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初恋の先輩と再会したら、同期に好きだと言われました 〜あの日のミサンガがほどけない〜  作者: 黒猫と珈琲


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番外編 初めて嫉妬で眠れなかった夜(慧吾視点)

白石愛香に彼氏ができたらしい。


その情報を聞いた瞬間、黒崎慧吾は手を止めた。


「……誰情報ですか」


会社の給湯室。

森下千鶴がカップ麺を持ったまま答える。


「嘘よ」


「……」


「顔怖っ」


佐々木望が笑いを堪えていた。


「いやでも、そのくらい動揺するってことだろ?」


慧吾は無言でブラックコーヒーを一口飲んだ。

苦い。

いつもよりかなり苦い。


その日の夕方。

愛香が営業部の若手・田辺と話していた。

楽しそうに笑っている。

それだけだった。

本当に、それだけ。


なのに仕事が手につかない。

資料の数字を二度見し、

メールの宛先を間違えかけ、

佐々木に「珍しいな」と言われた。


(意味がわからない)


ただ同僚と話しているだけだ。

白石愛香には、誰と話す自由もある。

自分は彼氏でも何でもない。

そう、まだこの時は。

なのに。

笑っている顔を、他人に向けているのが面白くなかった。


帰宅後。

シャワーを浴びても落ち着かない。

パソコンを開いても集中できない。


スマホを見る。

愛香とのやり取り画面。


**今日はお疲れさまでした。**


数時間前に送られたメッセージ。

返信はした。


**お疲れさまです。帰れましたか。**


普通だ。

かなり普通。

もっと何か言いたかった気がする。

でも何を言えばいいかわからない。


ベッドに入っても眠れない。

頭に浮かぶのは、昼間の笑顔。

田辺に向けられた笑顔。


(……子どもか)


自分で自分に呆れる。

二十五にもなって、こんなことで寝不足になるのか。


だが、もっと嫌だったのは別の事実だった。

もし彼女に本当に彼氏ができたら。

もし別の男が、あの笑顔を独占したら。

想像しただけで、胸の奥が重くなる。


そこでようやく気づいた。

ああ、これは——

嫉妬だ。


午前二時。

眠れないまま起き上がる。

ブラックコーヒーを淹れて、一口飲む。


選択ミスだった。

さらに眠れなくなった。


「……何してるんだ」


小さく呟く。


でも答えはわかっていた。


白石愛香が好きだ。

それもかなり前から。


----


翌朝。

目の下に薄くクマを作ったまま出社すると、森下千鶴が一目で笑った。


「寝てないでしょ」


「少しだけです」


「何時間?」


「二時間半」

「うわ、重症」


佐々木が肩を震わせる。


「黒崎、恋すると人間になるんだな」


「意味がわかりません」


「わかってる顔だよ、それ」


その日の昼休み。


給湯室で愛香と二人きりになった。

彼女はいつも通りカフェラテを作っている。


「黒崎くん、眠そうだね」


すぐ気づく。


こういうところがだめだ。

やさしい。


「少しだけです」


「昨日忙しかった?」


「……いえ」


「じゃあ何で?」


まっすぐ見上げてくる。

そこで言えるわけがない。


あなたが他の男に笑っているのを思い出して眠れませんでした、なんて。

だから慧吾は静かに答えた。


「コーヒー飲みすぎました」


「またブラック?」


「信頼と実績です」


愛香が笑う。

その笑顔が、自分に向けられているだけで少し救われた。


その日の帰り道。


駅まで一緒に歩く流れになった。


人混みの中、少しだけ肩が触れる距離。

愛香が言う。


「今日、元気ない?」


「普通です」


「嘘」


「……少し寝不足です」


「ちゃんと寝てよ」


困ったように眉を下げる。


その顔を見て、もう無理だと思った。

このまま同僚のままなんて無理だ。

他の誰かに取られる想像をして、眠れなくなるくらいには。


信号待ちで立ち止まる。

慧吾は息を吐いた。


「白石さん」


「うん?」


「今度、休みの日に会えますか」


彼女が目を丸くする。


「え?」


「……二人で」


数秒の沈黙。

長い。

かなり長い。

やがて愛香は、ふわっと笑った。


「うん、いいよ」


その瞬間、昨夜失った睡眠時間なんてどうでもよくなった。


あの日が、始まりだった。

初めて嫉妬で眠れなかった夜。


そして初めて、

この人を手放したくないと認めた夜。

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