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我が飼いヒトよ、おまえはどこへも行かせない  作者: 明石竜


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第二十五章 責任の所在

 夜が明けた。

 城下の街道は、すでに静けさを取り戻している。

 非正規部隊は拘束され、正式な人間側の部隊が現場を管理していた。

 事件は、表向きには「未然に防がれた衝突」として処理される。

 それが、最も波風の立たない整理だった。

 玉座の間には、三人がいた。

 ヴェルタ。

 レオンハルト。

 そして、エイル。

 玉座には、誰も座っていない。

「非正規行動であることは確認しました」

 レオンハルトが、淡々と報告する。

「国家としては、今回の件について正式に謝罪します」

「関与した者は処分対象となる」

「......謝罪は、不要だ」

 ヴェルタは、短く言った。

「問題は、起きた」

 それだけで、十分だった。

「はい」

 レオンハルトは否定しない。

「ですので、本日は"責任の所在"を明確にするために参りました」

 その言葉に、

 エイルの肩が、わずかに強張る。

「事件の引き金は、

 勇者エイル氏の存在です」

 直接的な言い方だった。

 だが、責める響きはない。

「同時に、

 事態を収束させたのも、

 魔王殿の判断でした」

 レオンハルトは、ヴェルタを見る。

「非正規部隊を殺さず、

 事実上、国家間衝突を回避した」

「......結果論だ」

「結果は、責任を生みます」

 淡々とした指摘。

 ヴェルタは、しばらく黙っていた。

「......私の判断だ」

 やがて、言う。

「迎撃しなかったのも、

 前に出たのも」

「理由は」

 問われて、

 言葉が止まる。

 合理。

 効率。

 最短。

 どれも、

 昨夜の行動を説明できない。

「......領域侵犯への対応だ」

 選んだ言葉は、

 ぎりぎり、嘘ではなかった。

 レオンハルトは、それを受け取る。

「その説明で、

 国家としては処理可能です」

 淡々とした肯定。

「では、次に」

 視線が、エイルへ移る。

「エイル氏」

「はい」

「あなたは、今回の事件で、

 事実上の"象徴"になりました」

 エイルは、頷いた。

「分かっています」

「返還要求は、

 これまで以上に強まるでしょう」

「......はい」

 レオンハルトは、少しだけ間を置いた。

「ここで一つ、確認します」

 声が、わずかに低くなる。

「魔王殿」

「何だ」

「勇者エイル氏を、

 今後も保護し続けますか」

 玉座の間が、静まり返る。

 選択を、

 真正面から突きつける問いだった。

 ヴェルタは、

 すぐには答えなかった。

 守った。

 それは事実だ。

 だが、

 "守り続ける"と宣言すれば、

 世界はそれを、

 感情として扱う。

「......彼は」

 言いかけて、止まる。

 エイルが、静かに口を開いた。

「その前に」

 レオンハルトは、視線を戻す。

「何でしょう」

「俺の責任も、整理してください」

 はっきりした声だった。

「......続けて」

「俺は、

 ここに留まることを選んだ」

「誰に命じられたわけでもなく」

「だから、

 起きたことの一部は、

 俺の責任です」

 レオンハルトは、しばらく考えた。

「あなたは、

 勇者という役割を放棄しますか」

 核心だった。

 エイルは、迷わなかった。

「いいえ」

 一拍。

「でも、

 引き受け直します」

「......どういう意味ですか」

「世界のためじゃない」

 エイルは、ゆっくりと言う。

「誰かの判断を歪めるためでもない」

「自分が選んだ行動の、

 責任として」

 その言葉に、

 ヴェルタの指先が、わずかに動いた。

 レオンハルトは、深く息を吐く。

「......では」

 視線を、二人の間に巡らせる。

「責任は、分割されます」

「国家は、

 非正規行動の責任を負う」

「勇者エイル氏は、

 自らの行動選択の責任を負う」

 そして、

 最後にヴェルタを見る。

「魔王殿は」

 一拍。

「この領域で起きたすべての結果を、

 統治者として引き受ける」

 ヴェルタは、頷いた。

「......当然だ」

 それは、

 魔王としての言葉だった。

 同時に、

 逃げないという意思表示でもあった。

「以上をもって、

 本件の責任整理とします」

 レオンハルトは、一礼する。

「期限は、変わりません」

「残り、四日です」

 玉座の間を出るとき、

 彼は一度だけ、振り返った。

「魔王殿」

「何だ」

「あなたは、

 すでに選択しています」

 断定ではない。

 観測だった。

 扉が閉じる。

 静けさが、戻る。

「......俺が言うのも変ですけど」

 エイルが、ぽつりと言った。

「格好、悪くないですよ」

 ヴェルタは、即座に返さなかった。

「......責任を取るのは、

 美徳ではない」

「知ってます」

「だが」

 一拍。

「......避ける理由もない」

 それが、今の限界だった。

 二人は、並んで玉座の間を出た。

 期限は、残り四日。

 責任の所在は、

 ようやく、定まった。

 あとは――

 どう終わらせるかだけが、残っていた。

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