表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/18

ifルート★黒崎慧吾編 第一章

黒崎くんルートは白石さん呼びの設定でスタートです!

白石愛香にとって、黒崎慧吾は「安心する人」だった。


入社初日、コピー機の前で操作がわからず固まっていたとき、何も言わず隣に立って設定を終わらせてくれた人。

パソコンがフリーズしたとき、誰よりも早く気づいて静かに直してくれた人。

忙しくて昼食を逃した日、机の上にそっとカフェラテを置いていった人。


「これ、糖分」


それだけ言って、自分はブラックコーヒーを持って去っていく。


黒崎はいつもそうだ。

多くを語らない。けれど、必要なことは必ずしてくれる。


最初は少し怖かった。


黒のジャケットに白いTシャツ。無駄のない服装。

整った黒髪のマッシュウルフに、感情をあまり表に出さない瞳。


何を考えているのかわからない人。


そう思っていた。


けれど、一緒に過ごすうちに気づく。


誰より周りを見ていること。

言葉にしないだけで、ちゃんと優しいこと。


その静けさが、いつの間にか心地よくなっていた。


---


土曜の昼。


駅前のカフェで待っていると、黒崎が時間ぴったりに現れた。


ネイビーのシャツに黒のパンツ。

シンプルなのに、体のラインがきれいに出ていて、妙に目を引く。


仕事のときより、少しだけ柔らかい。


「お待たせしました」


「待ってないよ、私も今来たとこ」


「それ、定型文ですか」


「違うよ!」


ほんのわずかに口元を緩める黒崎。


その変化を見つけられるのが、自分だけの特権みたいで、愛香は少しくすぐったくなる。


---


席に着き、愛香はカフェラテ、黒崎はブラックを頼む。


「ほんとにブラック好きだね」


「はい」


「苦くない?」


「慣れです」


「人生みたい」


「何がですか」


「最初苦いけど、あとから深いみたいな」


黒崎は一度視線を落としてから言った。


「……白石さんって、時々よくわからないこと言いますよね」


「ひどい!」


笑いながら返すと、黒崎もほんの少しだけ笑った。


そのやり取りが、心地いい。


---


ランチのあと、公園を歩く。


やわらかい風が吹いて、愛香のミディアムの髪がふわりと揺れる。

白い肌に光が落ちて、どこか透けるように見えた。


黒崎は、それを無意識に目で追っていた。


「白石さん」


「ん?」


「前から聞こうと思ってたんですけど」


「なに?」


「なんでいつもカフェラテなんですか」


予想外の質問に、愛香は笑う。


「甘いのと苦いの、両方あるから」


「なるほど」


「慧吾くんは?」


「ブラックですか」


「うん」


少しだけ考えて、黒崎は答える。


「余計な味がしないから」


その言葉が、彼らしいと思った。


無駄を削ぎ落としたような、まっすぐな答え。


「でも」


黒崎はそこで言葉を足す。


「最近は、少し違います」


「え?」


足を止める。


そして、まっすぐ愛香を見る。


黒い瞳の奥に、はっきりとした意思があった。


「……白石さんといる時間は、甘くてもいいと思ってます」


一瞬、意味がわからなかった。


遅れて、心臓が跳ねる。


「えっ」


黒崎の耳がわずかに赤い。


「言うつもり、なかったんですけど」


「慧吾くん……」


「森下先輩に、そろそろ動けって言われたので」


思わず笑ってしまう。


けれど胸の奥は、さっきまでと違う音を立てていた。


---


その時。


背後から低い声が落ちる。


「……へえ」


振り向くと、そこにいたのは刈谷恒一だった。


180センチの長身。

薄茶の髪はラフに流れていて、どこか色気がある。

シャツの襟元を少しだけ崩した着こなしが、無意識に視線を引く。


片手に持ったアメリカンコーヒーがやけに似合っていた。


「先輩!?」


愛香の声が弾む。


その反応を見て、刈谷の口元がわずかに緩む。


「偶然」


そう言いながら、その目はまっすぐ愛香を見ていた。


黒崎が一歩前に出る。


「こんにちは」


「よう、黒崎」


静かな応酬。


空気が一瞬で張り詰める。


---


「デート?」


刈谷が愛香を見る。


「ち、違っ……ランチです!」


慌てる愛香に対して、刈谷は信じていない顔をする。


黒崎が淡々と言う。


「その認識で問題ありません」


「えっ!?」


愛香だけが取り残される。


刈谷が小さく笑う。


「強気じゃん」


「学習しました」


「何を」


「待ってるだけじゃ、取られると」


その一言で、空気が変わる。


愛香の心臓が強く打つ。


---


刈谷はゆっくりとコーヒーを口に運び、愛香に視線を戻す。


「白石」


名前で呼ばれる。


それだけで、胸が揺れる。


「今度、俺とも飯行け」


「え?」


「公平にしろ」


「なにそれ……」


「選択肢は多い方がいいだろ」


あまりにも自然に踏み込んでくる。


黒崎がわずかに目を細める。


「ずいぶん自信ありますね」


「あるよ」


即答だった。


その余裕に、空気が揺れる。


---


やがて刈谷は「またな」とだけ言って去っていく。


去り際、愛香にだけ向けた笑み。


あの距離感。


ずるい。


---


静かになった公園で、愛香は息を吐いた。


「……なんなの今日」


黒崎は一度視線を外し、それから戻す。


「すみません」


「慧吾くんが謝ることじゃないよ」


「いえ」


少しだけ間を置いて、はっきりと言う。


「俺、負ける気ないので」


その声は、静かで。


でも確実に強かった。


「……慧吾くん」


「白石さん」


黒崎は一歩近づく。


「今度は、夜、二人で行きませんか」


その目はもう、“安心する人”ではなかった。


選びに来ている人の目だった。


---


愛香は気づいてしまった。


穏やかで、静かで、安心できると思っていたこの人が、


ちゃんと“恋をしに来ている”ことに。


そして自分の心も、


その熱に、少しずつ触れ始めていることに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ