメッセージが来た。


> 見た


> 見なくていいのに


> またそれ言う


真帆は返さなかった。


少しして、


> ありがと


と来た。


真帆はその言葉を見た。


別に感謝されるようなことはしていない。


美咲を庇ったつもりもなかった。


美咲が悪くないと証明したわけでもない。


ただ、分からないものを分かったふりをしなかっただけだった。


真帆は、


> うん


と返した。


それだけだった。


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