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友達です

あの日、彼女は死んだ。これは、僕たちから彼女に送る最後の”推し活”の物語ー

美咲が死後もXを更新するようになってから、真帆への取材依頼は急激に増えた。


最初の数日は仕方がないと思っていた。元メンバーであり、生前から親しかった。しかも最初に美咲本人だと認めた人間の一人でもある。

聞きたいことがあるのは分かる。

どんなやり取りをしたのか。本当に本人だと思うのか。死んだ美咲と話すのはどんな気持ちなのか。

そのくらいなら、まだ答えられた。

問題は、その先だった。


「美咲さんが戻ってきたことで、七瀬さん自身も救われた部分はありますか?」


収録前の打ち合わせで、番組スタッフが聞いた。

真帆は少し考えた。


「救われたっていうか……普通に話せるのは嬉しいです」


「やはり、親友との再会という感覚でしょうか」


「再会って感じでもないですけど」


スタッフは手元の資料に何かを書いた。


「では、亡くなった時に言えなかったことを、今伝えられているというような」


「別にないです」


「ない?」


「普通に話してたので」


スタッフが少し困った顔をした。

真帆は、言い方が悪かったかと思って付け足した。


「死ぬ前も、今も。そんな毎回大事な話してたわけじゃないです。ご飯とか、眠いとか、そういうのばっかだったし」


「ああ、なるほど」


スタッフは頷いた。

けれど本番になると、画面の下には、


“死を越えて再び繋がった親友”


という文字が出ていた。

放送後、美咲からDMが来た。


> 見たよー


> 見なくていいのに


> 見たいじゃん


> どうだった


> 真帆めっちゃ真面目だった


> そこ?


> あと顔ちょっと疲れてた


> うるさい


> 寝なよ


真帆は画面を見て少し笑った。

番組では、何度も「奇跡」「親友」「再会」という言葉が使われていた。

本人との会話はこれだった。

次の取材でも似たような質問をされた。


「中川さんは、今も七瀬さんの活動を見守っていると思いますか?」


「見てますよ」


記者が少し身を乗り出した。


「そう感じる瞬間がある?」


「いや、Xで言ってくるので」


「ああ……なるほど」


「この前もライブのこと書いてましたし」


記者は少し笑った。


「本当に、今も変わらない関係なんですね」


真帆はそこで一度黙った。

変わらない。

それも少し違うと思った。


美咲は死んでいる。

会えない。隣に座れない。ライブを見に来ることもできない。


変わっていないわけがない。

でも、全部変わったわけでもない。


「まあ、友達です」


結局そう答えた。

その言葉は、翌日の記事タイトルに使われた。


"七瀬真帆「今も友達」 死後も続く中川美咲との絆"


真帆は記事を開いて、すぐ閉じた。

自分が言ったことではある。

間違ってはいない。

でも、何か違った。

美咲から、


> 友達だってー!


とDMが来た。

真帆は、


> うざ


と返した。


> ひど!


> 何喜んでんの


> だって友達って言ったじゃん


> 友達でしょ


> えへへ


そこで真帆は返信をやめた。

数日後、ライブがあった。

五人になってから、少しずつ新しい形にも慣れてきていた。歌割りも変わり、フォーメーションも変わった。美咲がいた場所を空けているわけではない。

曲の途中で美咲を思い出さないことも増えた。

それを悪いことだとは思わなかった。

ライブは今いる五人で作るものだった。

MCの途中、客席の後方から声が飛んだ。


「美咲も見てるよー!」


真帆の動きが一瞬止まった。

ほんの一瞬だった。

隣のメンバーがこちらを見る。

客席から拍手が起きた。

真帆はマイクを持ち直した。


「……うん。ありがと」


それだけ言った。

すぐ次の話題へ進んだ。

ライブ後、Xを見ると、美咲が投稿していた。


> 今日ライブだったんだよね!

> おつかれー!


ファンから、


> 美咲ちゃんも見てた?


と聞かれている。


美咲は、


> 見れないけど応援してた!


と返していた。

真帆はその投稿にいいねを付けなかった。

返信もしなかった。

少ししてDMが来た。


> 今日どうだった?


> 普通


> また普通って言ってる


> ちゃんとできたよ


> ならよかった!


少し間があいて、


> 私のこと言われた?


真帆は指を止めた。


> 客にちょっと


> 何て


> 見てるよって


> えー見たかった


> 見れないでしょ


> そうなんだけど


真帆は少し考えてから、


> ありがと


と送った。


美咲から、


> えへへ


と返ってきた。

そのやり取りを、真帆はXには出さなかった。


出してやるものか、とそう思った。


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