少女の得意技を知って素直に感心する
連邦国家を構成する五十六の国家は、五十三の王国と三つの帝国で構成されている。
連邦国家の運営は神州大国主議会と名付けた議会が取り仕切る。各国の元首が議員となって、議会に参加し、トガナキノ国の派遣執政官が議長を務める。
この議長、かなり大きな権限を持っている。各国の王族が自分達の好き勝手なことを言い出したらキリがないので、議会における大きな権限を俺が持たせた。
とにかく、採決の結果をひっくり返せる権限も有していると言えば、如何に大きな権限か想像できるだろうか?
基本的人権を確立させない国には、それぐらいでも足りないぐらいだ。いっそのこと、連邦国家からの脱退命令を出してやろうかと思ったこともある。しかし、そうなると、各国で禁止されている奴隷制度の復活が懸念されるので、そういう訳にもいかないのが辛いところだ。
闇で奴隷の人身売買が行われているので、その取り締まりをきっかけに、連邦捜査局を立ち上げたのだが、この連邦捜査局、かなり忙しい。
連邦国家法に明記されている犯罪行為は、各国にまたがって行われているので、連邦内各国家の自治法に関係なく動ける捜査機関がどうしても必要だ。
各国の警察機関は独自に捜査をしており、その事件の一つ一つが連邦捜査局に上がって来る。そして、連邦捜査局で各国にまたがって行われている犯罪を選別し、捜査に介入するのだ。この事件一つ一つを選別するだけでもかなりの事務量を必要とする。
まず、量子コンピューターで紐づけ選別を行ってから、連邦捜査局員が事件の概要に目を通すのだが、その量が尋常じゃない。したがって、実際に捜査をする人数が限られ、毎年のように人員が増強されている。
そんな中、問題が生じる。連邦捜査局内での不祥事だ。
連邦捜査局内において、薬物の横流しが確認された。
その事件をきっかけに連邦捜査局に特別捜査官が常設された。
この特別捜査官は、トガナキノ国、つまり本国から送られる。監察官としての役割も担っているため、恨まれることが多い。何もしていなくても、本国からの年若いエリートだ。やっかみの対象となる。
トドネの場合は、ヤートであることもマイナスになる。
当然だ。
ついこの間まで被差別民族であったヤートが連邦国家の頂点にいるのだ。面白くない民族は多い。
表面上は腰を低くしていても、腹の中ではムカムカしっぱなしだろう。
地上は危険だが、それよりも、人間関係を築くうえでトドネのトラウマになるようなことが起こらないかが心配だ。
だから、俺はマイクロマシンを連邦捜査局に飛ばす。トドネの新配置前にどのような人間がいるのかを確認するために。
連邦捜査局の本部はハルディレン王国にある。
現在、ハルディレン王国は、表向きは最も友好的な国家であるが、実質的には神州トガナキノ国の属国か植民地のような扱いになっている。
ハルディレン王国は俺の出生国であり、最も初期の段階で連邦入りを果たした国だ。
六年前の魔獣災害復興時に、俺達、トガナキノ国が尽力したため、ハルディレン王国の領民達からの受けは良い。
政情的にも比較的安定しておりトガナキノへの移民が最も多い国でもある。しかし、それでも難しい問題を抱えている。神州トガナキノ連邦脱退を訴える強固な組織があるのもハルディレン王国だ。
近しい存在だからこそ、神州トガナキノ国を好きな者は徹底的に好きだが、嫌いな者は徹底的に嫌いなのだ。
そのハルディレン王国の王都、ハルディーデル都に連邦捜査局本部がある。王都の中央に各地方の伯爵領を統括管理する王城があり、その王城を取り囲むように連邦関係の施設が集中している。
数ある施設の一つが連邦捜査局本部だ。
広大な敷地に建つ、七階建ての石造りの建物。
巨大な玄関アーチを抜ければエントランスロビーだ。写り込みそうなほど磨き抜かれた大理石の床が高い窓から差し込む光を反射させている。
太い鉄芯を入れた大理石の柱はグリーンマーブルで、その柱が高い天井を支え、天井には精緻なフレスコ画が描かれている。
エントランスロビーを抜ければ、大きな鉄扉に閉ざされた職員用の出入口が現れる。
出入口には五人の屈強な衛士が常駐している。衛士が連邦捜査局の職員証票を確認し、扉前に設けられた指紋認証と網膜認証で本人確認をするシステムになっている。
五人の衛士は魔導服を身に着け、その上から白い詰襟のハーフコートを着ている。肩には金の肩章、胸元には神州トガナキノ国の紋章が威容を放つ。
ズラリと並んだ金のボタンは衛士達の胸板の厚みを強調し、ツバのない軍用略帽は格調の高さを誇示している。
戦闘用の茶色のロングブーツは、踵を揃えて、直立不動。手には、槍にもなる霊子ライフルで武装している。
出入口の両脇に二人づつに分かれて立っており、中央、扉の真正面には足を開いて、腰で手を組んだ隊長が立っている。
その扉を抜けると、長い廊下が現れる。
廊下の先、その一番奥には、一般に普及していないエレベーターがある。エレベーターを上がった最上階、連邦捜査局長室にてトドネの名前が飛び交っている。その声を俺は拾う。
「前例がありません。未経験者を連邦特別捜査官に任命するなんて、本国は何を考えているんですか?」
う。胸に痛みが。
若い金髪の青年が、局長の席に座る女性に迫っていた。
「知らん。本国どころか、陛下からの肝いりだそうだ。知りたければ、陛下に直接、問い質せ。」
うう。すいません。問い質しに来るのは、ご勘弁を。
茶髪の女性、連邦捜査局の局長だ。年は、たしか、三十代前半で、トガナキノ国への入国時はたしか…『二十六歳だ。』
そうそう、二十六歳だ。で、二十七歳から連邦捜査局にて捜査官として勤務して、その年の内に特別捜査官に任命されたんだっけ?
『そうだ。二十八歳から二年間、行政院の外務省保健福祉委員会にて勤務していたはずだ。その後は、連邦捜査局総務部長と次長を歴任して、現在、局長になっている。』
うん記憶力は抜群だな。
『お前じゃなく、俺とトーヤのな。』
そう言うな。トガリってことで、一括りで。
「陛下の肝いりですか?!」
金髪の青年は…
『年齢二十歳、飛び級で卒業後、十五歳から十八歳まで連邦捜査局の捜査官を経て、十八歳から特別捜査官に任命されている。名前はイノウだ。フルネームはイノウ・ハウンゼンだ。』
そうそう。イノウ君ね。そうだった。
「そうだ。任命書には、ヘルザース閣下を始め、ズヌーク閣下、ローデル閣下に陛下のサインまであったそうだ。まったく、前代未聞だ。」
そうなんですね?
『当たり前だ。内閣総理大臣や最高裁判所に国会の承認まで得ているようなものだぞ。』
そりゃそうか、特別捜査官って言ったって、たかが一公務員の任命書だもんね。その任命書に内閣総理大臣や最高裁判所や国会の承認を得る必要はないわな。
「そんな。でも、局長は、その任命書を見てないんですか?」
出せないんだよ。外事警察庁総監のコルナの所で止めてるんだよ。
若いイノウの言葉に局長と呼ばれる女性の眉が顰められる。
「任命書があれば、この机の上に置いている。そんなことよりも、貴様は文句だけを言いに来たのか?」
局長は、たしか…
『ハルタだ。ハルタ・ルドリアス。いい加減、憶えてる振りをするのをやめろ。』
いやいや、憶えてるよ?薄っすらとだけど。
「そうですよ。だって、未経験の特別捜査官のパートナーが僕なんですよ!?面倒見きれるはずがありません!」
イノウの言葉にハルタ局長の目が眇められる。
「ほう。貴様、私の言うことが聞けないのか?偉くなったものだ。初めての銃撃戦でチビッてた坊主が、私に意見しに来るなど。」
「うっ。」
「大体、経験、経験と言うが、この連邦捜査局も設立されて、まだ、たったの五年半だ。我らの経験など、多寡が知れてる。」
なるほど、二人は先輩後輩の間柄でもある訳ね。だから、一特別捜査官が、局長に直談判に来れる訳か。
「それに、今度来る特別捜査官用に新たな班を編成しろと、コルナ総監から通達が出された。その通達に従えば、私は連邦捜査局長でありながら、その特別捜査班の班長も兼務させられる。」
「えっ!?」
え…?
局長が、引き出しから取り出した書類を机の上に叩きつける。
「見ろ。コルナ総監からの直筆の通達と任命書だ。」
確かに、その紙には「六人を一班として、第五特別捜査班を編成し、以下の者を第五特別捜査班に編成すること」と書かれている。そして、その文章の下には「班員、特別捜査官ゴルティア・トドネ・ヤート」と書かれ、更に、その下には、「班長、神州トガナキノ連邦国家連邦捜査局長ハルタ・ルドリアス」と明記されている。しかも、六人と銘打ってるくせに、書かれているのは、その二人だけだ。あとは好きにしろってことなんだろうが…。
エッグううう。
コルナ、これはエグいですわ。
トドネの面倒を見ろ。トドネに何かあったら、局のトップが責任を取れってことですわ。
これは、エグいですわああ。
「こんな…こんな通達、法的に有効なんですか?コルナ総監の通達とは言っても…」
イノウの言葉を遮るように、局長が二枚目の紙を机に叩きつける。
「今朝、立法院から届いた。」
局長が憮然と言葉を吐き出す。
その書類には、連邦捜査局組織法の条文が書かれてあった。この条文、表題の通り、連邦捜査局を定義づける条文である。
第三条の局長の任命と役割が改正されている。
役割に特別捜査班、第五班の班長を兼務することと改正されていた。
「法律まで変わってる…」
なんか…すんません…
ズヌーク、卒がなさすぎ、しかも仕事早すぎ。
凄い自責の念で一杯です。ウチの従妹と嫁が大変ご迷惑をお掛けしております。誠にごめんなさいの気持ちで一杯だよ。
局長がイノウの襟を掴み、引き寄せる。
「これからは、あたしが班長だ。シッカリ、キッチリ、カッチリと、新任の特別捜査官の面倒を見るんだよ?お前が!」
「は、はい…」
なんで、トガナキノの姉ちゃんは、皆、怖いんだろう?ねぇ?
『女性は生物学的にも強い。」
そういうのはいいんだよ。
局長のブレスレットから信号音が鳴り響く。
「はい?」
ブレスレットのスイッチを押して、局長が応答する。
捜査局の幹部と特別捜査官には、量子もつれを利用した携帯型通信機を配置している。連邦外だけではなく、トガナキノ国外に流出させたくない技術なので各支局には固定型の通信機だけで、他の一般の捜査官などには配置していない。
「おはようございます!今日から、そちらに配置となりますゴルティア・トドネ・ヤートです!よろしくお願いいたします!間もなく、そちらに到着いたします!」
局長が怪訝な表情を浮かべながら、「ああ、そうかい。此処に着いたら、最上階にまで上がっておいで。それと…」
「はいなのです!!」
トドネが答えると同時に通信が切れる。
「…どうやって、あたしの番号を知ったんだい?クソガキが!!」
途中で切られたので、鶏冠にきたようだ。クソガキと言ったところで、怒鳴ってた。
多分、コルナが教えたんでしょうね。うん。
怒ったままの表情で、局長がイノウを睨む。
「いや、僕に怒らないで下さいよ?僕は、まだ、話したこともないんですから。」
「わかってるよ。とにかく、もうすぐ到着するそうだから、出迎えてやんな。」
声は怒ったままだが、口調は落ち着いている。なんだか、申し訳ない気持ちで一杯だよ。
トドネが二メートルを超える衛士の前で立ち止まり、衛士の顔を見上げている。
トドネの身長は百三十センチメートルくらいだ。衛士達の顔どころか顎先しか見えないんじゃないだろうか?
その衛士の顔を左端から順番に見ていき、中央の隊長の前で立ち止まり、しばらく見詰める。
衛士達は黙って、前方を注視し、トドネがいないかのように振舞っている。トドネが再び歩き出し、衛士全員の顔を確認するように見て歩く。
「動けないんですか?」
トドネが衛士に話し掛けるが、衛士達は無言のままだ。
「その扉の向こうに行きたいのです。通してもらえないのですか?」
仕草の可愛い女の子だが、衛士達は無視を続ける。連絡のない来客だ。通すはずがない。
「もしかして、人間じゃないんですか?彫像とかですか?」
人間じゃない彫像に話し掛けても応えは返ってこないぞ?
トドネが衛士達の後ろに回り込もうとすると、突然、衛士が体を入れ替え、トドネの行く手を阻む。
「動けるんですね。でもお喋りはできないんですか?」
お喋りのできない者に問い掛けても、無駄だと思うぞ?
トドネは肩に斜め掛けしている茶色い鞄から、筆記具を取り出す。
「お話しできないなら、書いてください。」
その筆記具を、目の前の衛士に差し出すが、当然、衛士はその筆記具を受け取らない。
「そうですか。」
そう言って、トドネが、筆記具を鞄に仕舞い、再び、衛士長の前に立つ。
「衛士長さんですね。衛士長さんにお願いがあります。私はゴルティア・トドネ・ヤートと言います。此処の最上階に来るように言われてます。通して欲しいのです。」
衛士長は、当然、無視をする。
「そうですか。」
そう言って、トドネが項垂れる。
「困ったのです。最上階に行きますと言ってしまったのです。でも、行けないのです。ちょっと、どうすれば良いのか考えるのです。」
トドネは腕を組んで、衛士達の前を左右に歩き出す。首を傾げ、頭を掻きながらウロウロと歩く。
マイクロマシンだ。
トドネが頭を掻いたと同時に髪の中からマイクロマシン、精霊が散布された。
立ち止まって、衛士達を見上げる。
「皆さん、身長が高くて、体が大きいのです。衛士として働いていらっしゃるので、獣人の可能性が高いのです。獣人の方は、戦闘能力に特化なさっているので、普通の人には聞こえない音を聞いたり、臭いを嗅ぐことができるのです。」
トドネが立ち止まったまま、腕を組んで、俯く。
トドネの散布したマイクロマシンが衛士達に侵入した。
『獣人だからな。体内でどのような作用を起こしているかは確認できんな。』
脳内に作用してるんじゃないか?
『多分な。魔法が苦手と言っていたが、精霊そのものは上手く使えてるようだ。』
トドネが話し出す。
「ハルディレン王国の獣人の皆さんは、神州トガナキノ国に移住済みなので、此処に居らっしゃる衛士さん達は神州トガナキノ国からの出向?単身赴任?ってことになるのです。」
衛士達の顔をチラリと見上げる。
「獣人の皆さんは、出生率が低いので、十六歳を超えてからも単身赴任とかすると、子供を設ける機会を逸するので、十六歳以降は神州トガナキノ国に戻る方が多いのです。したがって、此処に居らっしゃる皆さんは十六歳以下ということになるのです。」
再び俯き、何度も頷く。
「隊長さんには、ある程度の経験が必要なので、最高齢の十六歳だとして、他の皆さんは十二歳から十五歳だと考えられるのです。」
首を傾げる。
「それがわかっても、どうしようもないのです。」
顔を上げて、衛士達を見回す。
「でも、こんなに皆さんのことについて話している、小さな女の子を不審に思わないのですか?」
衛士達の雰囲気が変わる。
「僅かな情報で、皆さんの年齢、素性を観察する小さな女の子は、不審人物の対象にならないのでしょうか?」
衛士長の瞳が動く。トドネを見詰める。
「魔法使いなら、どうでしょう?もしかしたら、私は幻で、囮かもしれませんね?」
衛士達の眉が動く。
「でも、こんなことを話し始めるということは、やはり、私は現実に存在して、何とかその扉の向こうに行こうとしているだけの女の子かもしれません。」
衛士長の鼻がピクリと動く。
目の前にいるトドネをその鋭い嗅覚で確認しようとしたのだ。
「そうなのです。皆さんは感覚が鋭いのです。ですから、人間の気付かない臭いや音で逆に操られる可能性もあるのです。」
衛士達の首が動き、全員がトドネの方を見る。
「催眠導入剤というのを皆さんご存知でしょうか?いつの間にか催眠状態に陥れる薬のことで、感覚が鋭敏な者ほど、この薬は効きます。」
トドネの言葉に衛士達は完全に取り込まれている。やはり、トドネの精霊は衛士達の脳内に作用しているようだ。
『成程、精霊を霊子薬と同じように使っているのか。』
どういうことだ?
『事前に命令を刻んだマイクロマシンを髪の毛に仕込んでおき、それを散布する時に新たな命令を書き加えてるんだ。恐らく指先から念を送っているような感覚だろう。その新たな命令でターゲットを確定しているんだ。霊子薬の応用だな。』
そうか、霊子薬は事前に体内修復や異物排除の命令を刻んだ精霊だからな。同じように催眠導入剤として作ったのか。
『魔法は苦手かもしれんが精霊の使い方には熟練してる。』
スゲエな。自分の得意分野で勝負か。カッコイイなトドネ。
「この建物にも、結界を張っている魔法使いは居ます。でも、私はそのことを知っています。このような話をしている私が、何の対策もしないでしょうか?仮に私が囮なら、結界魔法対策を講じている魔法使いが、既に侵入しているかもしれません。」
精霊の使い方が魔法の使い方とは違う。結界魔法には感知されないな。
結界魔法は呪言の詠唱で魔法の発動を感知する。
周囲の精霊への命令の書き換え時に発生する周波数帯の変更を感知するのだ。しかし、トドネの精霊は事前に命令が書かれているため、周波数帯の変更が発生しない。呪言の詠唱が必要ないのだ。つまりこの世界では魔法だと認識されない。
衛士長が足を一歩踏み出し、トドネに近付こうとする。
「動いてしまったのです。衛士長としては、動くことは許されないはずです。そのような通達が出ているはずです。」
トドネの言葉に衛士長の足が止まる。
その通りだ。衛士達は強引に侵入しようとする者を排除する目的で配置されている。機械を欺こうとする者への対策でもある。したがって、トドネが、不審人物であろうが、何であろうが、侵入しようとする具体的な行動を起こさない限り無視し続けなければならないのだ。
「さて、問題です。この衛士長は果たして本物でしょうか?衛士長は今まで、あなた達の前で通達に違反したことがあるでしょうか?」
衛士達が衛士長へと視線を向ける。
「目の前の女の子は実在するのかどうか?衛士長は本物なのかどうか?自分達は催眠導入剤によって、催眠状態に陥っているのかどうか?その答えを知る術は一つしかないのです。」
衛士達全員がトドネの方に視線を転ずる。
トドネが、腕を組んだまま、人差し指を指揮棒のように振る。
「機械は嘘を吐きません。機械は騙されることもありません。だから、後ろの指紋認証と網膜認証で隊長さんが本物かどうかの判定をするのです。」
衛士達が衛士長の顔を一斉に見る。
「でも、いっそのこと、目の前の女の子を捕まえる。と、いう手もあるのです。」
全員がトドネの方を振り返る。
「今、隊長さんは、そう考えました。しかし、そんなことをすれば、不審人物を、一旦は、建物内に入れることになるのです。その後で私を逃がせば、隊長さんは、誰にも疑われることなく、私を侵入させることに成功するのです。」
衛士達がトドネと衛士長の顔を交互に見詰める。ダメだ。こいつら、完全に疑心暗鬼に陥ってる。
「さて、ここで、最も重要なことは何か?それは、私が実在するのかどうか?ということではなく、隊長さんが本物かどうか?と、いうことなのです。」
衛士達が衛士長へと視線を固定する。
「最年長で最も経験豊富な隊長が実は偽物だった、と、いうことはないでしょうが、催眠状態に陥って、私を建物内に侵入させようとしているかもしれません。」
トドネが言葉を一旦切る。
「ですから、まずは、隊長さんに指紋認証と網膜認証を使ってもらい、本物であることを確認するのです。それから、隊長さんと私を拘束して、取調室に連行するのです。」
衛士達は一言も発していない。発していないが、衛士長への不信は募るばかりだ。隊員たちの疑いの眼差しに押され、衛士長が指紋認証と網膜認証を行い。扉が解錠される。
「では、皆さん、まずは、屈強な隊長さんを拘束するのです。」
衛士長が両腕を差し出し、衛士の一人が手錠をはめる。
「結構です。では、私も拘束しましょう。ただし、モンゴロイドの女の子です。体格も皆さんの三分の一程なのです。ですから私の手を握っておくだけで十分でしょう。あとは、拘束した隊長さんが暴れないように二人は必要なのです。私には一人で充分です。残ったお一人は、補充要員が来るまで、引き続き、此処でお仕事、頑張ってください。」
そう言って、トドネが一人の衛士の手を握る。五人が連れ立って、長い廊下を歩く。
「さて、謎の女の子が捕まりました。この後、警備部門に連れて行くのでしょうが、既に侵入している魔法使いがいるかもしれません。早急な対応が必要です。結界の張られた領域に侵入することのできる魔法使いは結界を張っている魔法使いよりも優秀です。そのことを誰かが報せなければなりません。」
エレベーターに五人が乗り込む。
「あと、計画の全貌を知っている可能性を考慮して、私は、専門の捜査官が常駐している取調室に連行されるべきなのです。同時に二つのことをする必要があるのです。」
トドネが手を握っている衛士の方を振り仰ぐ。
「貴方は、私を取調室に連れて行かなくてはならないのです。」
衛士長の隣に立つ衛士に視線を向ける。
「結界を張っている魔法使いは、最上階でしょうが、警備部門は二階にあるはずなのです。ですから、警備部門へは、衛士長に不審な行動が見られ、拘束し、局長室に報告に向かっていると報せに走る必要があるのです。」
衛士長を拘束している衛士に視線を向け、再び、衛士長の隣に立つ衛士に視線を向ける。
「ですから、二階で降りるのは、貴方なのです。」
トドネが衛士長の隣に立つ衛士を指差す。
エレベーターが二階に到着し、指示を受けた衛士が降りる。
「それでは、残る問題は結界を張っている魔法使いに誰が報せるかということです。」
トドネが手を握っている衛士を振り仰ぐ。
「貴方は途中で、私と共に降りて、取調室に向かわなければなりません。でも、そうすると、誰も、結界を張っている魔法使いに報せに向かうことができなくなってしまうのです。」
トドネがニコリと笑う。
「安心してください。問題を解決する方法があるのです。」
トドネが衛士長の方を見る。
「衛士長と共に私も局長室に連れて行き、私を不審な女の子として、局長に報告するのです。そうすれば、貴方は魔法使いに報せに行くことができるのです。」
そうして、トドネは最上階に到着し、二人の衛士の内、一人が結界を張っている魔法使いの元へと向かい、衛士長は手錠で拘束された状態でトドネと共に局長室へと向かったのだった。




