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第99話 迎撃

 アルプスの地下、分厚い氷河の下に隠されたエデン・グループの第一魔力吸引プラント。

 中央制御室のガラス越しに見える巨大なタービンは、その駆動音を悲鳴のような高音へと変え、逆流する黄金の魔力光をスイスの本社に向けて射出し続けていた。


「逆流、完全に安定軌道に乗ったわ。これで連中のメインサーバーは、今頃パンク寸前の過負荷で火を噴いているはずよ」


 コントロールパネルに滑らせていた指を止め、凛がふぅと深く息を吐き出した。額には薄っすらと汗が滲んでいるが、その表情にはかつてないほどの達成感と、彼女らしい不敵な笑みが宿っている。

 だが、安堵の時間は一瞬すら与えられなかった。


 ――ビィィィィィィン! ビィィィィィィン!


 制御室の天井に設置された赤い警告灯が、血の滴るような光を放ちながら激しく回転し始める。

 鼓膜を震わせるけたたましい侵入者排除のサイレンが、冷たいコンクリートの壁に反響して響き渡った。


「まあ、黙ってるわけはないわね。……どうやら、お出ましみたいよ」


 凛は素早くキーボードを叩き、監視カメラの映像をいくつかのマルチモニターに分割表示させた。

 画面に映し出されたのは、通路の奥から統制された動きで迫り来る、黒いタクティカルスーツを身に纏った私兵部隊。そして、その背後から無表情のまま銃器を構えて行進する、まったく同じ顔をした少女たちの集団だった。


「お父様が造り出した人造クローン兵……ほんっと、どこまでも……」


 セイラが、その碧眼に強い怒りと悲しみの光を灯し、腰の『エクスカリバー・アヴァロン』の柄にそっと手を添えた。


「フッ……実にもって無粋なオーケストラだ。だが、私の友人の美しい仕事を邪魔させるわけにはいかないからね。……シルヴィ、準備はいいかい?」


 シャルルが優雅な手つきで防寒コートを脱ぎ捨て、身軽なシャツ姿になる。その全身から、黄金色のオーラが陽炎のように立ち上り始めた。


「いつでもいけます、シャルル様。侵入者の排除、および情報の防衛を実行します」


 いつの間にかシャルルの影の中に溶け込んでいたシルヴィが、冷淡な声と共にその姿を現した。彼女の切れ長の瞳は、通路の暗闇を鋭く射抜いている。


「よし、みんな。ここからは総力戦だ。凛は制御室でシステムの監視と防衛を……他のみんなは、クローンの対応だ!」


 俺は一歩前に出ると、左手の指輪に意識を集中させた。  

 こういう時のために、完璧に修復し調整を終えた古代の遺物。


「――『変身』」


《古代魔導機装・アガートラーム、展開》


 シュイィィン!と清冽な青い光が全身を包み込み、漆黒と白金の流線型装甲が、寸分の狂いもなく俺の身体へと纏われていく。

 バイザーの内側に各種センサーの情報がリアルタイムで投影され、俺の感覚は限界以上に研ぎ澄まされた。


「行くぞ!」


 俺が叫ぶのと同時、通路の角から私兵部隊とクローン兵の集団が雪崩れ込んできた。

 クローン兵たちは、人間らしい躊躇を一切見せることなく、一斉に手にした魔導アサルトライフルをこちらに向けて構える。


「標的を確認。一斉射撃を開始する」


 無機質な、重なり合う少女たちの声。  直後、狭い通路を埋め尽くすほどの、青白く高密度に圧縮された魔力レーザーの雨が放たれた。


「トオル、ここは頼んだよ!」


「ああ、任せろ!」


 俺は地を蹴り、アガートラームのパワーアシストによって、弾幕の真っ只中へと割って入った。  両腕を交差させ、絶対装甲の盾を構える。


 ガガガガガガガガッ!!!


 激しい衝突音と、火花。  一発で鋼鉄を容易く消し飛ばす威力の魔力弾が、アガートラームの装甲に触れた瞬間、青い光の粒子となって霧散していく。

 衝撃波は内部の緩衝システムが完全に殺し尽くし、俺の肉体には微かな振動すら伝わってこない。


「びくともしないな……! さすがは神話級だ!」


『当然です、主様! その程度のブリキの玩具の弾幕など、ワタシたちの防壁の前には無力! さあ、今度はワタシたちからお礼をして差し上げましょう!』


「褒めたのはお前じゃないんだけど……まあいいや。頼りにしてる!」


『お任せあれ!!!!』


 俺の右手に握られたカリバーンが、嬉々として漆黒と白銀のオーラを放ち始める。


「シャルルさん、今だ!」


「美しきタイミングだね! では、私の舞を披露しよう!」


 俺の背後から、黄金の光を放ちながらシャルルが跳躍した。  彼は壁を踏み台にし、狭い通路の天井近くを燕のように滑らかに滑空する。


「美の烈脚ラファール・ドゥ・ボーテ!!」


 空中で体勢を捻り、放たれたのは、嵐のような連続蹴り。

 彼の鍛え抜かれた脚から放たれる黄金の斬撃波が、私兵部隊の防盾をいとも容易く紙クズのように切り裂き、クローン兵たちを後方へと吹き飛ばしていった。



「……影よ」


 混乱する敵の足元から、今度はシルヴィが動いた。  倒れた私兵やクローン兵たちの影が、不自然に波打ち、鋭い黒い棘となって下から一斉に突き上げる。


 ズバズバズバッ!


 影の棘に貫かれたクローン兵たちは、痛みを感じないまま、ただの壊れた機械のように「システムエラー。魔力供給の遮断を確認」とシステム音を口にしながら、静かに崩れ落ちていく。


「じゃあ、残りは私任せて!!」


 セイラが『エクスカリバー・アヴァロン』を上段に構えた。

 創世級の真の力が解放された聖剣から、広間全体を白一色に染め上げるほどの、圧倒的な神聖なる光が溢れ出す。


「はぁぁぁぁッ!!」


 振り下ろされた白銀の刃。

 光の刃は、通路の壁や天井を傷つけることなく、残存していたクローン兵たちの魔導武器と防御障壁だけを正確に、そして分子レベルで消滅させた。

 音すらない、完全なる絶対切断。


「……ふう。片付いた、かな」


 セイラが剣を鞘に収め、軽く息を吐き微笑んだ。  

 通路には、完全に戦闘能力を奪われ、気絶した私兵と、機能停止したクローン兵の抜け殻だけが残されている。

 俺たちの完璧な連携。神話級、創世級の装備を揃えた今の俺たちにとって、量産型の私兵やドールなど、もはや脅威ではなかった。


 だが。


 ――カツ、カツ、カツ。


 静まり返った通路の奥から、不自然なほど静かで、しかし、大理石の床を深く踏みしめるような重い足音が響いてきた。


「……っ!」


 セイラがビクッと肩を震わせ、今引いたばかりの聖剣の柄に、再び手をかけた。

 俺の右目の『真贋鑑定』が、通路の曲がり角の奥から、心臓を直接握り潰されるような、悍ましい魔力の気配を感知する。

 アガートラームのバイザーに表示される警告エラーが、激しく明滅し始めた。


 現れたのは、漆黒の軍服を身に纏い、血のように赤い髪を揺らす、一人の少女。  

 セイラと全く同じ、美しくも無機質な顔立ち。

 だが、その瞳は光を吸い込むように濁った、深い赤色だった。


「……オリジナル、およびMaster_Eyeを確認。……確保を開始する」


 セイラの完璧なクローン体、ノア。  

 彼女の出現により、空気の温度が急速に下がり、通路全体に濃密な殺気が満ちていった。


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― 新着の感想 ―
人間は道具を使えてナンボなんよ。 神話級、創生級アイテムを凌駕するキメラを、人間如きが創り出せるとは思えんのだがね。
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