ifルート★黒崎慧吾編 第十一章
黒崎慧吾の部屋に行ってから一週間。
白石愛香は、ある変化を感じていた。
慧吾が——
さらに甘くなった。
朝のメッセージは毎日。
起きましたか。
今日は寒いので厚着してください。
会いたいです。
最後の一文だけ破壊力がおかしい。
(なんでこんな自然に言えるの……)
いや、自然ではない。
たぶん勇気を出して送っている。
そう思うと、余計に胸が熱くなる。
土曜日。
再び慧吾の部屋へ行く日だった。
インターホンを押すと、すぐにドアが開く。
「こんにちは」
「こんにちは」
「……来てくれてよかった」
「え?」
「来ないかもしれないと少し不安でした」
「なんで!?」
「前回、少し理性が危なかったので」
真顔だった。
愛香は笑いながら部屋へ入る。
今日は部屋着姿の慧吾だった。
黒のロンTにスウェット。
ラフなのに格好いいのが腹立たしい。
「なんか新鮮」
「何がですか」
「家の慧吾くん」
一瞬固まり、視線を逸らす。
「……その言い方、弱いです」
「え?」
「家の、ってところ」
可愛い。
ソファで並んで映画を見る。
前回より距離が近い。
というより、最初から肩が触れている。
「慧吾くん」
「はい」
「近くない?」
「そうですか」
「そうだよ」
「学習しました」
「何を」
「離れてると、足りないです」
心臓が跳ねる。
最近この人、言葉が強い。
しばらくして、愛香がポップコーンを取ろうとした時。
同じタイミングで慧吾の手と触れた。
「あ、ごめ……」
その手首を、そっと掴まれる。
「……慧吾くん?」
「白石さん」
低い声。
映画の音だけが流れている。
「前から思ってたんですけど」
「う、うん」
「触れるたび、毎回こんな顔しますよね」
「ど、どんな顔」
「可愛い顔です」
耳まで熱くなる。
「やめて……」
「無理です」
そのまま手を引かれ、気づけば体が慧吾の方へ傾く。
「……また理性危ない?」
小さく聞くと、彼は数秒黙った。
「かなり」
「便利だね」
「今日も本音です」
そう言って、ゆっくり抱き寄せられる。
ソファの背にもたれた愛香の前に、慧吾が覆いかぶさるような体勢になる。
近い。近すぎる。
「ちょ、ちょっと待って」
「待ってます」
「全然待ってない」
少し笑う声。
でも目は笑っていない。
真剣で、熱っぽい。
「白石さん」
「うん……」
「今日、すごく可愛いです」
「急に言わないで」
「ずっと思ってました」
頬にキス。
こめかみにキス。
そして唇へ、ゆっくり重なる。
いつもより深い。
息が乱れる。
愛香が彼の服をきゅっと掴むと、慧吾の喉が動いた。
「……それ、だめです」
「え?」
「余裕なくなるので」
もう遅い気がした。
何度もキスされる。
そのたびに少しずつ深くなる。
慧吾の手が背中を撫で、腰を引き寄せる。
「……っ、慧吾くん」
「はい」
「ちょっと……すごい」
「すみません」
口では謝るのに止まらない。
「止めますか」
「……止めなくていい」
言った瞬間、彼が固まった。
「……今、何て」
「聞こえてるでしょ」
「もう一回」
「やだ」
次の瞬間、抱きしめる力が強くなる。
「……無理」
「また?」
「嬉しすぎて、理性が回復しません」
愛香は笑いながら首元に顔を埋めた。
しばらくして落ち着くと、二人でソファにもたれて座った。慧吾が愛香の髪を整えながら呟く。
「……次から先に深呼吸してもらっていいですか」
「なんで」
「俺がもちません」
「知らないよ」
「俺もです」
その返しにまた笑ってしまう。
帰り際、玄関で靴を履いていると後ろから抱きしめられた。
「……慧吾くん?」
「帰ってほしくないです」
「また来週来るよ」
「来週、遠いです」
「子どもみたい」
「愛香さん相手だとそうなります」
振り向くと、少し困ったように笑っていた。
その顔が愛しくて、愛香から背伸びしてキスをした。
慧吾が完全に固まる。
「……それは反則です」
「お返し」
「今日は寝れないです」
ソファの上で、彼氏の余裕がなくなる。
でもその余裕のなさは、
愛されている証拠だった。




