ifルート★黒崎慧吾編 第六章
付き合い始めて三日。
白石愛香は、ある事実に気づいていた。
黒崎慧吾は——
思っていたより、かなり彼氏だった。
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朝。
出社すると、デスクの上に小さな紙袋が置かれていた。
中を見ると、愛香が好きだと言っていた期間限定の焼き菓子。
付箋が一枚。
**昨日、駅で見つけました。朝食べてください。**
顔が熱くなる。
(なにこれ……彼氏すぎる……)
「白石さん」
背後から声がして飛び上がる。
振り向くと、慧吾がいつもの無表情で立っていた。
「おはようございます」
「お、おはよう……!」
「それ、朝食です」
「知ってるよ!」
「ならよかったです」
少しだけ口元が緩む。
朝から心臓に悪い。
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その様子を少し離れた席から見ていた森下千鶴が、佐々木望に肘打ちした。
「見た?」
「見た。あいつ、彼氏になった途端わかりやすすぎる」
「ブラック飲んでるくせに甘々じゃない」
「むしろ砂糖袋ごといってる」
二人はこそこそ笑った。
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昼休み。
愛香が給湯室でカフェラテを作っていると、営業部の若手社員・田辺が入ってきた。
「白石さん、この前の資料助かりました!」
「いえいえ、こちらこそ」
「今度お礼にランチでもどうです?」
軽い調子の誘いだった。
愛香が困って笑っていると、後ろから静かな声が落ちる。
「その件なら、来週まで田辺さん忙しいですよね」
振り返ると、慧吾がいた。
ブラックコーヒー片手に、いつもの顔。
田辺が固まる。
「あ、黒崎さん……」
「営業会議、追加されてましたよ」
「そ、そうでした!」
田辺はそそくさと出ていった。
愛香はぽかんとする。
「……今の、助けてくれた?」
「事実を伝えただけです」
「でもランチ誘われてたよ?」
「知ってます」
「……もしかして嫉妬?」
慧吾は一瞬だけ黙った。
「かなり」
真顔だった。
愛香は吹き出す。
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午後。
社内チャットが届く。
**終業後、少し時間ありますか。**
送り主:黒崎慧吾
愛香の心臓が跳ねる。
**あります。**
数秒後。
**よかったです。**
短い文字なのに、嬉しさがにじんでいた。
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仕事終わり。
会社近くの公園へ連れて行かれる。
ベンチに座ると、慧吾は珍しく少し落ち着かない様子だった。
「どうしたの?」
「確認です」
「また?」
「大事なので」
真剣な顔でこちらを見る。
「白石さんは、俺の彼女で合ってますよね」
「合ってるよ!」
「よかったです」
「なんで不安になるの」
「今日、田辺さんに笑ってたので」
「え、それだけ!?」
「それだけで十分です」
低い声に、愛香はまた笑ってしまう。
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すると慧吾がじっと見つめてきた。
「……笑ってる場合じゃないです」
「え?」
「俺、独占欲強いかもしれません」
風が止んだ気がした。
「今まで自覚なかったですけど」
一歩近づく。
「白石さんが他の人と話してるだけで、気になります」
近い。
静かなのに、圧がある。
「どうしようもなく」
愛香の鼓動が速くなる。
「……どうしたいの?」
小さく聞くと、慧吾は少しだけ目を伏せた。
「できれば」
そのまま愛香の手を取る。
「俺だけ見ててほしいです」
反則だった。
こんなの、誰が断れるの。
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「……慧吾くん」
「はい」
「それ、ずるい」
「知ってます」
「最近、ずるいよね」
「彼氏になったので」
さらっと言われ、愛香は赤くなる。
「あと」
「え?まだあるの?」
「あります」
手を引かれ、ふわっと肩を抱き寄せられる。
「人前であまり他の男に笑わないでください」
「なんで!」
「俺が困るので」
「子どもみたい」
「白石さん相手だと、そうなるみたいです」
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そのまま腕の中に収められる。
外なのに。公園なのに。
でも嫌じゃない。
むしろ、安心する。
「……慧吾くん」
「なんですか」
「私も、ちょっと独占したいかも」
ぴたりと動きが止まる。
「……もう一回言ってください」
「やだ」
「お願いします」
「やだ」
「愛香さん」
名前で呼ばれて、負けた。
「……慧吾くんが、他の女の人に優しいとやだ」
数秒の沈黙。
次の瞬間、ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。
「……無理」
「え?」
「嬉しすぎて、また無理です」
愛香は声を立てて笑った。
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帰り道。
つないだ手は、前より少し強く握られていた。
初めての彼氏は、静かで優しくて、少し嫉妬深い。
でもその全部が、たまらなく愛しかった。




