表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/31

ifルート★黒崎慧吾編 第四章

土曜日。


白石愛香はクローゼットの前で三十分悩んでいた。


「……なんでこんな緊張するの」


相手は黒崎慧吾。

会社で毎日会っている人だ。


なのに今日は違う。


**休日のデート** だから。


しかも前回の帰り道で抱きしめられてから、愛香の中で何かが完全に変わってしまった。


安心する人。

落ち着く人。


そう思っていたのに、今は一番どきどきする人になっている。


---


待ち合わせ場所の駅前に着くと、慧吾はすでにいた。


白シャツに黒のジャケット。

細身のパンツ。

シンプルなのに、異様に似合っている。


(……格好いい)


思わず立ち止まる。


慧吾が気づいて近づいてきた。


「おはようございます」


「お、おはよう」


「どうしました」


「なんでもない」


「顔赤いです」


「なんでもないってば!」


少し笑う慧吾に、愛香の心拍数が上がる。


---


「今日はどこ行くの?」


歩きながら聞くと、慧吾は答えた。


「水族館です」


「えっ、意外」


「そうですか?」


「もっと……図書館とかかと」


「俺を何だと思ってるんですか」


「静かな理系男子」


「間違ってはいません」


真顔で返され、愛香は吹き出した。


---


館内は薄暗く、青い光に包まれていた。


大きな水槽の前で魚たちがゆっくり泳いでいる。


「きれい……」


愛香が見上げる横で、慧吾は魚ではなく愛香を見ていた。


「……何?」


「楽しそうでよかったです」


「私じゃなくて魚見なよ」


「見てます」


「絶対見てない」


図星なのか、少しだけ視線を逸らす。


それが可愛い。


---


クラゲのコーナーで、人混みに押されて愛香がふらついた。


その瞬間、腰に手が回る。


「危ない」


慧吾だった。


至近距離。


「だ、大丈夫」


「大丈夫じゃないです」


腰に添えた手が離れない。


「人多いので、このままで」


「このまま!?」


「はい」


無表情なのに、やってることが大胆すぎる。


周囲から見れば完全に恋人同士だ。


「慧吾くん……」


「なんですか」


「平然としてるのずるい」


「してません」


「してるよ」


「心拍数、かなり高いです」


その低い声に、愛香まで鼓動がうるさくなる。


---


ランチは館内のカフェ。


愛香はカフェラテ、慧吾はブラック。


「結局そこは変わらないんだ」


「信頼と実績です」


「何それ」


ふふっと笑い合っていると、突然、隣の席のカップルが写真を撮り始めた。


女性が彼氏に寄りかかり、男性が肩を抱く。


それを見た愛香が何気なく言う。


「いいなあ、仲良しで」


慧吾の動きが止まった。


「……白石さん」


「ん?」


「写真、撮りますか」


「え?」


「仲良しっぽいやつ」


「なにその言い方!」


珍しく少し不機嫌そうだ。


「別に撮りたくないならいいです」


「撮りたい!」


即答してしまい、自分で恥ずかしくなる。


慧吾はスマホを取り出した。


「こっち来てください」


隣へ座るよう促される。


近い。肩が触れる。


カメラを向けた瞬間、慧吾の腕が自然に背中へ回った。


「えっ」


「仲良しっぽく」


耳元で囁かれる。


シャッター音。


画面を見ると、真っ赤な愛香と、少し満足げな慧吾が写っていた。


「……これ保存するの?」


「当然です」


「消して!」


「無理です」


---


帰り道。


夕方の街を並んで歩く。


少し風が冷たくなってきて、愛香が肩をすくめると、慧吾が立ち止まった。


「寒いですか」


「ちょっとだけ」


無言で自分のジャケットを脱ぎ、愛香の肩にかける。


「え、いいよ!慧吾くん寒いでしょ」


「俺は平気です」


「でも」


「白石さんが寒い方が嫌です」


さらっと言われ、また言葉を失う。


(この人ほんとずるい……)


---


駅前に着く頃には、別れたくない気持ちが膨らんでいた。


「今日はありがとう」


「こちらこそ」


「すごく楽しかった」


慧吾は少しだけ目を伏せ、静かに言った。


「俺も、かなり」


そのあと、珍しく言葉を探すように沈黙する。


「……白石さん」


「うん?」


「たぶん今日、俺、少し壊れてました」


思わず笑う。


「少し?」


「かなり、かもしれません」


「自覚あるんだ」


「あります」


一歩近づく。


「でも原因、白石さんです」


胸が高鳴る。


「責任取ってください」


「えっ」


「また会ってください」


その言い方がずるいほど真剣で、愛香は頷くしかなかった。


「……うん」


慧吾はほっとしたように、やわらかく笑う。


その笑顔を見た瞬間、愛香は確信した。


もう私は、かなりこの人に弱い。


---


改札へ向かう直前、後ろから呼ばれる。


「白石さん」


振り返ると、慧吾が静かに立っていた。


「次は、手つないでもいいですか」


不意打ちすぎて、愛香の顔が一気に熱くなる。


「……先に言うの反則」


「嫌ですか」


「……嫌じゃない」


慧吾は珍しく、嬉しそうに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ