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月トガリ  作者: 吉四六
19/54

人間ってそう簡単には変わらないよね?

 俺はインディガンヌの奴隷事情の調査をするために、奴隷商人のドルアジに会いに出かけた。

 奴隷達にはこの建物から出ないように厳命した。厳命も何も奴隷達は、俺達が命令しなければ、トイレ以外で動くこともない。

 食事にしても俺達が食事をとりなさいと言わなければ、ずっと立ちっ放しだ。完全にロボットだ。しかもAIプログラムのないロボットと同じ状態だ。

 現状で、俺は奴隷達の洗脳を解いていない。とにかく神州トガナキノ国に移してから、腰を据えて調べるつもりだ。その方が俺達もインディガンヌ王国で自由に動くことができる。

「ここか。」

 木造の簡素な建物だった。

 観音開きの扉もルーバー付きで隙間だらけだ。その扉を押し広げて俺とトンナが中に入る。

 たむろしている男達が一斉にこちらを見る。その中には見たことのある顔がいる。そいつらは、全員、顔に包帯を巻いていた。トンナが奴隷市で殴り飛ばした連中だ。

 テーブル席が五つに奥にカウンター席が十席、席の三割ほどが埋まっている。

 奥のカウンターに躊躇なく向かい、バーテンに声を掛けようとして、身長が足りないことに気付く。

 トンナが俺の両脇を抱え持ち、カウンターを越してくれる。なんとも格好悪いが仕方ない。もう慣れたしね。くっすん。

「よう。奴隷商人のドルアジを呼んでくれ。魔法使いのツィージ・カルザンヌが会いに来たって言ってくれればわかるはずだ。」

 バーテンがチラリと視線を走らせる。

「待ってな。」

 一拍置いてバーテンが無愛想に答えた瞬間だった。俺の横で木製のカウンターが爆発したように弾け飛ぶ。

 ええ?!何事?!

「お前、ご主人様に対する態度がなっていないわ。生まれ変わる?」

 トンナだった…。

 俺を抱えた上半身は微動だにしていないのに右足を跳ね上げて分厚い木のカウンターを蹴り壊しやがった。恐ろしい女だ。

 背後で殺気がモリモリと盛り上がってますけど、なんなの?トンナってこんなに喧嘩っ早かった?

「お前ら、止めとけよ?こいつはお前らの持つ銃よりもおっかねえぞ?昨日、見てるだろう?こいつに銃弾は通用しないぞ?」

 振り返らずに言ったのが拙かったのかなあ?俺の忠告はあっさりと無視された。男達が椅子から立ち上がる。

「ご主人様、こいつらも、きっとグルなんでしょう?死刑にしとこうよ。」

 俺にだけ聞こえるようにトンナがボソリと呟く。

 ああ、そうか。子供達を洗脳した奴らが許せないんだ。だから、こんなに瞬間沸騰湯沸かし器状態なんだな。

「手掛かりが何処にあるかわからない殺すな。」

「了解。」

 俺を抱えたままトンナの長い脚が一閃。

 背後の男を後ろ回し蹴りの一薙ぎで壁にまで吹き飛ばす。

 男達に正対した時点で俺はトンナの肩に載せられ、肩車状態だ。飛び来る銃弾をトンナが両手で摘まみ上げ、長い脚を縦横無尽に奔らせる。

 目まぐるしく位置を変え、男達を次々と蹴り飛ばす。

 俺は天井から下がった簡素なシャンデリアを避けるのに必死だ。

 店内の男達を全て壁際まで蹴り飛ばし、カウンターに向き直る。カウンターの向こう側では、無愛想だったバーテンが真っ青になって固まっていた。

 トンナの一歩は七メートルの遠間を瞬時に潰す。

「ごあッ!!」

 トンナの右足がカウンターを突き抜け、バーテンを背後の酒棚に縫い付ける。バーテンは変な声を出しながら、血を吐き出した。

「お前、死にたい?」

 トンナの言葉にバーテンが小刻みに首を振る。

「じゃあ、まずはあたしのご主人様にごめんなさいを言いなさい。」

「す、すまなっグオ!!」

「ごめんなさいよ。」

 トンナがバーテンの腹に食い込んだ爪先を抉る。

「ご、ごめんなさい…」

 ホントにこいつらは鬼だな。トンナに限らず、俺の周りの女達はスゲエのばっかりだ。

「フン。」

 バーテンは酒棚に押し付けられたまま左に吹き飛ばされる。

 粗方の酒瓶が割れて、カウンターはボロボロだ。

 トンナの肩から跳び下りようとして、抱かかえられる。

「たしか、二階って言ってたよね?」

「う、うん。」

 六年前を思い出すよ。あの頃も自分では歩かせて貰ってなかったよな?

 トンナがカウンター横の扉を蹴り飛ばす。

 通路の先には男が一人待ち伏せしていたようだが、蹴り飛ばした扉と一緒に吹き飛んで、銃声だけが虚しく響く。

 階段を上がり、二階の通路に出る。

 三人の男達が銃を構えていた。

 遅い。

 対象を認識するまで構えていやがる。トンナの起こりの方が遥かに速い。銃声が響くと同時に二人が吹き飛ばされ、最後の男はトンナの左手で頭を鷲掴みにされていた。

「痛!いだだだだだだだだ!」

 男は銃を取り落とし、両手でトンナの左腕を掴んでいる。トンナはお構いなしにそのまま男を吊り上げる。

「答えなさい。ドルアジの部屋は何処?」

「いだだ!痛い!いてえ!!」

「ご主人様、潰していい?」

「ダメ。おい、ホントに潰されるぞ。早く答えろ。」

 男が片手を放して、一室のドアを指差す。同時にトンナが左手を無造作に振り回し、男を壁に放り出す。合掌。

 男が指差したドアの横。壁の前にトンナが立つ。

 左掌を白い壁に当てて、体中を瞬間的に捻る。

「フン!!」

 トンナの足元の床が粉砕され、壁が大きく抜ける。でかい破片が部屋の中へと飛ぶ。

「ッブ!!」

 部屋の中から男の声と銃声がする。

 トンナが頭を下げて、壁に出来上がった穴を潜る。

 いた。

 ドルアジは飛んで来た破片を避けることができず、床に大の字で伸びていた。

「ひいいいいいい!!」

 俺達の姿を認めた裸の女が悲鳴を上げる。

 まったく、ギャングの連中といい、こいつらといい、昼日中からお盛んなことだ。他にやることねえのか?

『ないんだろうな。』

『ないよね?』

 うん。クシナハラは黙ってようか?

「チッ!羨ましい…」

 おい、トンナ。そんなことボソッと言っちゃ駄目だよ?何気に傷付くからね?ね?

「出ておいき。」

 トンナが忌々し気に首を振って、女に命令する。女はベッドのシーツを引っ掴み、体に巻きながら、部屋を飛び出して行った。律儀にドアを開けて。

「じゃあ、トンナ下ろして。」

「えええええええ~。」

「いや、話を聞かないと。な?」

 トンナが無理矢理キスしてくる。

 なんで?なにゆえに今?

「ちょ、ちょっと、どうしたんだよトンナ?」

「だってえ、昨日してないし…」

 いや、だからって今か?今なのか?

「わかった。じゃあ、今晩は昨日の分も合わせて二回。な?」

 トンナが口を尖らせる。

「…うん。…三回で…」

 トンナが良い顔で笑う。

 もしかして、今日、喧嘩っ早かったのって俺の所為か?なら、この惨状はトンナの欲求不満の八つ当たり?ええ?そんな、まっさか~。

「暴れたら、ちょっとスッキリしたから三回で良いよ。」

 おい。この姉ちゃん、どっか壊れてるんじゃないか?

「ま、とにかく、一旦下ろして。」

 やっと解放されて、俺は伸びたドルアジに近付く。

「おい。起きろ。」

 ドルアジの頬を平手で叩く。

「うん、うう…」

 顔を顰めながらドルアジが覚醒する。

「お、お前は!」

 ドルアジが言った瞬間だった。

 突然ドルアジの右腕が床ごとトンナの足に踏み抜かれる。

「ガアアアアアアアアアアアッ!!」

 うん。そりゃ叫ぶわな。あ~あ。肘が変な方向に曲がってら。大丈夫かな?ちゃんと治せっかな?

「うん。もういいから、ちょっと話させて?」

 俺はトンナの方を振り仰いで宥める。

 トンナが悪戯っ子のように笑いながら、頷く。

「ドルアジ、生きてるうちに答えてくれよ?俺でもこいつは止めるのが難しいんだ。な?」

 脂汗をダラダラと流しながら、ドルアジが頷く。

「お前から買った奴隷、あの奴隷達は、全員、洗脳されてた。洗脳した奴の名前と住処が知りたい。答えろ。」

「し、知らない。」

 爆発したのかと思えるような破砕音が部屋に響く。

「ギャアアアアアアッ!!」

 ドルアジの右足、太腿がトンナの足で踏み抜かれていた。痛そ~。大腿骨って折れねえんだけどなぁ。

「ほ、本当だ!!洗脳しやがったのが誰かは知らねぇ!!俺達が仕入れたときには、もう、洗脳されてたんだ!!」

 うん。嘘は吐いてない。マイクロマシンでそれは確認できる。

「じゃあ、お前の仕入れ先はどこだ?」

「ト、トレンドルーダだ。トレンドルーダのクルタスって奴から仕入れた。」

 再開発予定のスラムか。じゃあ、奴隷達はスラムの物乞いか何かか?

「ふ~ん。よし。じゃあ、そのクルタスって奴の所まで案内しろよ。」

「え…いや、勘弁してくれ、それにこの足じゃ…」

 即座に俺が足を治してやる。

「歩けるだろ?さ、案内してくれ。」

 蒼褪めながら顔を引き攣らせるドルアジに、立つように促す。

「く、ぐくっ。」

 腕までは治していない。ドルアジは苦労しながら立ち上がり、俺を睨みながら口を開く。

「クルタスはイカレてる。行ったら殺されるぞ。」

 なんだよ。定番の台詞だな。

 トンナの足がドルアジの折れた腕に飛ぶ。

「ぐあっ!!」

「今ここで、死にたいなら案内はしなくてもいいわ。」

 トンナ怖。ホントに怖いよ、この姉ちゃん。口より先に足が出るんだもんなぁ。さっきも俺が質問する前にドルアジの腕を圧し折ってたからな。マジでヤバいよ。

「さ、選択肢はあまりないぞ?案内するか、嬲られるかのどっちかだ。死にはしねえよ?俺が治してやるから。だから、嬲られ続けるだけ。どっちがいい?」

 顔中に脂汗を浮かべながらドルアジが歩き出す。

「あ、案内するよ。」

「そ、誰でもそうする。頼むぞ。」

「最初っから、そうすれば良いのよ。まったく。」

 部屋を出ると早速トンナが俺を肩に乗せる。いや~。いつまで経っても俺は俺で、トンナはトンナだわ。

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