ヘルザースめ、酷い目に合えばいいのに!!
俺達の旅って、こんなんばっかりだったでしょ?
なんで、こんなことになったかと言うと、ただ、市場を冷かしながら歩いてたんだよね。
そしたら、子供奴隷の市にぶち当たっちゃった訳よ。
ね?もう、わかったでしょ。
子供達の首に鎖が巻かれているのを見て、トンナがいきなり切れた。
子供奴隷達を並べてる舞台にトンナが跳び上がり、首に巻かれた鎖を引き千切ったら、用心棒の獣人が駆け上がって来て、トンナの蹴りが左右に飛ぶ訳よ。
飛んで来る銃弾は、トンナが摘まんで、撃った連中に指弾として弾き飛ばすし、もう、大立ち回りです。
俺はトンナに打ち飛ばされた連中の治療に大忙しです。
「子供を食いもんにしてる。あなた達は、全員、死刑ね。」
俺を左肩に載せたまま、トンナが舞台下の奴隷商人達を睥睨してる。
「何をぬかしやがる!!俺達は真っ当な奴隷商だぞ!!死刑になるなら貴様らだ!!」
そうなんだよねぇ。この国は俺達の国じゃないんだから奴隷商も立派な合法なんだよね。だから、この場合、罪に問われるのは俺達の方なんだよ。
「何言ってるの?あたしの肩には、かっムグ!」
神様発言は無しの方向で。
俺は、トンナの口を塞いで周りを見回す。
「悪かったな。この女は、昔、他国で奴隷にされてたことがあってな、奴隷市だろうがなんだろうが、奴隷商人に見境がねえんだよ。」
ホントは子供奴隷を見たら見境なくなるなんて言えないからね。
「ガキが口出すんじゃねえ!!手前も売り飛ばすぞ!!」
俺は、頷きながら、「まあ、落ち着けよ。」そう言って、腰のホウバタイに括り付けた鞄の中で、金貨を詰めた袋を再構築して、鞄から取り出す。
袋のまま金貨を放り投げる。
重い金属音を立てて、袋がその形を保ったまま地面に立つ。
一瞬で空気感が変わる。
トンナが俺の方を困惑の表情で見るが、俺が睨み返したので静かに俯く。
「ハルディレン王国の大金貨で六十枚入ってる。この舞台に上がってる子供達の代金と失神してる連中の治療費だ。あと、倉庫にも奴隷が居るだろう?その倉庫にいる奴隷達も相場の二倍で買ってやるから、俺達の泊ってる宿まで金を取りに来い。」
ハルディレンの大金貨で六百万ダラネ。インディガンヌ王国の通貨価値にすれば六千万ヒデラ、インディガンヌ王国では三十年は左団扇で暮らせる金額だ。
一人の男が前に出る。
揉み上げに髪の毛を残した禿頭の男だ。
左目に趣味の悪い模様の入った黒い眼帯をしている。
鼻の下に濃い髭をたくわえ、眉も太い。身長はそれ程でもないのに、腕も肩も太く、ゴツイ印象を受ける。
短い首を隠す丸いスタンドカラー、足首まで隠したワンピースのような白い服に茶色い革のベスト。腰にはヒップバッグとガンベルト、肩からもガンベルトを下げている。胸元には服と同じ素材のマフラーを緩く巻いている。東南アジアなのに砂漠の商人って感じだ。
その男が太い眉を吊り上げ、金貨の詰まった袋を拾い上げる。
口を縛った革紐を解いて、中身を確認する。
「小僧、どこの国だ?」
「トォールク・オザーンだ。」
四つに分断されたユーラシア大陸の最も北側に位置するグランカジア大陸、その大陸の東にある一国がトォールク・オザーン王国だ。
外務省の情報では、インディガンヌ王国の友好国のはずだ。
「随分と寒い国からだな。」
「寒いから、温かい国に来たんだよ。」
眼帯の男がトンナの顔をチラリと見ながら腰のヒップバッグに金貨を仕舞う。
「その女もトォールクで買ったのか?」
「いいや。この女はクルザン王国だ。」
「ほう。その女奴隷が仕出かしたことだ。その女の体で支払ったらどうだ?」
「俺の女だ。こいつの体で支払う必要は無い。」
「金を払うのが趣味か?」
「腐るほどある。俺は、腐らせるよりも人を買う。」
「何に使う?」
俺はニヤリと笑う。
「検体は多い方が良い。」
「新魔法の開発か?」
「それは機密だ。好きに想像しろ。ただ…」
「ただ?」
「この女も俺の魔法で強くなった。貴様の手駒が、いい実証だろう?」
男が周りを見回し、倒れた男達を確認する。
「倉庫にいる奴隷には大人もいるぞ?」
「構わん。病気の奴隷がいるなら、その奴隷も引き取ってやる。ただし、その奴隷については金の支払いは無しだ。」
「インディカンヌ王国のヒデラ通貨で、子供は一人六十万だ。大人の女は一人九十万、男は一人七十万。それで、手を打とう。」
「相場の二倍と言ったが?」
「この袋の分で十分だ。だから相場の一.二倍だ。俺の名前はドルアジ・サガルージだ。」
「ツィージ。ツィージ・カルザンヌだ。」
「ツィージか。必要な奴隷がいたら、この先のデレナドって酒場の二階に居る。いつでも来な。」
「ああ。その時は頼む。」
とにかく、世界中を逃げ回ってる魔法使いだと印象付けることができただろう。これで、俺達が突然いなくなっても不審に思われることはない。俺に会いに来る時も、それなりに気を使ってくれるだろう。
こうなってくると、こっちもそれなりの用意をしなくてはならない。まったく、トンナの暴走にも困ったもんだヨ。
魔法使いによる犯罪発生率は極端に少ない。
まず、生活に困らない。
宮廷に召し抱えられている魔法使いがほとんどで、年収は七百万から一千万だ。民間の魔法使いは更に儲ける。これは、ハルディレン王国の物価からすれば、かなりの高給取りだ。
それと、脳底の精霊回路の作用にもよる。
俺の体中に埋め込まれている霊子回路と基本的な役割は変わらないが、俺の霊子回路には自己制御機能がない。それに対して精霊回路には自己制御機能が付与されている。
そのため、精霊回路を使って魔法を使えば使うほど自己制御機能が強まって理性的な人間になる。
精霊回路は遺伝子情報に肉体の一器官として刻み込まれているが、劣性遺伝子のため表出する者が少ない。俺も精霊回路を持たなかった一人だ。また、精霊回路を備えていたとしても、そのことに気付かずに一生を終える者もいる。姉のトネリと叔母のオルラがそうだ。
相対的に数の少ない魔法使いは貴重である。だから、年収が跳ね上がり、犯罪者が少なくなる。現に旧ハルディレン王国では、魔法使いによる犯罪発生率はゼロだった。
主に発生する魔法犯罪は、新魔法に関わる実験によるものだ。
実験の結果、街に壊滅的打撃を与えた。
人体実験の結果、殺人罪が適用されたり、薬物治験の結果、殺人に至ったというものだ。
俺はマッドサイエンティストよろしく、トォールク・オザーンでの魔法犯罪が発覚して、クルザン王国、ハルディレン王国と逃げ回り、インディガンヌ王国に逃げて来た。そういう設定でいこうと思っている。
この姿も人体実験の結果だと、向こうが勝手に考えてくれるように、努めて大人っぽく話していた。
若返り、別の肉体への精神体の移し替えと、やろうと思えばできるが、俺はやりたくもない。
今のこの姿は、若返りに思えるが、本当の若返りではない。細胞組織は十六歳のままで、姿形が一〇歳なのだから、あくまでも変装に分類される。
マッドサイエンティストらしく、秘密の基地を造らないとな。
俺は買い取った子供奴隷八人を連れて空家を探すが、その前に子供の食料を買い込んでおこうと、肉屋の前に立ち止まる。
「トンナ、適当に見繕ってくれる?」
俺はトンナの肩の上だ。店主の親爺と交渉するにも距離がありすぎる。
「この肉は?」
蠅の飛ぶ中、トンナが店頭に並ぶ肉を指して、肉屋のおやじに聞く。
「その肉はワニの肉だよ。今朝獲れたばかりだ。美味いぜ。」
「そう、じゃあ、この肉とこっちの肉も頂戴。」
「あいよ。全部で三百と二十ヒデラだ。」
ホウバタイから金を取り出し、今度は、俺が親爺に話し掛ける。
「この街にもスラムがあるだろう?どっちに行けばスラムがある?」
「おいおい、スラムの場所を聞いてどうするんだ?まさか、行くつもりじゃねえだろうな?」
親爺の言葉に、俺は笑いながら答える。
「違うよ。迷い込んだりしないように聞いとくんだよ。危ないことには首を突っ込みたくないんだ。」
親爺が頷きながら、笑う。
「そういうことか。いいか?王都には二か所のスラムがある。王城西側のトレンドルーダと東側城壁に隣接してるスデルートンだ。トレンドルーダは物乞いばかりだから、そんなでもねえが、スデルートンは気を付けな。あそこには、ギャングが多いんでな。」
「へえ。じゃあ、スデルートンは不法占拠の連中が多いかな?」
「ふん。不法占拠ってことなら、どっちもどっちだ。ただ、最近トレンドルーダは再開発が始まったって聞いてるからな、ちったあ物乞いが減るかもしれねえな。」
「そうかい、わかったよ。トレンドルーダとスデルートンだな。気を付けるよ。」
「ああ、そうしな。」
俺との会話が終わったと、親爺が下を向いてワニを捌き始める。
「トンナ、」
「うん。スデルートンの方だね?」
トンナが俺を見上げて、ニコリと笑う。
「ああ。頼む。」
俺は量子情報体で宿屋に自分の分体を再構築し、霊子体を分割して、タナハラと共に分体へと移動させる。
『ドルアジが奴隷を連れて来たら、合流だな?』
ああ。頼む。
市場を抜けて、如何わしい繁華街を抜けて、スデルートン・スラムの一角へと到着する。
ゴミ溜めと化した道路は、地道のままで湿ってる。東の城壁が陽射しを阻むせいだ。
街並みを構成するのは石積みの建物だが、漆喰が全て剥がれて、ボロボロだ。
そこかしこに薬物中毒の奴が寝転がっている。
「ここにするか。」
奴隷を大量に買ったのだ。ボロボロでも大きな建物が必要だ。
半地下のある、四階建ての面積の広そうな建物を選ぶ。
建物の出入口は二か所、俺達が立っている側が正面玄関で、その反対側が裏口だ。うん。ワンブロックを突き抜けてる構造だ。大きくて、何か起こった時に逃げやすい。
トンナが躊躇することなく、正面玄関へと続く階段を上がる。
上がりきったところで、玄関脇に立っている二人の男に止められる。
「貴様ら、何者だ?来客の予定は聞いてないぞ?」
裸体に革のベストを着たガチマッチョな黒人が、トンナを押しとどめる。
「出入りの奴隷商とは違うな?商売の申し入れか?」
やっぱりガチマッチョなモンゴロイドの男が、後ろに並ぶ子供達を見ながら、俺達に話し掛ける。
トンナが俺の方に顔を向ける。
俺はちょっと考え、二人のガチマッチョの意識を遮断する。
二人のガチマッチョが、力なくその場に頽れる。短期記憶から長期記憶に移行することはないだろう。認識疎外で俺達が見えないように脳内の電気信号を弄らせてもらう。
脳の視覚野に届けられる電気信号をコントロールして、俺達の映っていない映像を捏造する。かなり膨大な作業となるが、今の俺にとっては簡単な作業だ。同時に聴覚の方でも同じことをさせてもらう。
二人のガチマッチョが起き上がり、お互いに顔を見合わせ、首を捻りながら周囲を見回す。
当然、俺達とも目は合うが、その視線は俺達を通り過ぎて、元の定位置に戻ってガードマンの仕事に戻る。
トンナがドアノブを回して扉を開き、子供達を中に誘い入れるが、二人のガチマッチョは気付いていない。トンナの肩から跳び下り、トンナと連れ立って最後尾で建物内に入る。
建物内も外に負けず劣らずに汚い。
壁紙は剥がれて内壁の板張りも腐ってる。玄関ホールは広いが、ゴミが多すぎて手狭に感じる。
ホール横の扉から汚水の臭いが漏れてきている。共同のトイレだろう。
高窓は全開だが、湿気が籠って酷い臭いだ。
こいつは…エダケエの支部を改築した時の比じゃねえぞ。
玄関ホールを奥へと進むようにトンナに指示して、玄関ホールから廊下へと進む。廊下でも二人の男を見かけるが、俺達に気付いていない。さながら俺達は幽霊のような存在だ。階段に到着して、最上階を目指す。
最上階に到着して、階段から最も遠い部屋を目指す。
ドアを開ける。
二十畳ほどの部屋に応接セットと執務机が三脚、男が六人座って淫猥な雑談に盛り上がっている。壁には銃器類が並べられ、衝立の向こうは簡易なキッチンだ。
汚れた食器類が散乱し、床に寝転がっている女がいた。顔を覗き込むと、やっぱり薬物中毒だった。
窓は全開だが、ムッとする熱気がジットリと絡み付いてくる。マイクロマシンを使って、俺達の周りから湿気を取り除く。
男達の人種は様々だ。コーカサスにネグロイド、モンゴロイドが一番多い。全員が半裸状態で刺青を晒してる。
奥に扉があるので、開けて中に入る。暗い部屋だ。木製のブライドを下げて僅かな隙間から風を取り込んでいる。大きな机があり、男と女が、そこで子供達に見せられない、イケないことをしていた。
俺は顔を顰めて、「トンナ、子供達を入れるんじゃないぞ。」と声を掛ける。
トンナも顔を顰めて、「うん。わかってる。」と答える。
俺は男と女の脳内に侵入させてあるマイクロマシンで脳内の電気信号を全て阻害する。
女が机に突っ伏し、その上に男が覆い被さるように倒れ込む。
「ちっ。処置なしだな。」
この男と女、両方とも、薬物中毒だ。
仕方がない。こいつらには出て行ってもらおうか。
俺は、この建物に居る全員の脳内にマイクロマシンを侵入させている。そのマイクロマシンで、脳内の電気信号を操作して、全員の体を乗っ取る。
男と女が下半身を丸出しにした状態で、スタスタと何事もなかったかのように、奥の部屋を出る。その後について、俺とトンナも部屋を出る。
座っていた六人の男と寝転がっていた女もフラリと立ち上がって歩き出す。
全員、意識はある。自分が何をしているのか理解できていないだけだ。理解していないが、体が勝手に動いている状態だ。
夢遊病者の行進だ。
廊下で、他のギャング達が合流し、階段を下りて玄関に辿り着く。最後にガードマン役の男達も合流し、建物の敷地外へ出る。道路で、阻害していた電気信号を元通りにしてやる。
ギャング達の目に光が戻り、慌てて周囲を見回す。
混乱が奴らを包む。軽いパニックだ。
やがて、見慣れた風景から一つの物が抜け落ちていることに気付く。
ギャングが根城にしていた石積み構造の建物。
その建物が消えているのだから驚いただろう。建物の外で、怒号と叫び声が巻き起こるが、俺達は建物の中だ。
「あいつら、どうしたの?事務所が消えたとか言ってるけど。」
「この建物が見えないようにしたんだよ。」
「へ~。それも魔法?」
「そう、魔法。」
「ふ~ん。」
トンナが窓を覗き込み、慌てるギャング達を見ながら感心する。
「でも、この建物って、その、存在はしてるじゃない?だったら、触ればわかるんじゃないの?」
もっともな疑問をトンナが口にする。
「そう。触ればわかるけど、触ることができないから大丈夫。」
「そうなの?」
「そうなんだよ。」
「ふ~ん。」
まったく、魔法って言葉は便利だな。説明しなくっても魔法と魔力と精霊って言っとけば良いんだから。
実際は、建物周囲にバラ撒いたマイクロマシンの仕事だ。
マイクロマシンを使って、ギャングが根城にしていた建物が無くなり、両隣りの建物が、消えた建物の部分を埋めているような映像を見せているだけなのだ。
併せて、方向感覚と距離感を狂わせるマイクロマシンも散布してある。
実際の両隣の玄関位置と目に見えている両隣の玄関位置は違う。
目に見えている玄関位置に向かおうとすると、狂わされた方向感覚と距離感によって実際の玄関位置にまで誘導されるのだ。
つまり、俺のマイクロマシンの暗号化されたプログラムを破ることのできない者は、この建物に触れることもできない。と、いうことになる。この世界風に言い換えれば、高度な精霊魔法による結界って感じだろう。
この世界では、マイクロマシンを精霊、霊子を魔力、各元素を魔素として理論付けている。物理や化学の知識のない人間が、事象の結果を受けて、その理由づけに小難しい言葉を使っているにすぎない。そのために、この世界の人間、魔法使いは、俺には勝てない。
霊子の消費は非効率だし、火力の出し方も知らないし、人体構造に関する知識も乏しいのだから当たり前だ。
俺は、子供達を玄関ホールに集めて、そのまま待たせて、建物の改造を開始する。
まずは耐震強度を高めるために構造を補強する。この建物をマイクロマシンで調べて気付いたのだが、この地域のインフラは全く整備されていない。
東の城壁が日差しを遮るために住環境が悪化して、スラム化したのかと思っていたが、なんてことはない。
インフラ整備を考えずに中層建物をバカスカ立てたため使い物にならなくなって放棄されたのだ。
仕方がないので半地下のその更に下に汚水槽を造り、排水がそこに集中するように樹脂製の配管を伸ばす。汚水槽には分解専用のマイクロマシンを散布して、周囲に汚水が漏れ出さないようにする。
屋上部分には、受水槽代わりの浄水槽を設置し、空気中から水分を収集するマイクロマシンを散布し、浄水作業専用のマイクロマシンを浄水槽に散布する。
霊子バッテリーと発電モーターを作製し、この建物に関して言えば、インフラ整備は完了だ。
半地下部分には井戸があった。
水質を確認すると、様々なミネラル成分が含まれていたので、冷泉だな。
早速、温泉にするべく大浴場を造る。子供には贅沢だが、半地下であることを利用して、洞窟のような雰囲気にする。
う~ん。逆に怖がるかな?まあ、いいや。俺の趣味だ。納得させよう。
現代日本で先輩に言われたっけ、「こだわりを失くせば、男はそこで終わりだ!!」って、なんで終わりなのかよくわからないが、とにかく、今は、使わせて貰おう。こだわりを失くせば、男はそこで終わりなのだ!!と。だから、ここは洞窟風呂のようで良いのだと!!
一階はリビング兼食堂に改築して、二階から上を居室にする。子供達は一緒くたで大丈夫だろう。女性と男性の居室は分けないとイケナイことをするからな!
あと、病室も造っておく。病気の奴隷を隔離用にね。まあ、すぐに治せるだろうけど蔓延する可能性はなるべく排除しておきたいからな。
改築が終わったところで、タナハラの分体が二十五人の奴隷を連れて到着する。
子供が十二人、成人女性が五人、成人男性が八人だ。その内、五人が、風邪に罹患している。
「ご苦労さん。」
「おう!奴ら、やたらと馬鹿ッ丁寧だったぞ!」
「そりゃそうだろう。上客を掴まえたと思ってるんだからな。」
タナハラの使っていた分体を分解して保存、分割していた霊子体とタナハラを俺の中へと戻す。
奴隷を並ばせて、寄生虫と汚れを分解し、マイクロマシン薬を渡して、目の前で飲ませる。
女性と子供を組みにして、トンナに頼んで風呂場へと向かわせる。
食事の用意をして、俺はヘルザースに連絡をする。
『陛下。如何いたしました?何か問題が起きましたか?』
「いや、問題はない。が、厄介なことが起きた。」
人の居ない玄関ホールの隅に向かって、歩きながらブレスレットの通信機に話し掛ける。
『はあ。』
ヘルザースの話し方が気の抜けたものだったので、聞き直す。
「なんだ?」
『いえ。陛下が外出なさって、厄介ごとを持ち込まないことなどありませんでしたので。』
「…」
なんだよ、ヘルザースの中じゃ、俺って、アヌヤ、ヒャクヤと同じ立ち位置な訳?くそ、こいつ、いつか酷い目に合えばいいのに。
「と、とにかく、こっちで、トンナが切れて、奴隷を大量に買い付けることになったから、すぐに奴隷達を迎えに来い。」
通信機の向こうで溜息が聞こえる。
「なんだよ?嫌なのかよ。」
『いえ、すぐにと仰られますと、無理がございます。』
「わかってるよ。でも、早く迎えに来てくれねえと、俺が身動きできねえだろうがよ。」
『連邦内とは違うのですぞ。国体母艦を直接動かすことはできませぬし、政務専用機で向かうとしても、インディガンヌ国に何らかの用がなければ、動かせませぬ。国交を結んでいるとは言え、特別な友好国という訳ではないのですぞ。』
「いや、だから、それはわかってるよ。それでも早目に来てくれよ。なんなら民間航空艦で来いよ。」
『宜しいですか?民間の航空艦は、そんなに人が乗せられませぬ。また、大量の人員を輸送するとなると目立ちますし、対象が奴隷となれば輸出扱いとなります。関税の問題とインディガンヌ王国の奴隷取扱の法文の確認とさらに時間がかかりまする。』
「じゃあ、どうするんだよ?」
『最も時間がかからぬ方法は、魔法で陛下に一旦こちらに戻って頂き、そちらで購入された奴隷と同数の執政官を連れて、政務専用艦にて、インディガンヌ王国に入国して頂きます。その後、執政官は、転送ゲートで神州トガナキノ国へ戻らせ、執政官に変装させた奴隷を政務専用艦に乗せて帰国して頂きます。』
「おお。じゃあ、それで、やってくれよ。」
『ですから、インディガンヌ王国への公務の内容をお決めください。その上でインディガンヌ王国との調整に入りますので。』
「えええええ。公務って、何にすれば良いんだよおおお?」
『なんでもよろしいのです。インフラ整備援助でも、災害対策援助でも、とにかく、インディガンヌ王国の喜ぶようなことを仰っていただければよろしいのです。』
「わかったよ。じゃあ、インフラ整備援助でいこう。」
『御意。それでは、そちらでご購入なさった奴隷の性別、年齢、人数をお教え下さい。人数を揃えますので。』
「ええと、成人男性が八人に成人女性が五人、六歳から十歳までの男の子が六人に女の子が十四人だな。」
『わかりました。それでは、準備いたしますので、準備が整い次第、こちらからご連絡差し上げます。』
通信が切れる。
なんだよ。なんか、ヘルザースの奴、ますます家臣っぽくなくなってきやがったぞ、くそ、ホントにいつか酷い目に合えばいいのに。
「ご主人様。」
…
「ご主人様!」
「あっ俺のことか。」
トンナの呼び掛けに振り向くが、やっぱり、ご主人様と呼ばれることに慣れてない。
「変よ。あの子達。」
トンナの言葉に俺は頷く。
「ああ。大人しすぎるってか、従順すぎる。」
俺の回答に満足したトンナが頷く。
「今もお風呂に入ってるけど、あたしに言われた通りに淡々と作業をこなしてるって感じで、結構、不気味なんだけど。」
考えられるのは洗脳だ。
洗脳魔法は、この世界では少数派だ。少数派だが存在する。コルナもこの魔法でヘルザース達を反乱へと誘導していた。
ただ、コルナの使った魔法は洗脳魔法とは言え、その効力は微々たるものだ。ヘルザース達は自分達の国を持ちたいという願望があって、コルナは、その願望を肥大化、誘導しただけだ。
ある意味、それがこの世界における洗脳魔法の限界と言える。どちらかと言えば思考誘導魔法だ。
しかし今回の奴隷達に施されている魔法は正しく洗脳魔法と呼べるかもしれない。行動の制限、意志の停止、そこまでの強制力を持つのは、かなり高度なプログラムだ。
臓器を抜かれることを前提とした子供奴隷に洗脳してる奴がいる。
俺は手加減なしに頭を引っ掻いた。
「ご主人様?」
俺の一番嫌いな奴がこの国に居る。見つけたら踏み潰したくなるような毒虫野郎だ。
「トンナ。」
俺のしかめっ面にトンナの柳眉が跳ね上がる。
「この国に俺の大っ嫌いな奴がいる。」
俺の言葉にトンナの目が薄く閉じられる。
瞼の奥でトンナの目が光る。
「…探し出して…死刑ね…」
今度は、ちょっとトンナを止める自信がない。まったく、ケッタクソの悪い旅行になっちまったぜ!
クソッ!ヘルザースめ、酷い目に合えばいいのに!!




