死の淵にあろうとも俺は夫の務めを果たすべく何度でも蘇る
ああ、太陽が黄色く見える…
トドネの方も徹夜するようだが、俺は、今が徹夜明けだ。
疲れ切った徹夜明けに見る太陽は黄色く見えるんだ。
『最近の若い奴らには通用しない表現だぞ。』
そうなの?
『そうだ。だから、直截的にエッチのし過ぎで疲れたと言った方が良い。』
マジで死ぬかと思った。
結局、三回とも骨折した。
三回で延べ二十三か所も骨折した。骨盤と脊椎は骨折というよりも砕かれた。でも、骨折はまだいいんだ。うん。まだ大丈夫。でも最近、俺の息子がヤバイ。獣人の本気がマジでヤバイ。
想像してみ?万力で息子が潰される感覚を…
な?マジでヤバイだろ?
そんな俺とは対照的にトンナはご機嫌だ。朝から鼻歌交じりで朝食の準備をしてる。
そりゃそうだ。俺が三回の間にトンナは二十回以上も気持ち良くなっているのだ。トンナを基準にして三回にすれば、ものの一分で終わるのに、俺を基準に回数を数えるもんだから、かなりの時間と労力を要する。
俺は拷問を受けながらのエッチだから中々規定数に届かない。
その結果、時間が掛かり、俺の骨折の回数は増えるばかりだ。
以前に「トンナが一回イケば、終わりで良いだろ?」と言ったら、「そんなの不公平よ。」と言われた。何が?何が不公平なんですか?俺は死にたくないだけなんですが?
「だって、あたしが気持ち良くなってるのに、トガリが気持ち良くなってないなんて不公平じゃない。」
いや、だからね、トンナが気持ち良くなると俺は死にそうになる訳よ。ね?そんな状況下で、俺に気持ち良くなれと?俺にマゾになれと?毎回生死の掛かった夜の営みに励めと?
うん。グッと堪えたよ。
グッと堪えて言わなかった。
グッとね。だって、トンナって、俺の言葉ですぐ泣くんだもん。
トンナが泣くとトロヤリも泣くし、サクヤは蹴ってくるし、アヌヤとヒャクヤは責め立てるし、コルナは「女性を泣かすとは情けない」って、説教してくるし、結局、頷くしかないんだよね。だったら最初っから言いたいこと我慢する方が良いじゃん。あれ?俺、泣きそう。自分から進んで処刑台に向かうって、どうなの?
通信機が鳴る。
「ヘルザースかああああ!!!!!」
『…』
いかん。いきなり怒鳴ってしまった。
『へ、陛下?』
ズヌークだった…
「すまん、ちょっとタイミング的に怒鳴っちまった。」
『はあ。まあ、どのようなタイミングだったのかは、あえてお伺いしませんが、とにかく、こちらの準備が整いましたので、一旦こちらにお戻りいただけますでしょうか?インディガンヌ王国にはインフラ整備事業の援助ということで話が整っておりますので。』
「わかった。じゃあ、俺の分体をそっちに送るよ。こっちの奴隷をほったらかしにはできないからな。」
『わかりました。それでは既に斑鳩が離岸準備に入っておりますので、そちらの方にお送り願いますでしょうか?』
「了解。」
斑鳩とは国王専用の政務専用艦だ。トビウオの意匠を模しており、レーザー光帆を備えている。その斑鳩に俺は分体を飛ばす。
一〇歳の姿ではなく、十六歳、本来の姿だ。服装も煌びやかに豪奢な物を身に着ける。プラチナの台座にダイヤのはめ込まれたボタンがズラリと並び、白い絹に銀糸と金糸がふんだんに使われた上着は軍服風だ。右肩から左腰に掛けて、金で縁取られた青の肩帯を佩用し、軍総司令官の徽章を左胸に付ける。
宝冠は無い。金の房を幾つも垂らした大きく白いベレー帽が宝冠の代わりだ。内側に白い毛皮を張った赤いマントに白い手袋。その手袋の上から金の国王の印章をはめている。
「おお。」
国王専用艦斑鳩の船長席に踏ん反り返った姿で現れた途端、周りから感嘆の声が上がる。
声を上げたのは、既に乗艦していたギュスターとスーガという男だ。その二人がすぐさま跪く。
「ご尊顔を拝し、ありがたき幸せ。」
「なんだよ。ギュスター。普段から会ってるじゃねえか。堅ッ苦しいこと言うなよ。」
「いえ、いえ。陛下の正装姿を拝見させて頂くことなど滅多にございませんので、やはり、ここは正式な礼を尽くさねば。」
「お前、ちょっとヘルザースっぽくなってねえ?勘弁しろよ。ヘルザースばっかりになっちまうと窒息しちまうよ。」
ギュスターがやっと顔を上げる。
「ヘルザース閣下のようになるのは私もご勘弁こうむりたいですね。では、国王専用艦では普段通りにさせていただきます。」
そう言って二人が立ち上がる。
「そうなんよ。父ちゃんに堅っ苦しいこと言っても半分も理解してないんよ。」
こら。他人を全部、お前と同程度と考えるな。
「まったくなの。パパはいっつも遊んでるから難しいことはわかんないの。」
二歳児と同程度で喧嘩するお前に言われたくないわ。
と、言うことで、この艦にはアヌヤとヒャクヤも乗艦してる。
『なにが、‘と、言うことで’なんだ?』
知らねえよ。きっと、退屈しのぎに来たんだろ。
「お前ら、子供達は?」
「大丈夫なんよ。勝手にご飯獲って食うし、ほっといても誰かが何とかしてくれるんよ。」
操船席に座るアヌヤがコロコロと笑いながら応える。
「そうなの。コロノアの爺様なんか大喜びで世話を引き受けてくれたの。」
サブ操船席に座るヒャクヤがシナを作りながら笑う。
これだよ。
こいつら、もう放任主義を通り越して虐待なんじゃないかってぐらいほったらかしにするんだよ。
アヌヤの産んだトルタスは勝手に外に出て行って、動く物なら何でも口に入れやがるんだからまいるよ。もう、虫だろうと蛇だろうとお構いなしだ。この間はマムシを捕まえて振り回してやがったから肝が冷えたよ。
ヒャクヤの産んだコーデリアは、とにかく、物を壊す。この間も「だあ。」と可愛い声が聞こえるなと思ったら、洗面台の排水管を引っこ抜いて振り回していやがった。お陰で洗面所の壁は穴だらけだ。
そのコーデリアを武闘派キャットノイドのコロノアに預けて来たってんだから、帰ってきたら破壊魔人ぐらいにランクアップしてそうだな。
「それで、なんでお前達も乗ってるわけ?」
途端に静まり返る。
アヌヤが静かに立ち上がり、船長席、つまり俺に向かって振り返る。
ゆらりゆらりと幽鬼のように歩きながら近付いて来て、いきなり胸倉を掴まれる。
「あたしが来たのに嬉しくないって言うんかよ?」
「え?」
いや、あのね?なんで、半泣き状態の涙目で怒るわけ?
顎を持たれて無理矢理に首を捻じ曲げられる。視線の先には顔を真赤にさせて頬っぺたをパンパンに膨らませたヒャクヤがいた。
「え?」
なんで?なんで俺が怒られてるわけ?
「嬉しくないんかよ?!」
「いや、嬉しい。うん。嬉しいよ。勿論じゃないか、嬉しいに決まってるじゃないか!いや~嬉しいなぁ。アヌヤとヒャクヤが来てくれるなんて、なんだかわかんないけど嬉しいなぁ!」
「ふん。まったく素直じゃないんよ。最初っから素直にそう言えばいいんよ。」
「そうなの。パパの愛するお嫁さんが二人も来たんだから最初っから素直に喜ぶべきなの。」
満足気に二人が自分達の席に戻る。
で、なんで俺は喜ばなきゃいけないわけ?
これから外交交渉に行くのに、なんで自爆用の核爆弾を二個も持って行かなくっちゃいけないわけ?ねえ、誰か教えて。
「ギュスター、スーガ。肩が震えてるぞ。笑いたいならシッカリと笑えよ。」
砲塔管理席と索敵管理席に座る二人にドスの効いた声で話し掛けると震えていた肩がピタリと止まる。
「なんだよ。笑わないのか?」
スーガが振り向き、「あまり苛めないで頂きたいですな。陛下にしてみれば、私めは支配する側であったことは重々承知しております。しかし、陛下ともあろうお方がそのようなことをいつまでも根に持つのは如何と思いますぞ。」
「だ、誰が根に持ってるよ!最初お前を見た時なんか、お前のことなんか、これっぽっちも思い出せなかったんだからな!」
スーガが目を瞑って上を向く。
「それはそれで嘆かわしいですな。私はこれでも幼い陛下のことを気に掛けておったのに。」
「なっ!何が気に掛けていただ!後付けでいい加減なことを言いやがって!」
スーガが首を横に振る。
「いやいや。気に掛けておったのは真のことです。あの幼き少年は無事、ホノルダ群統括中央府に到着することができただろうかと、時折、思い出したりしていたものです。」
まったく、こいつも口が減らない。
こいつは、ギュスターが連れて来た男で、カンデ族だ。
姉の村を管理していたドラネ村の自警団長をしていた男で、俺と初めて会った時に「戻って来たら俺の所に来い。」と言っていた男だ。再会した時、スーガは俺のことを覚えていたが、俺は完全に忘れていた。
「お前の方こそ、俺がお前のことをスッカリ忘れてたことを根に持ってるだろうが。」
スーガが頷く。
「それは当然でございます。」
澄ました顔で、そのまま前へと向き直る。
これだよ。
なんで俺の周りにはまともな家臣がいないんだよ?もう。泣けてくるぜ。
先導の銅鑼がゆっくりとしたリズムを刻む。
横笛に笙の音色が静かに空気を色のあるものへと染め上げていく。
長い黒竿が踊るように上下に揺れる。それに合わせて先に括りつけられた神州トガナキノ国の国旗が舞い踊る。
極彩色の糸で織られたトガナキノ国の服は重くて豪勢だ。
その服を纏った行列は百五十メートルに及ぶ。
神州トガナキノ国資本で造られた空港から、インディガンヌの王城までの距離は約五十キロメートルと遠い。それでも歩いて行くのが仕来りだとして、俺達は長い行列と共にゆっくりと進んでいた。
道の両側には神州トガナキノ国の行列を見ようと人であふれ返っている。
人々がどよめく。
金と宝石で飾り付けた鎧、いっそ清々しいくらいに実用性を無視した鎧を纏ったキバナリの列が続くのだ。インディガンヌ王国の人々は、飼い慣らされた魔獣など見たことがないはずだ。
体長五メートルを超えるライオン型のキバナリ。先頭を進むキバナリは黒変種のライオンと白変種のライオンだ。
その後ろをトラ型、ヒョウ型のキバナリが続き、龍が登場する。
地龍だ。
地龍は魔獣に分類されるが、どちらかと言えば、現代日本での重機に近い存在だ。したがって、人の言うことをよく聞く。今回連れて来た地龍は現代でのセンザンコウに似ている。哺乳類であるにもかかわらず鱗を持った絶滅危惧種だ。
そのセンザンコウの顔を鼻の長いトリケラトプスにすげ替え、牙を生やしたのが地龍だ。
体長は八メートルから十メートルがスタンダードだが、時折、先日狩ったような亜種が存在する。
その地龍が華美な装飾の施された荷台を曳く。
更に龍の剥製を天幕として使っている行列が続く。高山に生息する赤い飛竜ではない。
海に棲む、青い水龍だ。宝石のような鱗が日の光を透けるように反射して煌く。長い蛇のような体躯に鹿のような角と毛の生えた頭部は現代日本で言うところの龍そのものだ。そう、ドラゴンではなく龍。
その龍の腹を裂き、肋骨を開いて、露出した骨格を金箔で彩っている。長さは約三十メートル。二メートル間隔で黒竿で支え持ち、龍の下を豪奢な衣装を着た執政官達が練り歩く。
執政官の先頭はスーガだ。
袂の長い振袖のような和風の着物。日本で言うところの花魁のような華美なコートを着ている。
その執政官の最後尾はギュスターだ。スーガと同じような服で、澄まし顔で歩いてる。
俺と、王妃であるアヌヤとヒャクヤは輿に乗っている。
天蓋には銀箔を張った飛竜だ。
輿とは言っても人が担いではいない。霊子エンジンを備えたパーソナルモビリティだ。
アジアンテイストの行列の中にあって、この輿がSFで、俺の服装だけが洋風だ。
アヌヤとヒャクヤは十二単のような着物に、長く大きな鳥の羽で装飾している。この鳥の羽はキョクサイと呼ばれる魔獣の物で、極彩色の羽を持った体長三メートルの鳳凰を模した猛禽類型の魔獣だ。
二人は金の宝冠を被って、獣人の村出の嫁のような化粧を施している。
そして、更にキバナリと地龍の列が続き、水龍の天幕の列、最後尾には俺の竜騎士、スサノヲが歩いている。
上空には、この行列を挟むような形で酒呑童子が並び、その更に上空には八咫烏がアクロバティックに飛行する。時折テイルコーンから極彩色の煙を噴出させる演出も忘れていない。
丸一日を掛けて王城へと練り歩く。
結構な重労働だよな?これって。俺的には車みたいので、パーっと行って、パーっと帰りゃいいじゃねえか、って言ったんだけど、「ヘルザース閣下から陛下がそのように仰るだろうから断固としてお諫めするようにと申し付かっておりますので。」とギュスターに言われた。
ヒャクヤは「折角、素敵な着物を着るのに車なんかじゃ駄目なの。」って言ってやがった。
アヌヤは「この服なら銃が一杯隠せるんよ。」とぬかしやがる。お前は何しに行くんだ?
まったく、面倒くせえ。くそ。ヘルザースめ。いつか酷い目に合えばいいのに。




