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月トガリ  作者: 吉四六
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嘘吐きが騙される

ハルディレン王国とインディーラヌカ王国の話を入れ替えて構成を替えました。

 ハルディレン王国、王都の名前はハルディーデル都だ。ハルディレン王国の首都であり、王城のある王都なので本来はハルディレン都という名前になるはずなのだが、この(みやこ)、元はデリノース・フォン・コーデル伯爵領の中心都市であった。その中心都市を取り上げる形で遷都したため、新国王のトレイザース・プリンコ・デク・オク・ハルディレン、くそ、長ったらしい名前だな。憶えてらんねえぞ。

『エスペラント語だな。デク・オクってのは十八代目を意味してる。』

 なんだ?そのエスペラント語ってのは?

『国際社会での共通言語として開発された人工言語だ。カルザンの長ったらしい名前にもエスペラント語が使われてる。』

 へえ。グルグル先生ありがとう。

『ちなみにプリンコってのは、王族の男ってことを意味してるんだろう。』

 成程ねぇ。じゃあ、本当の名前って言うか国王の名前としてはトレイザース・ハルディレンってことか?なんだか鬱陶しいことをするねぇ。

『王族ってのは、先祖と同じ名前を使うパターンが多い。トガナキノ国でもトガリって名前の子供が爆発的に増えたろう?偉業をなした先祖の名前にあやかって、子供に同じ名前を付けるから、何代目の王様かわかるように名前に十八代目って入れるのさ。』

 成程。

 雑学王だな。

『お前が知らなさすぎるだけだ。』

 いや、普通は知らねえだろ。まあいいや。とにかく、そのトレイザース・ハルディレンが『端折りやがった。』いいんだよ!長ったらしいんだから、名前の部分だけで!

 とにかく!そのトレイザース王がコーデル伯爵に遠慮して、コーデルの語感を都市名に残したため、ハルディレン都ではなく、ハルディーデル都という名前になった訳だ。

 そのハルディーデル都にも法務局がある。

 この法務局、なにをしているのか詳しいことは知らないが、土地建物の持ち主が誰なのかっていう登記をするところだな。

『本来は人権擁護に、国がらみの訴訟事案の処理、戸籍、出入国の管理、土地建物登記が仕事だな。ただ、ハルディレン王国でもそうだが、貴族制度が残っている国では人権擁護関係は機能していないだろう。』

 そ、そうか。で、土地建物登記をしてるところだから、ここに来れば、あの建物は誰のものかってことがわかるようになってる。

 その法務局にトドネ、イノウ、セザルの三人が訪れる。

「ここで、現場建物に隣接する建物所有者を特定するのですか?」

 トドネの言葉にイノウが前を向きながら答える。

「そうだ。頭っから違法捜査になっちまったから、手間をすっ飛ばしても良いんだが、俺はそういうのが嫌いだ。今回の局長は走り過ぎだよ。自分から違法捜査に取り掛かってるからな。バレたら大ごとだ。だから、俺達だけでも正規の形で動くんだよ。」

 大仰な石造りの建物。

 赤レンガで建てられた巨大な建築物がハルディーデル都法務局だ。

 外観から中も広大な部屋があるんだろうと思わせるが、広い部屋を作るのは難しいらしく、小分けにされた部屋が並んでいる。

 少し広めの玄関ホール、奥の壁の中央に扉があり、その両脇にカウンターが設置されている。そのカウンターの向こうに受付が二人づつ、計四人が並んで座っている。

 左に視線を走らせると、長い廊下があり、壁際に木製ベンチがずらりと並べられ、そこに十数人が座っている。

 右に視線を走らせても同じだ。

「かなり待たされそうだな。」

 セザルが呟く。

「公務じゃなければね。それに俺達は登記の閲覧だけだから、そんなに待たされないですよ。」

 イノウが答えて、カウンターに座る一人の女性に向かって歩き出す。トドネが慌てて追随する。セザルはその場で欠伸をしながら待つつもりだ。

「こんにちは。」

 イノウの言葉にカウンター席の女性が軽く会釈する。

「今日はどういったご用件ですか?」

 無機質な回答。愛想もくそもあったもんじゃねえな。

 イノウが連邦特別捜査官の証票を提示する。カウンター席の女性の表情が僅かに動く。

「登記の閲覧です。ハルディーデル都サルオス区の登記を確認します。」

 女性が頷く。

「それでは、この廊下奥の四十二番の部屋へどうぞ。」

 イノウが会釈し、トドネ達を振り返る。

「行くぞ。」

「ホントに早いな。」

「公務ですからね。」

 セザルとイノウが歩きながら話す。カウンターの横を通り抜け、長い真直ぐの廊下を進む。廊下の両側には木製の扉が幾つも並び、扉の上には番号の打たれた木札が打ち付けられている。

 トドネが左右を見ながら歩いていると、イノウが、「右が奇数で左が偶数だ。」と見るべき方向を教える。

「はい。ありがとうございます。」

 四十二番の部屋に入る。

 大きな部屋に大きな本棚が幾つも並んでいる。数人の男性が大きな机の上に大きな地図とA4サイズのファイルを広げている。

 その男達に向かって、イノウが特別連邦捜査官の証票を提示し、声を張り上げる。

「私は特別連邦捜査官のイノウ・ハウゼンです。現在時よりハルディレン王国ハルディーデル都法務局四十二番書類閲覧室は特別連邦捜査局管轄の捜査現場となります。速やかに退出してください。退出を拒否される場合は公務執行妨害の現行犯として連邦国家法の罰則規定に従い処罰されます。」

 おお、おお、国家権力を思いっきりかさにきてますな。

「なんだ。いきなり。こっちは仕事をしてるんだ、お前の方が後にしろ!」

 当然、そういう声が出るわな。神州トガナキノ国で通用しても禊を行っていないハルディレン王国でそんな言い方で通用する訳がないだろうが。

「お前ら全員の閲覧記録は法務局に残されてる。ここで、公務執行妨害で捕まったら上司や商売相手に迷惑が掛かるぞ。特に、こっちの捜査官は特別連邦捜査官だ。行政権だけじゃなく司法権も持ってる。この場で現行犯逮捕されれば、裁判抜きの執行猶予無しで、即、刑務所行きだ。大人しく言うことを聞いて出て行きな。」

 セザルが、禊を受けていない男達にもその損得がわかるように脅しを交えて説明する。

 閲覧室の男達は文句を呟きながら退室した。

「まったく、ハルディレン王国の臣民は聞き分けが悪いから困る。」

「イノウ君よう。いい加減、ここでのやり方に慣れたらどうだい?」

 イノウがセザルの方を振り返る。

「ここでのやり方に慣れてしまったら、キチンとした捜査手順から外れます。行政手続執行法という法律に反することになります。こちらに非があれば、犯罪者を処罰することができません。」

「へい、へい。わかった、わかった。」

 セザルは目を逸らしてイノウを相手にしない。

「そんなことよりも、早く登記簿を探しましょう。時間が経てば、精霊のざわめきが消えてしまうのです。」

「わかってるよ。トドネはそっちの棚から登記簿の簿冊を、俺は地図を用意するから。」

 トドネが本棚に書かれた通し番号を確認し、該当する番地の登記簿簿冊を引っ張り出して来る。イノウが机の上で地図を開き、窃盗事件のあった場所を開く。倉庫の場所は王都のサルオス区だ。番地は二十六番。地図を開くとさらに詳細な家屋番号が振られている。家屋番号は二十六番の三十五だった。

 隣の建物は二十六番の三十四と三十六だ。

 二十六番の三十四と三十六の登記簿をトドネが確認する。

「三十四番の建物所有者は同じサルオス区に居住のトールデン・ニールという人なのです。」

「三十六番は?」

「三十六番はクォーラスト区に居住のセドン・セリック・ブルーニという貴族なのです。」

「え?」

 トドネの言葉にイノウが顔を上げる。イノウの反応にトドネも顔を上げると、セザルが眉を顰めていた。

「どうしたのですか?」

 セザルが、欠けた右眉を中指で掻きながら、口を歪めて話し出す。

「ブルーニ侯爵は、反神州トガナキノ国の急先鋒なんだよ。だから、正規の手続きを踏んでも建物の捜査を許可しないかもしれねぇなぁ。」

 三人が同時に顔を顰めた。


 奴隷商人ドルアジの案内で、俺とトンナはトレンドルーダ・スラムに入った。

 俺が奴隷を匿う拠点を作ったスデルートン・スラムと似たり寄ったりの酷さだが、こちらには人影をあまり見ない。

 人はいる。

 俺のマイクロマシンが建物内に人がいることを報せてくる。

「クルタスってのはどんな奴なんだ?」

 先を歩くドルアジにトンナの肩から問い掛ける。ドルアジがチラリと振り返り、再び前を向いて話し出す。

「あんたと一緒で流れもんだよ。そのくせ、商品を切らせたことがねぇ。白人だろうと黒人だろうとこっちの要望には何でも応えてくれる。便利な奴隷の卸だよ。」

「魔法使いかい?」

 俺の言葉にドルアジが首を振る。

「わからねぇ。わからねえが多分違うな。」

「どうして、そう思う?」

 ドルアジが苦々しく曲げた口をこちらに向ける。

「見たんだよ。奴の部屋でな。」

 俺はツィージの言葉を待つ。

「奴は月に二、三度、人を殺す。殺して喰うんだよ。魔法使いならそんなことしねぇからな。」

 トンナが盛大に顔を顰める。ちなみに俺もだ。

「あの野郎、俺にも皿に盛った人肉を勧めてきやがったのさ。」

「喰ったのか?」

 大きく振り返ったドルアジが一際大きな声を上げる。

「喰うわきゃねえだろ!!」

 トンナの足がドルアジの折れた腕に飛ぶ。

「グッ!!」

「あなた。死ぬ?」

「クッ。」

 折れた腕を庇いながら、ドルアジが再び前を向く。

「白人かい?」

「いや、人種はわからねぇな。人種どころか人間かも怪しいもんだ。」

 キミマロと話せたら、プロファイリング位できたかもしれないな。

 キミマロは俺の第七副幹人格だ。いや、だったと言うべきか。俺の全人格中で唯一のシリアルキラーだ。今は俺と混じりすぎて、話すことができない。

「此処だ。奴は此処を塒にしてる。」

 ドルアジが一軒の建物の前で止まる。古びた石組みの建物だ。四階建てで、窓には窓ガラスが一切はまっていない。板で塞がれている。一段高くなったピロティに上がり、トンナがいきなり木造の扉を蹴り破る。

 はい。来訪者の存在をクルタスに報せました。もう、いい加減だなぁ。

 俺はトンナの肩から跳び下り、無造作に建物内へと足を踏み入れる。

 板と板を打ち合わせるような音と風切り音が響く。

 俺の眼前でトンナが矢を握る。

 トンナの手には五箭の矢が握られていた。危ねえなぁ、もう。

『気を抜き過ぎだ。マイクロマシンを走らせとけ。』

 走らせてるけど…検知してなかった…これって…

『まさか、俺達のマイクロマシンを復号化したのか?』

 可能性としては高いよな?

『面白い。滅多に見ない高度な魔法使いだ。』

 暗号化されてるのか?

『今調べてるが…大したことないな。初歩的な暗号化だ。復号化した。試しに少しばかり複雑な暗号を使ってみる。』

 実証実験好きはこれだから困るよ。最初っから強力なセキュリティにしとけよ。

『相手の力量を知りたい。黙ってろ。』

 へいへい。とにかく頼むぜ。死にはしねえだろうが、痛いのは勘弁だ。

『俺は痛くないからな。多少は我慢しろ。』

 出た、超他人事発言。

 暗い廊下を進み、両側の扉に注意を促す。

 マイクロマシンが無効化されている恐れがある。俺がドアノブに手を掛けようとすると、トンナが即座に蹴り破る。

「全部開ける?」

 トンナが腰を振りながら楽し気に聞いてくる。なんで、こんなに楽しそうなんだ?

「トンナ、楽しそうだね?」

「うん。こういうのって久しぶりじゃない?ご主人様と一緒に旅してたこと思い出しちゃった。」

 う~ん。あの頃って、こんなに荒っぽかったかなぁ?まあ、人の記憶って曖昧だからな。

「で、全部開ける?」

「うん。でも順番にね。」

「なんなら、壁もぶち抜こうか?」

「いや。そこまでは良いよ。」

「なんで?ぶち抜くよ?」

「いや、なんで、ぶち抜くの?」

「その方が気持ちいいから。」

「うん。建物が崩れるかもしれないから、ぶち抜かない方向で。」

「そう?」

「うん。ぶち抜かないで。」

「わかった。」

 ホントに楽しそうだな、この姉ちゃん。

 俺は一室一室を確認して回る。間取りは全て同じだ。リビングにキッチン、寝室が一つとトイレが一つのアパートメントだ。

 共有廊下、その中央付近の階段に辿り着き、二階へと上がる。

 罠のような物は最初の弓矢だけだ。後は何事もなく俺達は歩みを進める。

 二階の廊下で足を止め、左右を確認する。暗い廊下に鉄管が何本も走っている。錆の浮いた鉄の手摺はいつ折れてもおかしくない。

 うん?最初の弓矢だけ?変じゃねえか?後ろを振り返る。

 ドルアジがいない!

 イズモリ!!騙されてるぞ!!

『なに?!』

 体中の霊子回路を高速稼動、一気に超高速ゾーンに突入する。

 研ぎ澄まされた右の耳が金属同士の填まる音を拾う。

 俺はトンナを引き寄せ、トンナの両肩に乗る。

 頭上で連続した爆発音が鳴り響き、建物全体が振動に包まれる。

 体内の霊子を一気に加速、体内に常駐しているマイクロマシンに乗せて、荷電したマイクロマシンを天へと掲げた両手から即座に撃ち出す。

 床が抜けるが、トンナの体術は、そんなことを物ともしない。直立したまま一階の床に平然と立つ。周りは瓦礫が次々と落下して来て、埃が舞い上がる。

 完全に消失した石積みの建物。解体現場のようになったその場所にトンナが立ち、その肩の上に俺は仁王立ちだ。

 最初の罠は俺達を誘い込むための罠だ。此処にクルタスがいることを確信させるための。

 マイクロマシンは初歩的な暗号化で、その実力を隠し、俺達を油断させやがった。だからイズモリは、あまり複雑ではない暗号でセキュリティを下げたマイクロマシンを放った。

 敵はその暗号を復号化することなく、同じ暗号コードを使って、マイクロマシンに上書きした。つまり、俺達に気付かれないように再び俺達からマイクロマシンを奪った!

 イズモリ…てめぇ、しっかりしろよ!!

『…腸が煮えくり返るってのは…久しぶりだ。』

「ご、ご主人様…?」

 トンナが巻き込まれたじゃねぇか。

 咄嗟に荷電粒子砲を撃たなけりゃ、瓦礫の下敷きだ。死にはしなくても骨の三、四本は折れてたろう。

「やってくれるじゃねえか。」

『まったくだ…』

 俺はトンナの肩の上で、まだ見ぬ敵を睨み続けていた。

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