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初恋の先輩と再会したら、同期に好きだと言われました 〜あの日のミサンガがほどけない〜  作者: 黒猫と珈琲


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ifルート★黒崎慧吾編 最終章

春が来ていた。


駅前の並木道に、やわらかな風が吹く。

白石愛香は、いつもの待ち合わせ場所で立ち止まり、ふと笑った。

少し前まで、この場所で待つ時間は緊張ばかりだった。


今日の服、変じゃないかな。

ちゃんと可愛く見えるかな。

会ったら何を話そう。


そんなことばかり考えていた。

でも今は違う。

ただ、会えることが嬉しい。


「お待たせしました」


振り向くと、黒崎慧吾がいた。


ネイビーのシャツにジャケット。相変わらず整った姿。

けれど以前より、ほんの少しだけ表情がやわらかい。


「全然待ってないよ」


「三分待ちました」


「細かいなあ」


「事実です」


そう言って、自然に手を差し出す。

愛香も迷わず、その手を取った。


初めてつないだ時のぎこちなさは、もうない。

今は当たり前みたいに、指が絡む。

その瞬間、慧吾の手にわずかに力がこもった。


「……今日、人多いですね」


「うん、土日だしね」


「はぐれないように」


そう言って、少しだけ強く握られる。

理由はそれだけじゃないと、もうわかる。

愛香は小さく笑った。


今日は少し遠くの公園へ出かける予定だった。

途中のコンビニで飲み物を買う。


「はい、カフェラテ」


「ありがとう。慧吾くんは?」


「ブラックです」


「やっぱり」


「信念なので」


「まだ言うんだ」


笑い合う。

そのあと、何気なく通り過ぎようとした瞬間、

すれ違った男性の視線が愛香に向いた。


ほんの一瞬のことだった。

けれど次の瞬間、慧吾の手が少し強く引いた。


「……行きましょう」


「え?うん」


歩くペースが、ほんの少しだけ早くなる。

その横顔はいつも通り無表情なのに、

耳だけが少し赤い。


(……これ)


愛香は心の中で笑う。


公園のベンチに並んで座る。


桜は散り始め、花びらが静かに落ちてくる。


一枚、愛香の肩に乗る。


慧吾がそれを指先でそっと取った。


「……なんか」


愛香が呟く。


「ん?」


「幸せだなあって思った」


少しの沈黙。

それから、慧吾は静かに言う。


「俺は、かなり前から思ってます」


「またその“かなり”」


「便利なので」


「認めた」


二人で笑う。


風が少し強くなる。

愛香が肩をすくめると、慧吾が自分のジャケットをかけた。


「またそれ」


「寒そうなので」


「慧吾くん寒いでしょ」


「平気です」


少しだけ間を置いて、続ける。


「愛香さんの方が大事です」


さらっと言われて、愛香は固まる。


「……そういうの、急に言うの反則」


「本音です」


真顔だった。

でもそのあと、少しだけ視線を逸らす。


「……あと」


「ん?」


「他の人に見られるのも、あまり好きじゃないので」


「え?」


「その方が安心です」


ジャケットを軽く引き寄せられる。

完全に囲い込まれる形だった。


「それ、独占じゃない?」


「はい」


否定しない。


「彼氏なので」


あまりにも自然に言われて、愛香の顔が一気に熱くなる。


しばらく、静かな時間が流れる。

風の音と、遠くの子どもたちの声だけが聞こえる。

その穏やかな空気の中で、慧吾がふいに口を開いた。


「愛香さん」


「うん?」


「そろそろ一つ、提案があります」


少しだけ珍しい言い方だった。

彼は姿勢を正し、まっすぐこちらを見る。


「将来的に」


「う、うん」


「一緒に住みませんか」


思考が止まる。


「……え?」


「もちろん今すぐではなく、準備してから」


「え、え、ちょっと待って」


「待ちます」


「落ち着いてるのずるい!」


「内心かなり緊張してます」


耳だけ赤い。


愛香は胸に手を当てる。

心臓が速い。

でも、不思議と怖くはない。

思い浮かぶのは、未来の景色。


朝、ブラックコーヒーを淹れる彼。

隣でカフェラテを飲む自分。

くだらない会話。

たまに嫉妬されて、少し困って、でも嬉しくて。

夜はソファで寄り添う。


そのすべてが、自然に思い描ける。


「……うん」


慧吾が目を見開く。


「本当ですか」


「うん。一緒に暮らしたい」


数秒、完全に固まる。

そして額を押さえた。


「……無理」

「また?」


「嬉しすぎます」


次の瞬間、抱きしめられる。

今までより少しだけ強く、

でも壊さないように大切に。


「大事にします」


耳元で落ちる声は、静かで、まっすぐだった。


「……もう十分大事にされてるよ」


「まだ足りません」


「欲張り」


「愛香さん相手だと、そうなります」


そして、少しだけ間を置いて。


「全部、俺の隣にいてください」


その言い方は、お願いにも、宣言にも聞こえた。


帰り道。

つないだ手は、最初の頃よりずっと自然で、

そして少しだけ強くなっていた。

途中、愛香が少しだけ手を離そうとすると、


「……離さないでください」


すぐに引き戻される。


「え、なんで」


「さっきみたいに見られるので」


「まだ気にしてたの?」


「かなり」


思わず笑う。


ブラックコーヒーの彼氏と、カフェラテ好きの彼女。

違うようで、ちゃんと合う二人。


静かな彼氏と、よく笑う彼女。

あの日、偶然出会って始まった恋は、

これから先の未来へと続いていく。


きっと何年経っても。

たまに喧嘩して、

少し嫉妬して、

また笑って。


そして変わらず、手をつないで歩いていく。

その手は、もう簡単には離れない。


その隣には、いつも——

白石愛香を、誰よりも大切にする男がいる。


~完~

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