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初恋の先輩と再会したら、同期に好きだと言われました 〜あの日のミサンガがほどけない〜  作者: 黒猫と珈琲


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番外編 朝から彼氏の独占欲が重い

同棲を始めて、一か月。


白石愛香は、毎朝少しだけ困っていた。

そして同じくらい、幸せだった。


「……愛香さん」


まだ薄暗い寝室。

カーテンの隙間から、かすかな朝の光が差し込んでいる。

肩に触れる手は、いつも通り静かで、やさしい。


「ん……なに……」


眠気の残る声で返すと、


「七時です」


落ち着いた声が返ってくる。


「あと五分……」


そう言って、ふわりと布団に潜り込もうとした瞬間。

腰を引き寄せられた。


「だめです」


「なんでぇ……」


「起きないと遅刻します」


そう言いながら、腕は離れない。

むしろ少しだけ強くなる。


「離してくれたら起きるよ」


「信用してません」


「ひどい」


「実績があります」


真顔だった。

無駄に説得力がある。


結局そのまま、しばらく抱きしめられる。

黒崎の胸に頬を押しつけたまま、ぼんやりする時間。

規則正しい鼓動と、落ち着いた体温。

それだけで、また眠くなる。


(これ、ずるい……)


ようやく解放されて洗面所へ向かう。

鏡の中には、寝癖の残った自分。

ミディアムの茶色い髪がふわりと広がっている。

頬は少し赤い。


歯を磨きながら、リビングをちらりと見る。


黒崎はキッチンに立っていた。

黒のスウェットに、白いTシャツ。

寝起きのはずなのに、どこか整っている。

無駄のない動きでコーヒーを淹れて、トーストを焼く。


(……なんでこんなに格好いいの)


生活感があるはずなのに、崩れない。

むしろ近くで見るほど、静かな色気が増す。


「はい、カフェラテ」


差し出されたカップから、やわらかい香りが立つ。


「ありがとう」


「砂糖少なめにしました」


「完璧すぎる」


「同棲して学習しました」


淡々とした言い方なのに、少しだけ誇らしそうに見える。

その微妙な変化が、愛香にはわかる。


朝食をとりながら、スマホを見ていると、

会社のグループチャットに新入社員の写真が上がっていた。


「へえ、新人の子、爽やかだね」


何気なく言った一言。


カチャ、と小さな音がした。


黒崎がカップを置く。


「……そうですか」


「え?」


「爽やかですか」


声はいつも通り。

でも、空気がほんの少しだけ冷える。


(来た)


「慧吾くん」


「なんですか」


「嫉妬してる?」


「してません」


即答。


「嘘」


一瞬だけ間があって。


「……少しだけです」


正直だった。


「新人くんに?」


「“爽やか”が引っかかりました」


「そこ!?」


思わず笑ってしまう。


黒崎はブラックコーヒーを一口飲んで、静かに言う。


「俺には最近、その評価がないので」


「あるよ」


「聞いてません」


「毎日思ってる」


「言ってください」


「めんどくさい彼氏だなあ」


「自覚あります」


淡々としているのに、ちゃんと拗ねている。

そのギャップが、どうしようもなく愛おしい。


出勤前。

玄関でパンプスを履いていると、背後から腕が回る。


「……重い」


「朝の補給です」


「なにそれ」


「仕事中、触れられないので」


首元に、静かに額が触れる。

強くはない。

でも逃がさない温度。


(大型犬みたい……)


「遅刻するよ?」


「あと三十秒」


「細かい」


「事実です」


ようやく離れたかと思うと、今度はコートの襟を整えられる。


「寒いのでマフラーしてください」


「はいはい」


「帰り、迎えに行きます」


「いいよ、近いし」


「行きます」


「なんで」


少しだけ沈黙。


そして、低く言う。


「新人、見たいので」


「ただの監視じゃん!」


会社では、いつも通りの黒崎慧吾。

無駄がなく、静かで、隙がない。


でも家に帰ると違う。


夜。

ソファでテレビを見ていると、隣に座った黒崎が何も言わず腕を広げる。


「なに?」


「来てください」


「命令形」


「……お願いです」


少しだけ間を置いて言い直すところがずるい。


愛香が笑いながら収まると、すぐに抱き寄せられる。


「慧吾くん、今日どうだった?」


「愛香さんが新人に爽やかって言ったの聞こえました」


「言ってないよ!」


「聞こえました」


「怖い怖い」


そのまま、静かに髪を撫でられる。

やさしくて、落ち着く手つき。


「慧吾くん」


「はい」


「朝から嫉妬して、夜も独占して、重くない?」


黒崎は少し考えてから、答える。


「かなり重いと思います」


「認めた」


「でも」


腕の力が、少しだけ強くなる。


「愛香さん相手だと、軽くできません」


胸がきゅっとなる。


「……ずるい」


「本音です」


そのまま、頬にキスが落ちる。

やわらかく、短く。


一度だけかと思えば、もう一度。


「ちょっと、明日仕事」


「知ってます」


「寝る時間」


「あと少し」


「朝も補給したよね」


「足りません」


真顔だった。


同棲してわかったことがある。


静かな彼氏は、家ではかなり甘い。


そして――


独占欲も、想像以上に深かった。

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