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第14話 掘り出し物

 翌日。俺は神宮寺(じんぐうじ)セイラと共に、日本最大規模を誇る『新宿ダンジョン』の地下50階――通称『深層エリア』へと足を踏み入れていた。


「透さん、それ動きにくくない? 大丈夫?」


「問題ありません。これくらいやらないと、また誰に特定されるか分かりませんから」


 俺は息苦しさを我慢しながら答える。


 今日の俺は、ダボダボの迷彩服に、顔を完全に覆い隠すフルフェイスのガスマスク型ヘルメット、さらに声を変えるボイスチェンジャーまで装備している。

 先日、ダンジョン上層のゴミ捨て場で剛田たちに鉢合わせし、ブランド服のタグから凛に正体を見破られるという大失態を犯したからだ。今日は絶対に見バレするわけにはいかない。


 そんな不審者全開の俺に対し、前を歩くセイラの姿は、息を呑むほどに美しく、そして洗練されていた。


 白銀と群青を基調とした、ボディラインにフィットする高機動型の魔法装甲。

 腰には俺が修復した『聖剣エクスカリバー』が下がり、左腕には昨日譲ったばかりの『アイギスの盾』がしっかりと装備されている。


 昨日の可憐な姿から一転、まさにSランク探索者の風格だ。


 ――ズズンッ!!


 突如、地響きと共に通路の奥から巨大な影が現れた。

 体長5メートルを超える、『ミノタウロス』だ。その手には、黒い炎を纏った巨大な戦斧が握られている。


「っ……!」


 あまりの威圧感につい一歩下がってしまう。

 しかし、そんな俺を尻目にセイラは涼しい顔で前に出た。


「うん、ちょうどいい的だね。アイギス、試させてもらうよ」


 デス・ミノタウロスが咆哮を上げ、黒炎の魔法を放つ。

 通路全体を焼き尽くすほどの業火が俺たちに迫るが――セイラが左腕の盾を構えた瞬間。


 カアァァァンッ!!


 魔法反射率100%。

 アイギスの盾の表面で黒炎が完全に弾かれ、そっくりそのままミノタウロスへと跳ね返った。

 自らの魔法で怯んだ巨獣の隙を突き、セイラが地を蹴る。


「はぁッ!」


 抜刀。そして、一閃。

 聖剣エクスカリバーの白銀の軌跡が空気を裂き、絶対切断の能力がミノタウロスの分厚い鋼皮を、まるで豆腐のように両断した。


「すっげ」


 無意識に称賛がこぼれる。


 一撃。たったの一撃だ。

 強力な武器とはいえ、それを完璧に使いこなすセイラの身体能力と戦闘センスは、まさに次元が違った。


「アイギスの盾、本当に呪いもないし魔力も通しやすいね。うんうん、いい感じ!」


 セイラは無邪気に笑いながら剣を鞘に収めた。


 ◇


 そのまま安全を確保しつつ進むこと数十分。俺たちは目的の場所に到着した。


「ここが、深層の『廃棄場』だよ」


 目の前に広がっていたのは、上層のゴミ山とは比較にならないほど広大な、ガラクタの海だった。

 かつて深層まで辿り着き、そして散っていった凄腕の探索者たちの遺品。強力な魔物との戦闘で無惨に砕け散った高ランクの武具たちが、山のように積み重なっている。


「よし……やるか」


 俺はヘルメットのバイザー越しに、右目に意識を集中させ、『真贋鑑定(しんがんかんてい)』を発動した。


 ――ブォン。


 途端に、視界が情報の奔流に包まれる。

 さすがは深層。上層とは違い、レアリティの高い素材や、欠損しているが強力な武具がゴロゴロと眠っている。まさに宝の山だ。


 だが、俺が探しているのはただの高額商品ではない。

 セイラを納得させるだけの《《特別な一品》》だ。


 つい片っ端から持って帰りたくなる衝動を抑え込みながら、何かよさげなものはないかと探していく。


「……お?」


 ゴミ山を漁っていた俺の手が、あるアイテムで止まった。

 泥の中に半分埋まっていた、ひび割れたチョーカー。薄汚れてはいるが宝石が埋め込まれている。


====================

【名称】星霊のチョーカー(汚)

【ランク】伝説級

【真価】装備者の肉体的・精神的疲労を常時自動回復する。

【修復条件】魔力を込めた液体での洗浄と、天日干しによる浄化。


(疲労の自動回復……これだ!)


 俺がここぞとばかりにチョーカーを拾い上げようとしたその時。


 チョーカーのすぐそばに落ちていた、黒ずんだ「種」のようなものに目がいった。



====================

【名称】服従の種(未消費)

【ランク】危険物(測定不能)

【真価】条件を満たすことで、対象と絶対的な主従関係を結ぶ使い捨てアイテム。

【発動条件】

 1.対象と会う直前にこの種を飲み込む(この種を飲み込んでから最初に会った人物が対象となる)。

 2.対象に特定の3つの動作(握手、名前を呼ぶ、頷く)を行わせる。

 3.以上の過程を、一切の不審を抱かれずに完遂すること。

【リスク】途中で意図を見破られた場合、使用者は自身の『メインスキル』を永久に喪失する。


「……ッ!」


 俺は息を呑んだ。

 リスクはとてつもなく高い。もしバレたら、俺は一生『真贋鑑定』を使えなくなる。

 だが、成功すれば、酒井 凛というリスクを完全に排除する切り札になる。

 俺は迷わず、その黒い種を小袋に入れてポケットに隠した。


「透さん、どう? 何か良いもの見つかった?」


 魔物の警戒に当たっていたセイラが近づいてくる。

 『星霊のチョーカー』を彼女に差し出した。


「はい、これを。疲労を常時回復してくれるアーティファクトです。魔力を込めた水で洗って日光にしばらく当てると使えるようになるみたいです」


「簡単に治るんだね……でも疲労回復?」


 セイラは不思議そうに瞬きをした。


「武器や防具じゃないんだ。どうしてこれを選んだの?」


「貴女は日本最強の探索者です。でも、テレビをつければいつも遠征や取材に追われていて、休む暇もないんじゃないかと思って」


 俺は素直な思いを口にした。


「最強の矛と盾はもう渡しました。だから次は、貴女自身を癒やすものが必要だと思ったんです」


「透さん……へえ」


 セイラは少しだけ目を見開き、それから、ふっと優しく微笑んだ。

 張り詰めていた威圧感が消え、毒気の抜けた表情になる。


「君のこと、ちょっと誤解してたかも。うん、ごーかく! 大切に使うね」


 そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。どうやらお眼鏡にかなったようだ。


「ありがとうございます。修復が終わり次第、郵送しますね」


「ありがと。まあ、それはそれとして……で? さっきからポケットに隠してる《《そっち》》は、何を見つけたの?」


 セイラは俺のポケットの膨らみに視線を落として問いかけてくる。


「分かりますか。流石ですね……別に隠すつもりはなかったんですけど」


 隠す意味もないので、俺は正直に答えることにした。


「こっちは、凛に対する最終手段です。できれば使いたくないですが、俺のスキルを失うリスクを賭けてでも、相手を完全に縛り付けるためのアイテムです」


「……自分の身は自分で守る算段をしてるのはいいけど、スキルをかけるのは歓迎できないなあ」


「あくまで切り札です。使わなくて済むならそのほうがいいです」


「はぁ……まあいいや、君には君の考えがあるんだろうから。私が口出すとこじゃないよね」


 セイラは深い溜息を吐きながらもこれ以上追及してくるつもりはないようだ。

 こちらに任せてくれるということなのだろう。


 なんにせよ、思いがけないカードが手に入った。

 アイツとの交渉は、絶対に負けない。


「じゃ、行こうか!」


 俺が内心で決意を固めていた時。

 ふとセイラが、俺の腕をガシッと掴んだ。


「へ?」


「透さんは私の試験をクリアした。だから、約束通り《《今度は私の番》》だよね?」


「え、ちょっ、セイラさん!?」


「行くよ!!」


 彼女は俺の手を引いたまま、アイテム『帰還の結晶』を握りつぶした。

 視界が光に包まれ、次の瞬間、俺たちはダンジョンの入り口ゲートへと転送されていた。


 転送酔いでフラつく俺の目に飛び込んできたのは――


「い、出たぞ! 神宮寺セイラだ!!」


「今回の探索の成果について一言! 一言でいいのでお願い出来ないでしょうか!?」


「隣の不審な格好をしている方はどなたですか!? ついにパーティを組んだのですか!?」


 無数のカメラのフラッシュと、マイクを突きつけてくる大勢のマスコミの波だった。 


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