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初恋の先輩と再会したら、同期に好きだと言われました 〜あの日のミサンガがほどけない〜  作者: 黒猫と珈琲


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ifルート★黒崎慧吾編 第十章

刈谷先輩との三人ご飯から数日。

白石愛香は、黒崎慧吾の様子が少し変わったことに気づいていた。


もともと優しい。

もともと気遣いも細やか。

でも今は、それに加えて——


距離が近い。


書類を渡す時、指先が触れる。

話しかける時、少しかがんで耳元で言う。

帰り道は必ず手をつなぐ。

そして何より、視線が甘い。


(……なんか、彼氏み強くなってる)


昼休み。

給湯室でカフェラテを作っていると、森下千鶴が現れた。


「最近どう?」


「な、何がですか」


「黒崎慧吾。あんたを見る目が完全に“囲い込み済み彼氏”なんだけど」


「そんな言い方あります?」


「あるのよ」


千鶴は笑いながら肩をすくめる。


「ライバル出現で火ついたんでしょ」


そこへタイミングよく慧吾が入ってくる。

ブラックコーヒー片手。


「何の話ですか」


千鶴が即答する。


「独占欲の話」


「先輩」


「事実です」


慧吾は一瞬黙り、愛香を見る。


「……否定はしません」


愛香のカフェラテが危うくこぼれそうになった。


-----


金曜の夜。


帰り道、駅前の信号待ち。

つないだ手が少し強く握られる。


「白石さん」


「うん?」


「明日、予定ありますか」


「午後なら空いてるよ」


「よかったです」


少し間があく。


「……うち、来ませんか」


愛香の思考が止まった。


「えっ」


「部屋です」


「知ってる!」


慧吾は真顔のまま続ける。


「嫌なら断ってください」


「嫌じゃないけど……!」


「なら来てください」


「言い方!」


でも耳は赤い。


その不器用さに、愛香の緊張が少しほどける。


「……行く」


慧吾が静かに息を吐いた。


「かなり嬉しいです」


-----


土曜日。


愛香は鏡の前で服を三回着替えた。


(彼氏の部屋って何!?)


気合い入れすぎても変。

ラフすぎても変。

結局、やわらかいニットとスカートに落ち着く。


待ち合わせ場所に行くと、慧吾はすでにいた。

黒のタートルネックにグレーのコート。


(……ずるい。格好いい)


「こんにちは」


「こんにちは……」


「また顔赤いです」


「今日は緊張してるの!」


「俺もです」


即答だった。

珍しく少し声が固い。


慧吾の部屋は、駅から少し歩いた静かなマンションだった。


エレベーターの中、二人とも妙に無口。

部屋の前で鍵を開けながら慧吾が言う。


「散らかってはいません」


「う、うん」


「でも落ち着かないかもしれません」


「なんで?」


「俺が」


ドアが開く。


愛香は思わず笑ってしまった。


部屋はとても慧吾らしかった。


白とグレーで統一されたシンプルな空間。

本棚にはIT関連の本と英語の本。

観葉植物が一つ。

無駄がない。


「すごい、きれい」


「昨日かなり掃除しました」


「やっぱり」


「三回しました」


「三回!?」


「緊張してたので」


愛香は声を立てて笑った。


ソファに座ると、慧吾がお茶を出してくれる。


「ブラックじゃないんだ」


「家でそれ出したら感じ悪いので」


「気にしてるんだ」


「します」


向かいに座った彼は、いつもより静かだった。

会社でも外でもない。

二人きりの密室。

意識しない方が無理だった。


「……ねえ」


愛香が小さく呼ぶ。


「なんですか」


「なんで今日、家に呼んだの?」


慧吾が少し黙る。


それから真っ直ぐこちらを見る。


「落ち着いて、一緒にいたかったからです」


胸が鳴る。


「外だと、一緒にいる時間が限られるので」


「……うん」


「あと」


珍しく言い淀む。


「誰にも邪魔されたくなかった」


刈谷先輩の顔が一瞬浮かぶ。

愛香はくすっと笑う。


「まだ気にしてるの?」


「かなり」


真顔だった。


ふと沈黙が落ちる。


静かな部屋。

近い距離。

慧吾が立ち上がり、愛香の隣へ座った。


「……近いね」


「はい」


「否定しないんだ」


「彼氏なので」


またそれだ。


笑った瞬間、手を取られる。


指先を絡められ、心臓が跳ねる。


「愛香さん」


名前で呼ばれる。

それだけで弱い。


「今日、来てくれてありがとうございます」


「……うん」


「すごく嬉しいです」


低く、やわらかい声。


そのまま頬に手が添えられる。


「キスしていいですか」


「……聞くんだ」


「大事なので」


「……うん」


唇が重なる。


外でする時より、ずっとゆっくりで深い。

ソファに沈み込みそうになるほど甘い。


離れたあと、慧吾が額を寄せる。


「……だめだ」


「え?」


「家だと、理性の難易度が高いです」


愛香は笑ってしまう。


「ゲームみたいに言わないで」


「かなり真剣です」


そのあと二人はソファで肩を寄せ合い、映画を一本観た。

でも内容はほとんど覚えていない。


途中で何度も手を握られ、

何度もキスされ、

そのたびに慧吾が照れていたから。


帰る頃、玄関で靴を履く愛香に彼が言う。


「また来てください」


「うん」


「次は、もっと平常心で迎えます」


「今日そんなに緊張してたの?」


「かなり」


「便利だね、その言葉」


「本音なので」


そして最後に、軽く額へキスを落とす。


「おやすみなさい」


愛香はその場で固まった。


(……この彼氏、強い)


彼氏が部屋に呼んだ理由は、

ただ一緒にいたかったから。


そのシンプルな想いが、何より愛しかった。

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