少女がはしたないことをするので、俺の心はモヤモヤです
道すがらでトドネとセザルがイノウと落ち合う。
「ようイノウ君、どうだった?捜査の許可はもらえたのかい?」
イノウが上目遣いにセザルを睨む。
「ハハッその顔だと会わせても貰えなかったみたいだな。」
イノウが口をへの字に曲げながら「ええ、側用人のオッサンに追い返されました。」と憮然と話す。
「まあ、気にするな。手掛かり、いや証拠だな。魔法使いが侵入したって証拠は押さえた。あとは、手掛かりが見付かるかどうかだな。」
「やっぱり、不法侵入をしたんですね。」
イノウの言葉にセザルはニヤリと笑うだけだ。
「そういうところはハッキリと言わないんですね。」
「犯罪はバレるから犯罪になる。バレなきゃタダの悪いことだ。咎めるのは心の声だけ。」
「そ、そういう考え方は良くないと思うのです。」
おっトドネが参戦だよ。
「心の声を大事にしなければ、いつか本当に悪いことをしてしまうのです。だから…」
セザルがトドネの頭を撫でる。
「心の声は大事にしてるよ。だから、俺は俺の基準の中で悪いことも良いこともする。良い行いだけで生きていけるのは、神州トガナキノ国だけだ。この国もそうなれば、俺は悪いことなんてしない。」
トドネが不安な表情を隠さない。
「新神記にも書いてあるだろ。」
セザルが空を見上げる。
「天空に浮かぶ神州トガナキノ国を造った陛下でさえ、犯罪行為をしてるんだ。ただ、命は尊重してる。命を尊重するために仕方なく犯罪を犯してる。その一線は守るから大丈夫だよ。」
「はい。でも、心配なのです。局長が違法捜査を始めたので、イノウさん以外は、皆、違法な捜査になっているのです。」
「ハハッまあ、お嬢ちゃんは昔のハルディレン王国をあまり知らないからな。しょうがないっちゃ、しょうがないが、これでもまともな方さ。昔は自警団が証拠も無しにいきなり判決、でもって容疑者の腕を斬り飛ばしたりしてたからな。」
「そ、そうなのですか?」
「そうさ。」
イノウだ。
「俺の母親なんか酷いもんさ。店の商品をくすねったって疑いを掛けられて、その疑いを晴らすことができなかったもんだから右手の親指を斬り落とされたんだぜ。そんなことに比べれは局長の違法捜査なんて大したことない。」
イノウが苦々しく眉根を下げる。
「イノウさん…」
「でも、だからこそ、俺は正しく在れと思う。自分が正しくなければ、昔の自警団と同じだ。俺はそうなりたくない。」
トドネが笑う。
「はい!なのです!」
ハルディレン王国のアパートメントの一室。
普通に家族が五人ぐらいで暮らせそうな広さのある住居で、揃えられている調度品も一般家庭の物と変わらない。
そこに、およそ相応しくない雰囲気の男が二人。そして、その足元にも、やはり、そぐわない二人の男が転がされていた。
床に転がされた二人の男は後ろ手に縛られ、猿轡を噛まされている。
連邦捜査局局長にブロスと呼ばれた小柄な白人男性が、足元の二人に話し掛けるためにしゃがむ。
このブロス、年齢を重ねた外見に伴なった重い雰囲気を持っている。
「まずは、どちらから話したいかを聞いておこうか。」
猿轡をかまされた男二人は、黙ってブロスの顔を睨みつけている。
立ったままの男、大柄な黒人で局長にティーラーと呼ばれた男が口を開く。
「どっちも話したくねえってよ。」
ブロスが頷き、立ち上がる。
「待つか。」
何を、誰を待つのかは明言しない。違法行為を前提としているからだ。
黒人男性、ティーラーが頷き、その横をブロスが通り過ぎる。ブロスはキッチンに向かい、ティーラーが寝転がる男達二人の顔を覗き込む。
「喋らなくていい。お前達の頭の中を直接見せてもらうからな。」
連邦捜査局のセーフティーハウスだ。
殺される恐れのある証人などを一時的に住まわせる住居のため、防音対策の施された内装に変えられている。
ブロスとティーラーは支給された魔導服を隠すように着ているが、黒い革鎧のようなジャケットにごついブーツはお揃いだ。連邦特別捜査官の標準装備だ。
床に寝転がされた男二人は鉄の棒を咥えさせられている。そんなことにお構いなしにティーラーは黒人男性の顔を蹴りつけた。
うわあ。痛そう。
「オイ。やめとけ。後でどやされるぞ。」
ブロスがティーラーを止める。
恐らく、二人の遣り取りは、取り決められた演技だ。
マイクロマシンを使って被質問者に話をさせることは可能だ。しかしマイクロマシンを使って容疑者に証言させることは不可能だ。
証言させようとすると、被質問者が質問者の要望に合わせた回答をするからだ。被質問者が話したくないと思っている事柄を質問者が喋れと命令している時点で、被質問者の脳内で改変が行われ、証言に有効性が認められなくなる。
例えば質問者が「お前が殺したのか?」と問い掛ける。その時点で質問者は『お前が殺したと言え。』と思考している可能性がある。その思考を受けて精霊回路が霊子に対し、‘被質問者が殺したと言わせる’という命令を刻む。その霊子を受けたマイクロマシンが被質問者に質問者の希望した回答を口にする。
だから俺はマイクロマシンを使って喋らせるという行為を認めていない。ま、俺ぐらいのレベルになればやれないこともないんだが、俺の場合は右目で相手の感情を読み取ったり、相手の脳内に走る電気信号を解析することで、相手の思考を読み取ることができるから、必要ない技術っちゃ必要ないんだが、ただ、そんな俺でもイズモリや量子情報体の演算能力を使わなければ、相手の脳内の電気信号から思考を読み取るなんてことはできない。
と、言うことで、相手の思考を読み取るなんてことは、一般の魔法使いには土台無理な話な訳だ。したがって、容疑者からの証言は昔ながらの取調べとなるが、今回は鼻っから違法な捜査となっている。局長のハルタは、のっけからこの二人に薬を使うつもりだ。
『自白剤だな。』
俺としては、あまり賛成できない手段だ。せめてもの救いは、ごく軽い自白剤を使うようで、その効力を高めるために事前の芝居をブロスとティーラーにさせているということか。
ブロスはキッチンから缶詰を持ち出し、食べながらリビングのソファーに座る。
ティーラーはブロスの隣に腰掛け、大きく一息ついた後、ブロスが用意していた水を飲む。四人の男は一言も喋らない。
見てて辛いんですけど。
地味な絵面が静止画のように延々と続くこの雰囲気。もう、何か進展してくれよ。俺もさっきまで拷問じみたことしてたから、凄く辛いんですけど?
そう感じ始めてから、ようやくドアのチャイムが鳴らされる。
ティーラーが立ち上がり、ドアを開けると局長を先頭にイノウ、セザル、トドネの順に部屋に入る。
リビングに腰掛けたまま、ブロスが局長に会釈する。何だよ。まだ、だんまりか?いい加減、喋れよ。
局長がブロスの隣に座り、ブロスの耳元で「薬は?」と問い掛ける。床に転がされている二人に聞こえるか聞こえないかの小声だが、しっかりと聞き取れるように意識している。
局長の問い掛けが合図だったようで、ブロスが胸ポケットから銀色のスチールケースを取り出す。
小さな注射器に針を取り付け、別のポケットから取り出したアンプルから薬品を吸い出す。
ティーラーが、もがくモンゴロイドの男を抑えつける。
ブロスがそのモンゴロイドの首筋に注射針を立てようとした時だった。トドネが「よろしいのですか?」と大声で全員に問い掛ける。
全員がトドネに視線を集中させる。
「私の前で、そのようなことをしてもよろしいのですか?」
トドネの言いたいことを正しく理解したのは、ハルタ局長だけのようだ。局長の目だけが、忌々し気に眇められている。
局長が舌打ちと共に立ち上がり、「待ってな。」とブロスに声を掛ける。そして、そのままトドネの襟首を掴み、その部屋から出る。
部屋の前の廊下で、乱暴にトドネを壁に押し付けてから、ゆっくりと間を取って、局長がトドネに顔を近づけ「何が言いたいんだい?」と静かに詰問する。
トドネが局長に対して挑戦的な目で睨む。
「私の任命書には陛下のご署名があったはずです。その私の目の前で違法捜査を行い、あまつさえ違法な薬物による、違法な自白の強要を行うのですか?」
局長の目が歪んで、ニヤリと笑う。
「陛下にはトドネって名前の従妹がいたね。」
トドネが目を見開く。
「陛下のご署名だけじゃない。ヘルザース閣下にズヌーク閣下、そして、ローデル閣下のご署名まであったよ。」
トドネを壁に押し付けたまま、局長がトドネを押し上げる。トドネは襟元を掴まれたまま爪先立ちだ。
「王族のお遊びに付き合ってる暇はないんだよ。この案件は陛下が気に掛けておいでで、あたしらのトップが早く解決しろと言って来てるんだ。王族の端っこに引っ掛かってるだけのお嬢ちゃんが、偉そうにあたしのやり方に口を出すんじゃないよ。」
トドネの目に力が籠る。
「王族の端っこに引っ掛かっているだけだからこそ見逃すことができないのです。」
「なに?」
「陛下は常日頃から仰っているのです。法律なんて必要がないぐらいに罪咎の無い国にするんだと。だから、この国はトガナキノ国なんだと。」
トドネの踵が床を踏む。
「だから、この国は自給自足のシステムを採用するのだ。環境を壊せば別の生態系が死滅する。だから、この国は自給自足で運営するのだと仰っておられるのです。」
局長の手から力が抜ける。
「陛下は魔獣を狩る時も言祝ぎをお唱えになります。それほどに、命とは奪うべきものではないと仰るのです。その陛下の国民がこのようなことをなされば、陛下が悲しむのです。」
局長がトドネから離れて溜息を吐く。
「だから、私は、トガナキノ国の連邦特別捜査官の違法な行為を、いえ、人を傷つける行為を見逃すことができないのです。」
ハルタが腰に手を当て、胸の内ポケットから煙草を取り出す。口に咥えて左手を翳して火を着ける。
トドネ。立派になったなぁ。俺は感動したよ。
「陛下は神の如き…いや神そのものだ…」
なに?
「あたしは陛下の起こされた奇跡を目の当たりにして、陛下を神だと思った。」
オイオイ。何を言い出してるんだい?局長?
「あたしが二十六ぐらいの時だったかねぇ。魔獣災害で娘と息子の二人が死んだのさ。」
局長が紫煙を上に向かって吹き出す。
「その時、陛下が来てくれてね。娘は息を吹き返したけど、息子は駄目だった。」
ハルタがトドネに視線を向ける。
「そしたら陛下がね。泣くんだよ。すまない。助けることができなかったってね。」
ハルタが目を伏せて自嘲気味に笑う。
「母親のあたしが、二人の命を諦めてたのに、一〇歳の陛下が助けることができなかったと、あたしに頭を下げるんだよ…もう、あたしは何をしていたんだろうと頭を殴られたような気分さ。」
伏せていた目をトドネに向ける。
「娘を抱締めながら誓ったのさ。娘のために生きよう。陛下の力に、陛下の剣になろうってね。だから、お前みたいな年端もいかないお嬢ちゃんを連邦特別捜査官にした陛下の真意が見えなかったのさ。」
イヤイヤ、真意も何も、トドネが無理矢理ですから。俺は止めたんだよ?行くなって。
「私は王族です。だから、陛下の庇護のもと、乳母日傘で安穏と過ごすことは罪なのです。トガナキノ国の王族として、罪を犯すことはできません。」
ハルタが頷く。
「わかったよ。じゃあ、お前のやり方であいつらを尋問してみな。」
ハルタがトドネの頭を優しく撫でる。
きっと、ハルタにはトドネが娘とダブって見えたのだろう。だから、信頼している俺に対して反発心が生まれた。その結果が生んだのが今回の暴走だ。まあ、コルナにも責任の一端はあるが。それにしても、トドネ、乳母日傘なんて言葉、よく知ってたな。
二人が部屋に戻る。
トドネは自分の穿いているズボンを簡易錬成器でスカートに換え…?なんで?
「薬での自白はいったん中止だ。こいつに尋問させる。」
局長が後ろのトドネに向かって親指を向ける。
セザルを除く全員が目を見開き、異口同音に疑問の声を上げる。
イノウが局長に駆け寄り、床の上に寝転がされた二人に聞こえないように囁く。
「良いんですか?」
イノウの言葉に局長は頷くだけだ。
「やりな。」
局長のGOサインにトドネが寝転がされた男達に近付き、猿轡を取り外す。
少しばかり、二人の目を見詰めてから、トドネが口を開く。
「私の名前は訳があって言えません。これからお二人に質問いたしますが、私も言えないことがある立場ですので無理に答えて頂く必要はありません。」
そう言ってからトドネが頭を激しく掻く。いや、答えてもらいなさい。でないと困るよ?
『マイクロマシンを散布したな。』
「人の耳というものは上手くできていて、聞きたくない声も聞きたい声も入って来るのです。でも脳内でその声を選別するのです。」
全員が訝しげな表情を浮かべる。トドネが二人の前にしゃがむ。スカート内の下着が寝転がる二人に見える。おい、お前ら、極刑だからな!決定事項だぞ!
「はにゃ!見えてしまったのです!」
二人の視線に気づいたトドネが、慌てて、スカートを手で押さえる。
「み、見ましたね?」
トドネが頬を赤らめながら二人を問い詰めるが、二人は知らん顔だ。そりゃそうだ。十二歳で成人とは言え、トドネのパンツでトキメク奴はロリコンだ。
咳払いをした後「ま、まあ、良いです…」と、取り繕うが、周りの人間は呆れ顔だ。
今度はスカートの中が見えないように膝を床に付けて、二人に問い掛ける。
「まず、今回の主犯、つまり、雷精魔道具を盗むことを計画したのは、あなた方のどちらかですか?」
二人の視線は動かない。
「ふむ。別に主犯がいるのです。」
断定的な物言いに二人の目が訝し気に歪む。いや、お前らの様子を見てれば、それぐらいのことはわかるから。
「あなた方二人は、ハルディレン王国で五年間の兵役に就いています。つまり、命令されたことに疑問を持たずに実行するよう訓練されているのです。」
トドネが上向きで独り言のように話し始める。うん。確かにその通りだ。黙々と訓練をこなすようになっていくからな。
「主犯はあなた達二人を子供のように扱ったのです。」
二人の眉が顰められる。このオッサン二人を子ども扱い?言葉だけを聞いてるとキモイんですが。
「主犯はあなた達に計画の概要を知らせることなく、ただ、主犯の望む場所で、主犯の言ったとおりのことを実行させられたのです。」
トドネが二人に視線を戻す。ああ、そういうことね。
「言われたのですね?あの路地裏で喧嘩に見えるように新神武道の組手を工夫してくれと。」
二人の視線に力が籠る。
「その結果が今のこの状態なのです。」
トドネが何度も頷く。
「主犯は魔法使いで、あなた達は、魔法使いの計画に利用されただけなのです。でも、犯罪行為は犯罪行為なので許すことはできません。特に、同じ、犯罪行為に手を染めている者からすれば。」
トドネが何度も頷く。
「あの倉庫は誰の物だったのでしょうか?」
あれ?そこに疑問を持つの?なんで?
「あなた方は、何故、こんな場所で縛られて、尋問されているのでしょうか?」
思考を止めている二人に思考させるようにしてるんだね。うん。
「あの倉庫が正規の商人の倉庫なら、本来、あなた方は警察で取り調べられているのです。」
犯罪組織を匂わせるなぁ。
「でも、あたしのような幼い子供が、尋問をするでしょうか?」
犯罪組織とはハッキリと言わないのな。
「変なのです。」
寝転がった二人はキョトンだ。ちなみに周りの奴らもキョトンだ。
再び、トドネがスカートの中をチラリと見せる。って、何をやってんだ!やめなさい!はしたないから!
「私は魔女かもしれません。」
男二人の目はトドネのスカートの中に釘付けだ。オイオイ。お前ら、マジな顔で、小っさい女の子のパンツ見てんじゃねえよ?!殺しに行くぞ?おっ?
「魔女だからこそ尋問を任されたのかもしれないのです。」
トドネが足を閉じる。もうちょっと早く閉じなさい。ね?
「あなた達は既に精霊に支配されていることに気が付いていないのです。」
モンゴロイドの男の額にトドネの人差し指が触れる。
「答えるのです。あなた達を雇った人物の名前を。」
虚ろな目をしたモンゴロイドの男がボソリと答えた。
呟きだった。だが、俺の耳にもハッキリと残る名前だった。
「…クルタス…」
それが雷精魔道具を大量に盗んだ男の名前だった。
トドネが男達から聴取した情報は、主犯はクルタスという魔法使いで、会ったのは一度だけ。何故か、どうしても、クルタスの言うとおりにしなければいけないような気がしていた。とのことだった。当然、大量の雷精魔道具の使用目的などは不明だ。
「大したもんだ。お嬢ちゃんは催眠術師なのかい?」
セザルの言葉にトドネが首を振る。
「私の術は催眠術ほど強力なモノではありません。私の術は言霊導入術と言われるものなのです。」
いや、催眠術です。
「パンツを見せてたのもその術の術式かい?」
そうなんだ。そこに引っ掛かるんだよ。
「そうなのです。最初に意識を私に集中させるために、わざと見せたのです。」
「なんだか、お嬢ちゃんみたいな小っさい子がそんなことすると悲しくなるねぇ。」
トドネが首を傾げて、スカートを捲くる。こら!やめなさい!
「大丈夫なのです。これはパンツに見せているだけのスコートなのッテ。」
局長がトドネの後頭部を叩く。
「スコートだろうが何だろうが、スカートを捲し上げたり、スカートの中を見せたりする行動そのものがはしたないって言ってるんだよ。」
叩かれた後頭部を擦りながらトドネが口を窄める。いや、局長のその意見には俺も大賛成だ。
「すいません。」
「なんだい?文句がありそうだね?でも、あんたのさっきの姿をあんたの従兄が見たらどう思うかね?」
うん。大変ショックでした。
頭を抱えたままトドネが肩を竦める。
「そ、それは…」
「ほう。顔が赤くなったな。お嬢ちゃんは、その従兄のことが好きなのかい?」
「そ、そんなことはないのです!」
セザルの揶揄するような言葉にトドネが大慌てで否定する。いや、そこはそんなに否定するなよ。俺、悲しくなっちゃうよ?
「そんなことより、どうします?今後の方針としては…」
イノウがセザルとトドネの遣り取りを無視して局長に問い掛ける。
局長が手を口に当て、しばし、沈思する。
「現場周辺の映像を洗い直すか。そうだね。前後二十分の映像を洗い直そう。魔虫の捉えた人物、そいつらの人定記録を片っ端から照合をするんだ。人定記録にない奴を特定したら、そいつの動きを追跡する。」
「人定記録のある者も、入国者であればチェックした方が良いのでは?」
セザルが局長に提案する。うん、その通りだ。
ハルディレン王国の人間なら人定記録があるはずだ。魔法使いなら、当然、存在する。
人定記録のない者は、違法な臣民か違法な入国者ということになる。入国審査をキチンと受けていれば、洗い出しから洩れるが、人定記録時に入国時期等が記録されているからそいつにもチェックを入れる必要があるだろうな。
「そうだね。堂々と入って来て、犯罪を実行、堂々と出国か。うん、チェックした方が良いね。」
局長が顔を上げ全員に指示を飛ばす。
「人定記録の照合で、洗い出しするのは、人定記録のない者と人定記録で入国の記録がある者。入国者は、連邦入国の記録まで遡れ、それから、出国記録の方もチェックだ。」
ブロスが足元に視線を向ける。
「こいつらはどうします?」
「そうだね、目途が立つまで監禁しときな。なんの加減か殺されちゃ寝覚めが悪いからね。」
「ここに?」
ティーラーが眉を顰めて局長に聞き直す。監禁となれば、監視と世話をする労力がかかる。その点を心配しているのだろう。
「それなら、良い場所がある。」
セザルだ。
「俺の知り合いに頼めば、何とかしてくれるよ。」
「知り合いだって?どんな奴だい?」
今度はセザルが眉を顰める。
「まあ、そこは俺のことを信頼してってことで、まあ、口の堅い奴って言うか、何も聞かないで預かってくれるから心配ねぇよ。」
局長が険しい表情でセザルを睨むが、セザルの方はにやけたままだ。
「わかったよ。でもこの場所のことは秘密だよ。知られないように運びな。」
両手を上げて「はい、はい。わかってますよ。この場所のことは知られないようにしますって。」と、セザルが答える。
「よし、じゃあ、お前はこの二人を運び出したら、魔虫コントロールセンターに来るんだよ。」
「え?俺もかい?」
局長が柳眉を跳ね上げる。
「そうだよ。お前は、総監から直々のお許しを貰ってるんだ。しっかり働いてもらうよ。」
セザルが肩を落として溜息を吐く。
「セザルさんがいてくれると心強いのです。」
トドネの言葉にセザルが諦めたように笑う。
「じゃあ、今夜は徹夜だな。」
「はい!なのです!」




