第二十三章 条件提示
通達は、書面で届いた。
封蝋は赤。
王国外務院の正式な印。
ヴェルタは、それを受け取っても、すぐには開かなかった。
机の上に置かれた封書は、
物としては軽い。
だが、中身は重い。
「......読む」
独り言のように呟き、
ようやく封を切る。
簡潔な文面だった。
感情を挟む余地はない。
――勇者エイルの扱いについて、
――国家としての最終判断を求める。
――期限は、七日後。
「......七日」
数字としては、十分だ。
検討し、判断し、結論を出すには。
ただし――
感情を含めなければ、の話だ。
午後、レオンハルトが再び城を訪れた。
今度は、護衛を伴っている。
敵意ではない。
公式性の強化。
応接室ではなく、
玉座の間が選ばれた。
形式が、必要だった。
「魔王ヴェルタ殿」
レオンハルトは一礼する。
「本日は、最終条件の提示に参りました」
「......承知している」
ヴェルタは、玉座には座らなかった。
その前に、立ったままで応じる。
「条件は、三つです」
レオンハルトは、淡々と告げる。
「第一に、勇者エイル氏の返還」
「第二に、返還が不可能な場合、
代替勇者の公式承認」
「第三に、いずれも拒否される場合――」
一拍。
「停戦協定の再定義」
それは、ほとんど宣戦布告に近い。
「脅しではありません」
レオンハルトは、すぐに付け足す。
「国家は、
不確定な象徴を放置できない」
「......象徴」
「勇者が魔王城に留まるという事実は、
世界にとって、強すぎる」
ヴェルタは、黙って聞いていた。
怒りはない。
反論も、ない。
すべて、理解できる。
「期限は、七日」
レオンハルトは言う。
「それまでに、
魔王殿の正式な意思を」
「......分かった」
即答だった。
それ以上、言葉は交わされなかった。
会談が終わり、
玉座の間には、再び静けさが戻る。
だが、その静けさは、
張り詰めていた。
夜、ヴェルタは回廊を歩いた。
行って、戻って、止まる。
いつもの動作。
だが、歩幅が合わない。
期限。
七日。
選択。
選ばなければ、
世界が選ぶ。
「......合理的ではない」
小さく呟く。
だが、
合理だけでは、
もう足りないことも、分かっている。
その頃、エイルは自室で、
同じ通達の写しを見ていた。
レオンハルトが、
「知る権利がある」と渡したものだ。
「......七日か」
短く息を吐く。
期限を設けられた瞬間、
逃げ場はなくなった。
選ばなければならないのは、
ヴェルタだけではない。
自分も、だ。
勇者として戻るのか。
役割を、引き継がせるのか。
それとも――
「......選ばない、ってのも」
呟いて、首を振る。
世界は、
その選択肢を許さない。
だからこそ、
自分が選ぶべきものは、
もう決まっている気がした。
エイルは、机の引き出しを開ける。
そこには、
書きかけの手紙があった。
まだ、完成していない。
だが、
七日あれば、書ける。
書いてしまえば、
戻れない。
それでも。
城のどこかで、
ヴェルタもまた、
同じ夜を過ごしている。
その事実だけが、
エイルの背中を、静かに押していた。
条件は、提示された。
期限は、決まった。
あとは――
誰が、どこまで選ぶか。




