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月トガリ  作者: 吉四六
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気持ちの悪いことをする奴がいたもんだ

 残酷なシーンと気持ち悪い登場人物が出てきます。

 俺はトンナの肩に立ったまま、両手を空へと伸ばす。

 俺達を中心に明滅を繰り返す金色の粒子が集まり、渦を巻き始める。

 最初はゆっくりと、徐々にその速度を上げながら金色の竜巻を形成する。周囲の瓦礫を巻き上げながら金色の龍が天空へと伸びる。

「ご、ご主人様…?」

「見てろ。この街中の精霊を俺の物にしてやる!」

『トガリの周波数じゃなく、別の周波数を設定する。』

 なに?どうした?

『敵は高等な魔法使いだ。連邦国内に滞在した経験があった場合、トガリの周波数を憶えている可能性がある。』

 成程、俺達の正体を隠すためか?

『そうだ。インディガンヌ王国では、あくまでもツィージ。だからツィージの霊子として周波数を変換する。』

 よし!任せた!

 俺を取り巻く六十四万人分の量子情報体が超高速で演算を繰り返し、俺の周囲のマイクロマシンから支配下へと治めて行く。

 金色の龍が雲を裂き、太陽の輝きを凌駕したとき、竜巻の頂点が花を開くように世界へと広がっていく。

 雨のように降り注ぎながら拡散する量子情報体。

 今、この街のマイクロマシンは、俺の霊子によって俺の物へと変貌を開始した。さっきまでは周囲の幽子に波長を合わせた霊子によってマイクロマシンを起動させていた。しかし、それでは敵にマイクロマシンをハッキングされたとき、気付くことができない。

 俺のマイクロマシンに変貌させる。

 マイクロマシンが俺の肉となり、目となり、耳となって敵を探す。

 瞬間移動もさせない。

 己が肉体を粒子に変えてみやがれ。再構築どころか、そのまま捕まえてやる。

 俺の支配下に置かれたマイクロマシンをこの街の王都民に侵入させる。

 敵は、俺と同じように霊子の波長を変化させる。

 霊子を周囲の幽子と同じ波長に変化させ、体外へと放出しているはずだ。だが、俺の波長を乗せたマイクロマシンにアクションを起こした場合、波長変換までの一瞬のタイムラグが命取りになる。

 体内に俺のマイクロマシンを侵入させないようにしても同じだ。

 俺達のすぐ近くにドルアジがいる。俺達から遠ざかろうと走っているが、折れた腕を庇いながらのためにあまり離れていない。

 ドルアジの足を止める。

 スラム近くの住人達は、全員、俺達の方を見ている。巨大な金色の竜巻が突然出現し、唐突に消えたのだ。誰もが俺達の方角を見上げている。

 そんな中、逃げる人間を散見する。

 ほとんどがコソ泥かひったくりだ。

「いた…」

 俺の呟きにトンナが顔を上げる。

「あっちだ。」

 即座にトンナが走り出す。

 俺が向ける顔の方向に、トンナが生物とは思えない速度でスラムを駆け抜ける。

 道は関係ない。

 トンナは建物の壁面を蹴って、屋上へと飛び出し、空を走る。俺はトンナの肩で腕を組んで仁王立ちだ。

「トンナ、右だ。」

 トンナがステップを組み換え、即座に右へと方向転換する。

「よし。」

 一声掛けて、俺はトンナの肩から空へと飛翔する。体内の霊子を上へと走らせ、質量方向を変換させる。脇の肋骨を開き、霊子ジェットで加速する。

 両腕のマイクロマシンは渦を巻いて加速し続けている。

 爪を立てるようにして両掌を開き、下に向かって細く収束した荷電粒子砲を連射する。

 昔は連射できなかった荷電粒子砲も今では八連射までならできるようになっている。

 そいつは、五連射目でその足を止めた。

 その男の前に俺は降り立つ。

 太々しい表情をした男だった。

 年齢の読めない男だ。

 でっぷりと太った体に禿頭だ。眉毛もない。どこか粘着質な色を持った瞳がいやらしい。

 だらしなく開いた口元から汚らしい乱杭歯が見える。

 胸から腹にかけて鎧を着ている。

 カルビンか。

 ダイヤモンドよりも硬いカルビンを素材とした鎧だ。

 やはり、マイクロマシンに精通してる。

 が、表情に知性が感じられない。

「成程な。肉の装甲か…まったく、吐き気のする野郎だ。」

「へ、へへへ。貴様、凄いな…精霊砲を撃てるなんて…」

 トンナが俺の前に降り立ち、その勢いを殺さないまま、男に走り出す。

「お前がクルタスかい?!問答無用で死刑確定ね!!」

 トンナの右拳が男の胸に突き入れられる。

 カルビン装甲にめり込むが貫通には至らない。男はトンナに殴られた勢いのまま後ろにもんどりうって吹き飛ばされるが、すぐに立ち上がる。

「へ、へへへ。女、強いな、でも、俺の方が強い。」

 男の言葉にトンナの目が細められる。

「ご主人様、ゴメン。殺しちゃうかも。」

「そのつもりでやらなきゃ、殺されるかもしれないぞ。」

 俺の応えにトンナが前を向いたまま頷く。

 トンナが握っていた拳を開く。

 今、この場には俺のマイクロマシンしか存在しない。男が魔法を使おうとすれば、呪言の詠唱が必要となる。

 しかしだ。

「トンナ!!詠唱してる!!」

 男の口は動いていない。それでも俺の鋭敏な右耳は、女の声を聞きとっていた。呪言の詠唱だ。

 俺の言葉を受けてトンナが動く。一気に男との間合いを潰し、その両掌で男の頭を挟み込むように柏手を打つ。

 超高速のカルビン化した掌だ。急激な圧縮は空気中にプラズマを生む。

 鼓膜に物理的な衝撃を与える音が響き渡る。

 男の頭は吹き飛んだが、同時にトンナも吹き飛ばされる。

「なに?!」

 間に合ったと思ったトンナの口から驚愕の一言が発せられる。

 トンナは六メートルも吹き飛ばされ、そこから更に地面を転がり、膝立ちに立つ。起き上がった途端に口から血を吐き出す。

 男の胸から首が生まれる。

 弾けた肉の内側から、禍々しい、肉でできた芽のような物が生まれ、その芽が徐々に膨らみ、男の顔を形成する。

 生まれたての頭を使って男が話し出す。

「お、女、お前、強いな。でも次は殺す…」

 男が半笑いでトンナに話し掛ける。

「口が臭いぞ。腐った臭いだ。だから喋るな。」

 言い終わりと同時に俺は一歩目を踏み出す。

 高速ゾーンからの加速だ。その速度は一気に音速を超える。

 衝撃波を纏いながら、拳にドラゴニウムのグローブを生成、同時に自分の骨格にもドラゴニウムの芯を通す。拳の当たる間合いで右腕を粒子分解、右ストレートの形でインパクトの瞬間に再構築。

 男の胸に俺の右拳が突然生えたように埋め込まれる。俺の右拳が再構築された瞬間に男の左胸が、肉片となって四方に弾け飛ぶ。

「グアッ!!」

 大量の血を噴き出しながら、男が跪き、その左腕が皮一枚で地面に垂れ下がる。

 右腕を引き戻しながら、俺の左が男の顔面を捉え、かろうじて繋がっていた首を吹き飛ばす。

 俺は男の吹き飛んだ肩に乗り、血塗れの肉塊の中に右腕を突っ込む。掻き回すようにその傷口を抉り、紐の千切れるような音と共に引き抜き、手に持ったそれを放り出す。

「ああ!!」

 トンナが口元の血を拭いながら目を見開く。

 俺が男の体内から引きずり出したもの。それは小さな大人だった。

 血に塗れた裸の女だ。

 黒髪が体中に纏わりついて凄惨その物だ。

 身長は九十センチメートルほどか、短い四肢を必死に動かして、起き上がる。

 体中からチューブを生やした女。そのチューブから心臓の鼓動に合わせて血が噴き出している。恐らく神経線維も体外へと伸ばし、肉の鎧に繋いでいたのだろう。

「いい趣味してるぜ。肉人形の中に身を隠すなんざ吐き気が出そうだ。」

 女が俺を睨め付ける。

 神経が千切れている状態なのに、よくも正気を保っていられるものだ。敵ながら感心する。

「たしかに、格闘戦なら肉の鎧は有効だろうが丸裸になっちまったらどうやって戦うんだ?」

 女の顔が不気味に歪み、白い歯が威嚇するように覗く。

「肉鎧の中に霊子回路があったんだろ?そいつと繋がってたようだが、自前の霊子回路だけで俺と勝負できるのか?」

 女の口元が小さく震える。

 呪言の詠唱だ。

 俺達に聞こえないように詠唱しても無駄だ。

「かっ!!」

 女の周りの空気を一瞬で消失させてやる。

 女は一声発して、意識を消失し、その場に頽れた。

 俺は、女の傍に近付き、止血を施してやる。口元に手をやり、呼吸が戻っていることを確認し、肉塊と化した男の死体を分解消失させる。その地面に残っているのは結晶化した霊子回路だけだった。

 よくもまあ、こんなことをやろうと思ったもんだよ。

『確認したいことが幾つかある。』

 ああ。俺も同意見だ。この女は連れて帰らなくっちゃな。

 口の端に血糊を付けたトンナが俺の横に立つ。トンナが吹き飛ばされた瞬間に治療は完了している。

「すまなかったな。痛い思いをさせた。」

 トンナが首を振る。

「ううん。すぐにご主人様が治してくれたから、そんなに痛くなかったよ。」

 俺の視線を追って、トンナが女を見下ろす。

「どうする?死刑にする?」

「いや。連れて帰って、色々と聞かなくっちゃならない。持ってくれる?」

 トンナが盛大に嫌そうな顔をする。

 まあな。気持ちはわからんでもない。汚いし、臭いしな。

 俺は女の体中に付いた血を分解消去し、麻袋を再構築。その袋に女を詰め込みながら女の体、主に脳味噌にマイクロマシンを侵入させる。

 トンナが麻袋を肩に担ぎ、俺と二人、連れ立って洗脳された奴隷達の待つ塒へと向かう。途中、ドルアジを引っ捕まえなくっちゃな。

本日の投稿はここまでとさせていただきます。お読み頂きありがとうございました。

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