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我が飼いヒトよ、おまえはどこへも行かせない  作者: 明石竜


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第二十四章 最後の事件

 事件は、期限の三日目に起きた。

 夜明け前。

 城が最も静かな時間帯だった。

 最初に異変に気づいたのは、門番だった。

「......信号?」

 城下の見張り台から、短い光が三度、上がる。

 敵襲ではない。

 緊急連絡の合図だ。

 ヴェルタは、その光を見る前に、目を覚ましていた。

 胸の奥が、ざわついていた。

 理由は分からない。

 だが、眠りを続けることができなかった。

「報告を」

 玉座の間に現れたヴェルタに、

 魔族の伝令が膝をつく。

「城下、北側街道にて衝突が発生しました」

「衝突?」

「人間側の非正規部隊です」

「使節団の正式な護衛ではありません」

 ヴェルタの視線が、鋭くなる。

「目的は」

「......勇者エイル様の身柄確保と思われます」

 その一言で、

 空気が変わった。

「誰の判断だ」

「不明です」

「国家の正式命令ではない可能性が高い」

 ――暴走。

 最も厄介な形だ。

 ヴェルタは、即座に判断した。

「迎撃はするな」

「ですが――」

「殺すな」

「接触のみを許可する」

 命令は、短く、明確だった。

「......私が出る」

 玉座の間に、ざわめきが走る。

「魔王様、ご自身が?」

「最短だ」

 それ以上、説明はしなかった。

 城門を出ると、

 夜明け前の空気が肌を刺す。

 遠くで、金属音が響いている。

 人間同士の衝突。

 魔族は、まだ関与していない。

 現場に着くと、

 そこには、混乱があった。

 非正規の兵士たち。

 数は少ない。

 だが、焦りと恐怖で、判断を誤っている。

「勇者を引き渡せ!」

 叫び声。

「国家のためだ!」

 その言葉に、

 ヴェルタの胸が、冷たくなる。

 国家。

 役割。

 象徴。

 どれも、

 個人を切り捨てる言葉だ。

 ヴェルタは、一歩前に出た。

 空気が、歪む。

「ここは、私の領域だ」

 低い声が、夜に響く。

 兵士たちが、一斉に動きを止める。

「勇者は、保護下にある」

「返還の命令が――」

「命令は、確認していない」

 事実だった。

「非正規行動は、国家の意思ではない」

 ヴェルタは、淡々と続ける。

「今すぐ、引け」

 数秒の沈黙。

 だが、そのとき。

「――エイル!」

 別の声が、響いた。

 カイだった。

 彼は、息を切らしながら、現場に駆け込んできた。

「......来るな!」

 ヴェルタが叫ぶより早く、

 兵士の一人が動いた。

 刃が、振り上げられる。

 その瞬間。

 ヴェルタは、考える前に、動いていた。

 距離を詰め、

 刃を素手で受け止める。

 血が、夜に散る。

 だが、致命傷ではない。

「......下がれ」

 兵士は、震えながら、剣を落とした。

 静寂。

 誰も、次に動けない。

 ヴェルタは、ゆっくりと振り返る。

 そこに、エイルがいた。

 息を切らし、

 状況を理解しきれていない顔。

「......来たのか」

 その声は、

 責めでも、安堵でもなかった。

「はい」

 エイルは、短く答える。

 ヴェルタは、

 自分の手から落ちる血を見た。

 観察ではない。

 合理でもない。

 ただ、

 守ろうとした。

 それだけの行動。

 その事実が、

 すべてを壊していた。

 遠くで、角笛が鳴る。

 正式な部隊の到着だ。

 非正規兵たちは、

 抵抗する意思を失っていた。

 事件は、

 ひとまず収束した。

 だが、

 取り返しのつかないものが、

 確かに残った。

 ヴェルタは、

 血の付いた手を、静かに下ろす。

「......これは」

 言葉を探す。

 観察ではない。

 管理でもない。

 名を持たない行為。

 エイルは、その手を見て、

 静かに言った。

「もう、世界に隠せませんね」

 ヴェルタは、答えなかった。

 否定できなかった。

 世界は、見てしまった。

 魔王が、

 理由なく、

 一人の人間を守った瞬間を。

 それが、

 最後の事件だった。

 ――後戻りのできない、

 最後の。

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