魔法犯罪
「なんで賞金稼ぎが此処にいるんだい!!」
こっちはこっちで大変そうだ。
モニターが幾つも並ぶ魔虫のコントロールセンターだ。
部外者立ち入り禁止の魔虫のコントロールセンターに賞金稼ぎが入り込んでるんだから、そりゃ局長の立場からしたら怒るわな。
「は、はあ、コルナ総監から直接の指示がありまして…」
魔虫コントロールセンターのセンター長が連邦捜査局長であるハルタに抗弁、ってか、言い訳してる。
「なに?!」
コルナの奴、局長を通さず、直接、センター長に話したのか。そりゃ怒るわな。
ハルタ局長の通信機が着信音を発する。
「はい?誰だ?」
「私だ。コルナだ。」
ハルタの背筋が伸びる。
「はい!!!!!」
「何度も連絡していたのだが、一向に出ないのでな、悪いが、直接、センター長に連絡させて貰った。賞金稼ぎのセザルという男、その男に、特別に魔虫コントロールセンターに入室、映像閲覧及び捜査の協力の権限を認めた。」
「はい。しかし、民間の賞金稼ぎを魔虫の…」
「彼には私が依頼した。問題があるなら私がそちらに出向くが、どうしたい?」
「いえ!!了解いたしました!なにも問題はございません!!」
「結構。陛下も今回の事件は気になさっておいでだ。しっかりと捜査に励め。」
「はい!!!」
通信が切れた途端にハルタ局長の方から物凄い音量の歯軋りが聞こえる。
初めてだよ、覚醒してる人間の発する歯軋りを聞いたのは。
魔虫コントロールセンターに居る全員がポカン状態だ。
そのコントロールセンターに居るのは、トドネを始めとする連邦捜査局特別捜査班第五班捜査員の五人と賞金稼ぎのセザル、そして、コントロールセンターの係員八人だ。その全員に聞こえるようにハルタ局長が背中を向けたまま怒鳴る。
「いいかい!!この事件は可及的速やかに解決しなければならない!!全員!寝る間も惜しんで!飯を食う時間も捜査に当てろ!!」
ハルタ局長が振り返る。鬼の形相だ。
「でないと…全員、殺されるぞ…」
一転した静かな声に全員が喉を鳴らす。
いや、殺されないから。どこから、そんな噂が出たんだ?コルナの一声ってそんなに恐ろしいのか?
「いいか、これは本当のことだ。以前、ハルディレン王国にあったレストランの話だ。陛下が気に入っておられたレストランの食事に何者かが異物を混入した。そのために、そのレストランは経営が立ち行かなくなり倒産したのだが、陛下はそのことをお許しにならなかったのだろう。コルナ総監が、我々連邦捜査官に混入者の捜査、逮捕を命じられたのだ。だが、担当の捜査官は捜査に身が入らずズルズルと時間だけが過ぎて行った。その結果…」
全員が眉を顰めてハルタ局長の言葉を待つ。俺も思わず待っちゃったよ。
「その捜査官は行方不明になった…」
ええ?嘘、なんで?なんで行方不明?そこ、凄い気になるんですけど?
「コルナ総監が仰ったのだ。新神たる陛下のご機嫌を損ねる者には、凄惨な死しかないとな。」
お前かああああああ!コルナ!全っ然っ身に覚えがないんですけど!もう!訳わかんねぇ!!
「そ、そんなことがあったのですか…」
いや、トドネ!そんなことなんてない!俺はそんなこと命じてないから!
「陛下って…」
イノウ君?その先を言ってみ?な?聞いてやるから言ってみ?
「とんでもない暴君なのね…」
ウタネヤさんでしたっけ?うん。君、誤解があるようだから、一度じっくり話そうか?ん?
「おっとろしいな。そんな暴君が俺達の王様だってのか?」
お前は誰だ?第五班の班員かもしれないが言葉には気を付けろよ?
「まったくだ。まともな思考回路とは思えねえな。」
貴様もか?ん?お前の人事評価は俺が握ってるも同然なんだぞ?
「はは、その話が本当なら、気合も入るってもんですね?」
セザルが大きな笑顔で笑い飛ばす。
「それじゃあ、早速、問題となりそうな映像の洗い出しを始めましょうか?時間が勿体ない。」
セザルが取り仕切るような形で映像チェックが開始される。
全員が一つのモニターに向かって視線を注ぐ。
モニターは画面が六つに区切られ、同一時間の同一場所を六つのアングルから映し出していた。六匹の魔虫が同一時間の同一場所を撮影していたのだ。
「やはり、新神武道の第三式なのです。」
「そうかい?あたしには違うように見えるがね。」
トドネの言葉にハルタ局長が首を傾げる。
「ここで、止めてください。」
六つに区切られた画面の一つにトドネが指先を向ける。
「足の開きを変えていますが、両足先の向きが内に向けられています。この、膝を曲げて、一見すれば力の入らないような構えですが、ここから足技が出るはずです。」
画面の中の男達が再び動き始める。すると、トドネの指摘通り、片方の男が蹴りを繰り出す。
「あくまでも、普通の喧嘩に見えるように工夫していますが、肝心な部分での動きは新神武道の第三式津波の型なのです。」
「成程なぁ。新神武道の第三式組手中に死ねだの殺すだのと言ってりゃあ、魔虫はこの組手だけを写し続けるってことか。」
「フン。しかも判りにくいように動きを崩してるってのが、いやらしいね。」
トドネの指摘にセザルとハルタ局長が頷く。
「この二人の人定登録記録が見たいのです。」
ハルタ局長が、センター長に視線を送る。その視線を受けて、センター長がキーボードを叩いて、顔認証システムを起動させる。別のモニターに組み手をしている二人の記録が映し出される。
一人はモンゴロイド、黒髪、茶色い瞳に身長が百八十三センチメートル、体重九十二キロ、ハルディレン王国の兵役五年の経歴。もう一人はネグロイド、黒髪のドレッドヘア、黒い瞳に身長が百八十六センチメートル、体重九十五キロ、ハルディレン王国の兵役五年の経歴だった。
どちらも遺伝子、網膜、声紋、脳紋、全てが登録されている。
「ブロス。ティーラー。二人でこいつらを引っ張っておいで。令状は無いが…セーフティーハウスに引っ張ってくりゃいい。」
おお?違法捜査だ。局長、必死だな。
俺のことを「おっとろしい」と言った奴がブロスで、「まともな思考回路じゃない」と言った奴がティーラーだ。その二人が出て行き、見送ったイノウが局長に視線を送る。
「局長、拙いですよ。セザルさんが居るのに…」
イノウが至極真っ当なことを言う。そりゃそうだ。セザルは民間の賞金稼ぎなんだからな。その民間人を前に堂々と違法捜査をするってことなんだから、局長、必死だな。
「セザル。問題があったかい?」
セザルが口を歪める。
「何かありましたか?俺は、本来、此処に居ちゃいけない人間なんでしょう?入室記録なんてどうとでもなるんじゃないですか?」
セザルの言葉に局長が口角を上げる。
「そんなことよりも、この組手が始まる前の動画が見たいのです。」
トドネの言葉に従い、モニターの画面が巻き戻される。
六つの映像がバラバラに場所を映し出す。大通、裏路地、建物内と様々だ。魔虫は人の動きに敏感に反応してカメラを向ける。人の動きを感じなければ、任意の方向を写し続ける。
やがて、大通りから一人の男が裏路地に入ってくる。その反対側、裏路地を抜けてきた男が現れる。
大通りの方から入って来た男、黒人の男がモンゴロイドの男の足元に唾を吐き、言い争いが始まる。
「白々しいねぇ。」
呆れたようにハルタ局長が呟く。
「おかしいのです。」
「何がおかしいの?」
トドネの言葉にウタネヤがモニターへと乗り出す。
「この二人の組手の前、誰かしらが写っていると思ったのですが、誰も写っていないのです。」
「うん…そうだね。誰も写っていないなんておかしいね…」
二人の会話を聞いていた局長たちもモニターを覗き込む。喧嘩を装った組手が始まったため、バラバラだった分割画面は二人の男しか映していない。
「このモンゴロイドの男は、何処から、この裏路地に入って来たのでしょうか?」
「この辺の裏路地は複雑に入り組んでるからな。モンゴロイドの進入ルートの映像も確認したいところだ。」
トドネの言葉を受けて、セザルが局長に視線を送りながら独り言のように話す。
局長が「その映像は確認できるかい?」とセンター長に問い掛け、すぐに別のモニターに映像が映し出される。
「いない…ですね…。」
事件の発生した倉庫の出入口付近を撮影していた魔虫は、しばらく俯瞰で撮影していたが、モンゴロイドが通り過ぎ、組手が始まった途端に角度を変えている。
僅かに倉庫の扉が写っているが、誰も出入りしていない。
「確かに奇妙だね…他には誰も写っていない…」
局長が再確認するように、トドネと同様のことを呟く。
一人、モニターから離れていたセザルが煙草に火を着ける。
「ここは禁煙です。」
センター長がすぐに咎めるが、セザルは構うことなく、口角を上げて笑う。
「俺は此処に居ないことになってる。だから、俺が何をしようと自由だろ?」
センター長がセザルに詰め寄る。
「そんな屁理屈が通ると思ってるんですか?すぐに消してください!」
セザルが煙草を摘まんで笑いながら応える。
「いいのかい?それじゃあ、俺が此処に居たってことになっちまうぜ?それに、全員が俺に注目してちゃあ、大事な場面を見逃しちまうぞ?」
あざとくセザルが煙を吐き出す。その煙が換気口へと吸い込まれる様を見てトドネが叫ぶ。
「ああ!!」
セザルを除く全員がトドネに注目する。
「屋外からと決めてかかっては駄目です!屋内からの侵入の可能性があります!」
「でも、事件のあった建物の出入口は一か所だけだよ?それに屋内にも魔虫はいるよ?」
トドネの言葉にウタネヤが反論する。
「不自然だったのです。このモニターだけ六分割なのです!」
「そりゃそうさ。六匹の魔虫が同じ場所にいるんだ。六分割になるだろうよ。」
局長の言葉にトドネが振り返る。
「そうなのです。六匹の魔虫が一か所の映像を撮っていることが不自然なのです!」
「だから、喧嘩の振りして魔虫を集めたんだ。そうなるに決まってるじゃないか。」
イノウが首を傾げる。こいつ、鈍くね?
「はい。だから、建物内に魔虫がいません。」
「だから、建物内にいなくなっても、倉庫の出入口は一か所なんだぞ?別の建物内からってどうやって入るんだよ?」
イノウが詰問するような口調になる。こいつ、ちょっと生意気なんじゃねぇ?俺の可愛いトドネを苛めてみろ、タダじゃおかねぇからな?
「魔法使いには関係ありません。」
トドネの言葉に全員が黙り込む。
「…魔法使いによる犯罪…?」
イノウが不思議な物を見るようにトドネを見る。
「現場に戻って確認する必要があります。それと、魔虫のシステムに詳しい人物を抽出する必要があると思います。」
「でも、トドネちゃん、魔虫に詳しくって魔法使いとなると…」
ウタネヤの言葉にトドネが頷く。
「いや、そんなことがあるはずがない…」
局長が俯きながら呟く。
「限りなく、可能性としてはだが。神州トガナキノ国の人間が犯人だってのが、限りなく、可能性としては高いな。」
セザルが局長の言葉を受けて、全員が口にしなかったことを言葉にする。
「ウタネヤ。あんたはハルディレン王国内にいる本国の人間のリストを作るんだ。イノウ、トドネとセザルを連れて、現場を再度確認、あたしはコルナ総監に直接報告する。」
全員が一斉に動き出す。
さてさて、大変なことになってきたぞ。大掛かりだが、ただの窃盗犯だと思っていたが、犯罪を起こしにくく調整されている、魔法使い、神州トガナキノ国の人間、その二つの要素を持った奴、もしくは二人か、そいつが容疑者だ。システムの根幹を揺るがす問題に発展するな。ヘルザースの驚いた顔が見ものだ。俺?俺は別に驚かないよ?だって俺は魔法使いだし、新神記によると史上最恐最悪の犯罪者だからな!犯罪者だからな!!




