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初恋の先輩と再会したら、同期に好きだと言われました 〜あの日のミサンガがほどけない〜  作者: 黒猫と珈琲


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番外編  娘が生まれて、少しだけ嫉妬しています

娘が生まれて、三か月が過ぎた。

白石愛香の生活は、すっかり変わっていた。


夜中の授乳で何度も起きて、

朝は泣き声で目を覚ます。

小さな手。やわらかい頬。

ふにゃりと笑うだけで、全部が報われる。


「……かわいい」

思わず呟くと、腕の中の娘が小さくあくびをする。


「完全に親バカですね」


背後から、落ち着いた声。


振り向くと、黒崎慧吾が立っていた。

黒のルームウェア姿。

寝起きなのに、やっぱり整っている。


「だって可愛いんだもん」


「それは否定しません」


そう言いながら、そっと覗き込む。


「……似てますね」


「どっちに?」


少し考えてから、


「愛香さんに」


その答えに、少しだけ安心する。


「よかった」


「なぜですか」


「慧吾くんに似たら、無表情すぎるでしょ」


「失礼ですね」


言いながらも、口元がわずかに緩んでいる。


娘が小さく泣き出す。


「あ、ごめんね」


慌てて抱き上げると、すぐに腕の中で落ち着く。


その様子を、黒崎は静かに見ていた。


ほんの少しだけ、視線が長い。


「……どうしたの?」


「いえ」


そう言って、キッチンへ向かう。


コーヒーを淹れる音がする。


いつもと同じ朝のはずなのに、

どこかだけ、少し違う。


昼間。

リビングで娘をあやしていると、黒崎がソファに座った。


「抱きますか?」


「……はい」


差し出すと、少しぎこちない手つきで受け取る。


まだ慣れていない。

でも、丁寧に、大事に抱いているのがわかる。


「ほら」


小さく声をかける。


娘はじっと黒崎の顔を見つめて、

それから、ふにゃりと笑った。


その瞬間。


黒崎の表情が、わずかに崩れる。


「……今、笑いました」


「うん」


「完全に」


「うん」


「俺に」


「そうだね」


少しだけ、誇らしそうな顔。


でも次の瞬間。


「……最近、俺にあまり構ってくれません」


ぽつりと落ちた一言に、思わず固まる。


「え?」


「事実です」


真顔だった。


「娘が優先されているのは理解しています」


「そりゃそうでしょ」


「理解はしていますが」


少しだけ間があく。


「納得はしていません」


「……なにそれ」


思わず笑ってしまう。


黒崎は少しだけ視線を逸らす。


「抱っこしている時間も、話しかける頻度も」


「細かいなあ」


「データとして取れます」


「取らなくていい」


でも、その言い方がどこか拗ねていて。


「慧吾くん」


名前を呼ぶ。


「はい」


「嫉妬してるの?」


少しの沈黙。


それから、静かに。


「……かなり」


即答だった。


「娘に?」


「はい」


真面目に頷く。


「やばいよ、それ」


「自覚はあります」


それでも視線は真剣だった。


「愛香さんを取られている感覚があります」


その言葉に、胸が少しだけきゅっとなる。


「取られてないよ」


そっと隣に座る。


「増えただけ」


そう言って、黒崎の肩に寄りかかる。


娘はその腕の中で、安心したように眠り始めていた。


「ほら」


「……はい」


「この子も好きだけど」


少しだけ顔を上げる。


「慧吾くんのことも、ちゃんと好きだよ」


まっすぐ伝える。


黒崎の目が、わずかに揺れる。


「順位は?」


「ないよ」


「同率ですか」


「家族ってそういうものでしょ」


しばらく考えてから、小さく息を吐く。


「……納得しました」


「ほんとに?」


「完全ではありませんが」


「まだあるんだ」


「少しだけ」


その言い方に、また笑ってしまう。


夜。

娘を寝かしつけて、ようやく一息つく。


ソファに座ると、黒崎が隣に来る。


そして、何も言わずに腕を広げる。


「なに?」


「来てください」


「久しぶりだね、それ」


少し笑いながら、その中に収まる。


すぐに、静かに抱き寄せられる。


「……足りません」


「なにが?」


「これです」


少しだけ力が強くなる。


ああ、と思う。


(この人、ほんとに変わらない)


父親になっても。


静かで、不器用で、

そして少しだけ重い。


でも。


それが、ちゃんと愛だとわかる。


「慧吾くん」


「はい」


「パパなのに嫉妬してるの、ちょっと面白い」


「やめてください」


珍しく即答。


そのまま、額に軽くキスが落ちる。


「夫でもあるので」


低く、当たり前みたいに言う。

その言葉に、胸があたたかくなる。

隣のベビーベッドから、小さな寝息が聞こえる。


静かな夜。


三人で過ごす、あたらしい日常。

その中心で、黒崎慧吾はきっとこれからも——

少しだけ嫉妬しながら、

ちゃんと全部を大切にしていく。

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