表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋の先輩と再会したら、同期に好きだと言われました 〜あの日のミサンガがほどけない〜  作者: 黒猫と珈琲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/37

番外編  かなり、結婚してください

同棲を始めて一年。

白石愛香は、十分すぎるほど幸せだった。


朝は一緒に起きて、

夜は同じ家に帰って、

休日はソファでくっついて映画を見る。

黒崎慧吾は相変わらず静かで、少し嫉妬深くて、かなり優しい。

だからこそ、愛香は最近少しだけ不思議に思っていた。


(なんか最近、そわそわしてる?)


きっかけは小さな違和感だった。

スマホを見て慌てて伏せる。

休日に一人で出かける。

書斎にこもる時間が増える。


「……怪しい」


ソファで呟くと、森下千鶴が電話越しに笑った。


『あんたそれ、浮気疑ってる嫁みたいよ』


「いやでも、絶対何か隠してるんです」


『黒崎慧吾が?器用に浮気できると思う?』


「……できない気がする」


『でしょ。あいつ一人でテンパってるだけよ』


妙に納得した。


----


その土曜日。


「今日、少し出かけませんか」


珍しく慧吾の方から誘ってきた。


「いいよ。どこ?」


「内緒です」


「え、怖い」


「怖くないです」


でもネクタイまで締めている。


明らかに気合いが入っていた。


----


連れて行かれたのは、海の見えるホテルのレストランだった。

窓一面に夕焼けが広がっている。


「すごい……」


「来てみたかったので」


「私も」


料理も美味しく、会話も穏やかだった。

でも、慧吾がずっと落ち着かない。

水を三回飲み、ナイフを持ち直し、ブラックコーヒーもいつもより減りが早い。


「……慧吾くん」


「はい」


「緊張してる?」


「してません」


即答。


「嘘」


「……かなりしてます」


正直だった。


食事のあと、ホテルの屋上テラスへ案内される。

夜景が広がり、風がやさしく吹く。

人も少ない。

愛香はそこで確信した。


(これ、もしかして……)


隣を見ると、慧吾がまっすぐ前を見ている。

手が少し震えていた。



「愛香さん」


名前を呼ばれる。

いつもより低く、慎重な声。


「うん」


「少し、聞いてください」


「うん」


彼は深く息を吸った。


「初めて会った時、正直、ここまで好きになると思ってませんでした」


愛香の胸が熱くなる。



「静かに一人で生きていくタイプだと思ってました」


「自分で言うんだ」


「事実です」


少しだけ笑って、また真面目な顔に戻る。


「でも、愛香さんに会って変わりました」


一歩、こちらへ向く。


「毎日会いたいと思って、嫉妬して、眠れなくなって」


「うん」


「一緒に住んだら、もっと好きになりました」


喉が詰まりそうになる。


そして彼はポケットから小さな箱を取り出した。

開くと、繊細なリングが光る。


慧吾が片膝をつく。


「……えっ」


愛香の目に涙が滲む。


「白石愛香さん」


そのフルネームの呼び方が、ずるいほど真剣だった。


「かなり、結婚してください」


涙と笑いが同時にこみ上げる。


「かなりって何……!」


「最大級です」


真顔だった。

でも耳が真っ赤だった。


「……はい」


言った瞬間、慧吾が固まる。


「……本当ですか」


「うん」


「取り消し不可です」


「しないよ」


「……無理」


額を押さえる、いつもの癖。

愛香は泣きながら笑った。


「また?」


「嬉しすぎます」


指にリングをはめてもらう。

少し震える手。


「サイズ、大丈夫?」


「かなり調べました」


「いつの間に!?」


「寝てる間に」


「怖い怖い!」


でも、その不器用な努力が愛しかった。


次の瞬間、抱きしめられる。

強く、でもやさしく。


「幸せにします」


耳元で囁かれる。

愛香も彼の背中に腕を回した。


「もう十分幸せだよ」


「まだ足りません」


「欲張り」


「愛香さん相手だとそうなります」


何度聞いたかわからない言葉。

でも今日が、一番胸に響いた。


----


帰り道。

つないだ手には、指輪が光っていた。


ブラックコーヒーの彼氏と、カフェラテ好きの彼女。

違う二人が出会って、

恋をして、

同じ未来を選んだ。


そしてこれから先も、きっと。

少し嫉妬して、

たくさん笑って、

変わらず手をつないで歩いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ