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月トガリ  作者: 吉四六
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新婚旅行をしてないからトンナが楽しみにしているようです

前作からの設定説明が多いので長くなりました。すいません。どうしても今後の展開で必要になってきますので、省くことができませんでした。


 改稿しました。あまりにも設定の説明がグダグダだったので省略しました。設定その物に変更はありません。

 無縫庵は新神浄土都市内ではなく、新神浄土を取り巻く森林公園に建っている。

 国体母艦の舳先には、防衛施設と併設された民間の航空施設があり、その空港と船尾の新神浄土の丁度中間地点、その中間地点に俺の無縫庵がある。

 無縫庵のある森林公園は、現代日本の原生林をイメージしてる。急峻な地形を造ってナラ、クヌギ、ブナ、カエデ、カツラ、モミ、ツゲと多種多様な木々が植えてある。

 渓流を泳ぐ魚類以外の生態系は現代の北アメリカに近いが、植生は現代日本に近い。

 そんな、普通の生物群に混じって、この森林公園には魔獣がいる。

 イデアの言うところのBナンバーズのスペシャルナンバー、キバナリだ。

 体長は五メートルを超える猫型魔獣で、ライオン型、ヒョウ型、トラ型と様々だが、サーベルタイガーのような二本の突出した犬歯は共通だ。

 身体能力が高く、索敵能力は魔獣の中でも群を抜く。可燃性のマイクロマシンに起爆性の牙、指向性の超音波発生器官、分裂自己再生能力まで有している。

 このキバナリは人語を解し、イデアによる完全管理が可能であることから、各城塞都市で放し飼いにしている。

 ただ、戦闘時以外は、長大な犬歯を取り外し、その体長を調節して森林公園内では二メートル、城塞都市内では、四十センチメートルにまで抑えさせている。つまり、街中では野良猫みたいな感じでうろついているのだ。

 キバナリを放している目的は、治安維持と森林公園内の生態系バランスの調整だ。

 森林公園内で増え過ぎた生物をイデアに命じられたキバナリが狩ることで生態系のバランスを取っている。

 新神浄土では、キバナリに巡回させて情報収集をさせている。

 キバナリの霊子回路を安寧城の治安維持総括センターに繋げて、キバナリが拾ってくる情報を選別、統括し、事件が発生したと同時にキバナリが戦闘モードに移行して事件を鎮圧、もしくは、初動捜査に当たる。捜査をするのは、当然、人間だが、初動捜査としてはキバナリにさせる方がスムーズだ。

 各城塞都市内を野良猫のようにキバナリがうろつき、拾ってきた情報は、一旦、全て記録される。

 その膨大な情報を量子コンピューターが(ふるい)に掛け、不穏な言葉、武器を携行しているなどの動きを選別、抽出し、治安維持総括センターのモニターに投影する。

 こうすることで、大概の事件は未然に防ぐことができるし、防げなかったとしても犯罪行為を立証することが容易になる。

 防犯の意味合いを持たせるために国民にはキバナリの役割を公開してる。移動する交番だな。だから、時々、キバナリに話し掛ける者を見かける。

 いや、変な構図だけどさ。

 猫相手に真剣な表情で話し掛けてる大人って、ちょっと心配になる人みたいだけどさ。

 困ったことをキバナリに聞いてもらえれば、その内容が中央の治安維持総括センターに送られてくるんだから、そりゃ、皆、真剣に話し掛けるよな。

 まあ、俺としては安心した。

 だって、街中を密偵がうろついてるように思われたくないじゃん。俺はどっちかと言うと、そう思われるんじゃないかと心配だったんだよね。

 でも、今じゃあ、皆、猫のお巡りさんみたいな感覚でキバナリに接してくれてる。ホントこの国の国民って呑気なんだよな。

 キバナリはキバナリで、そんな国民のことが好きなのか、街中では完全に猫化してる。

 あっちへフラフラ、こっちへフラフラとうろつきながら、そこたら中の年寄り連中と仲良くなってる。

 で、しょっちゅう、腹を見せて餌を貰ってるんだから、なんか、キバナリにとっては凄い天国なんじゃないかと。

 記録されてる映像と音声データを覗いてみたら、完全に飼い猫の動画状態だった。音声の五割ぐらいに、キバナリがゴロゴロと喉を鳴らしてる音声が入ってた。

 この間なんか、何気に傷付いたのが、「お前は陛下と違ってよく働くねぇ。偉いねぇ。」と言っていた婆様の声だ。見知らぬ婆様にキバナリ以下認定を貰うことになるとは思ってもみなかったよ。

 同じ役割をIナンバーである魔虫にも持たせて放っている。

 魔虫の便利なところは、キバナリでは狩ることのできない小さな毒虫の駆除に使えるという点だ。情報収集に関しても屋内にまで及ぶ。流石に魔虫による情報収集はやりすぎじゃないかと思えるんだが、メインの目的は害虫の駆除だから、目を瞑ってもらおう。

 それにこの国の国民は一度は公務についているため、魔虫による巡回の必要性についても正しく理解してくれているし、魔虫の送ってくる情報をどのように取り扱っているのかも知っているのだ。

 実際、魔虫の送ってくる情報に関しては厳重なセキュリティを掛けて、普段は見られないようにしている。犯罪の発生、事故の発生時にのみ該当地域を巡回していた魔虫の情報を見られるようにしている。

 したがって、この国に住む人間のプライベートは無きに等しいが、その点については、俺も同じだ。

 昨日、国王執務室で、俺がヘルザースに「愛殺される。」と、言った時の事も、しっかりと記録されているだろう。確認はしていないが。

 まあ、危険思想を持った特定の人物が、俺への報告に上がってきていないから平和なんだろう。

 この間は、治安維持総括センターの部長が、真っ黒なモニターを見ているだけで、つまらないとこぼしてもいた。

 治安維持総括センターに送られて、記録されている映像と音声のほとんどが、火災か、自転車の自損転倒ぐらいで、今のところは犯罪その物が起きない社会構造が維持されている証明だな。

 あと、国から配給されるマイクロマシン薬、今では霊子薬と呼ばれているが、その霊子薬で病気も怪我も罹患した瞬間に治ってしまうのだから救急車を運用する必要もない。

 で、こんなに平和な神州トガナキノ国を出て、わざわざ、危険な連邦国内の地上に降りようって奴がいるんだよなぁ。

 小っさくて、可愛いトドネがさぁ、降りるって言って聞かないんだよ。

 連邦内各国の治安は他の国に比べればかなり良い方だ。

 それでもだ。

 やはり、神州トガナキノ国と比較すると安全とは言えない。

 奴隷制度の廃止、基本的人権の確立、人身売買の禁止、薬物開発、販売の許認可制、武器製造販売の許認可制と、最低限の法整備が基本的な統一事項だ。

 ただ、基本的人権の確立については、受け入れられていない。王国と帝国が、連邦国家の大部分を占めるためだ。各国は頑なに貴族制度を保ち続けている。

 それに対して、神州トガナキノ連邦国家の本国は、貴族制度を廃止し、基本的人権を確立させているため、その差異を知っている各国の国民の感情は支配階級に対して反抗的だ。だから、地上の各国では、いつ内乱が勃発してもおかしくない。

 地上の連邦国家では、貨幣経済を採用しており、貧富の差が激しくなりつつある。それに対して神州トガナキノ国では貧富の差がほとんどない。こういった情報がテレビを通じて連邦各国で知られているのだ。これも地上国家の政情を不安定にさせている一因だろう。

 決定的に違うのは、国民の倫理観の違いである。

 連邦国家内には、犯罪検挙率向上のため秘密裏にキバナリと魔虫をばら撒いてある。犯罪予防ではない。検挙率向上のためだ。

 キバナリと魔虫の監視体制があると言っても、犯罪発生率がゼロパーセントになる訳がない。トガナキノ国で犯罪が発生しないのは、この国の国民は、禊と呼ばれる、思考誘導を受けているのと脳底に自己制御機能を持った精霊回路を持っているからだ。

 だから、トガナキノ国では犯罪が発生しない。

 この精霊回路は、先天的に誰もが持っているものではない。

 トガナキノ国では、妊娠時に受ける検査で病院側が胎児に作るようにしてる。

 この世界の人間は、全員、この精霊回路の因子を持っている。ただ、劣性遺伝子のため、生まれながらに精霊回路を持っている者が少ないのだ。だから妊娠検査時に精霊回路作成用の精霊薬を母体に注射して、その因子を刺激、活性化させ、胎児の脳底に精霊回路を作るようにしている。

 この精霊回路が自己制御機能を持っており、各個人の倫理観を育成させる。

 本来の禊にはこの精霊回路は必要ないのだが、精霊回路がなければこの国では生活できない。

 だからと言って短時間で大人の脳底に精霊回路を作ろうとすると凄まじい激痛に襲われる。神経その物を弄るんだから当然だ。

 大人の脳底に精霊回路を作る場合は徐々に薬の量を増やして約三か月ほどの期間を使って作り出す。

 そのような作成方法であるから、他国から神州トガナキノ国に一時入国する者に精霊回路を作ることはできない。

 移住なら別だ。移住するなら禊を受けてもらってから精霊回路を作ってもらう。

 一時入国者には精霊回路を作ることはできないが禊は受けてもらう。禊による思考誘導の内容は神州トガナキノ国国民と一緒で、基礎的論理思考と法文の焼き付けを行い。その法律を守りましょう、他人に迷惑を掛けないようにしましょう、学びましょう、出来る限り働きましょう。と、いう極めて緩いものだ。

 例えば、現代日本での交差点の信号だ。

 幅三メートルほどの道路に設けられた横断歩道、車が通っていないにもかかわらず、赤信号で立ち止まるか、立ち止まらないか。

 倫理観の低い者なら、立ち止まるという思考そのものが発生しない。しかし、法律を焼き付けられた神州トガナキノ国の国民の脳裏には、必ず、立ち止まるという考えが浮かび上がる。そして、立ち止まった方が良いよ。と、いう心の声が聞こえる。つまり思考誘導が発生するのだ。

 その心の声に従うか、従わないかは、その本人の自由意志だ。

 だから、‘止まれ’という強制でも何でもない、個人の思考に選択肢を増やし、誘導しようとするが、否定することも是としている。だって、家族が危篤状態で急いでいる時に、車の通らない交差点で信号待ちしてるのって、人情として、どうなの?って思うじゃない?

 それでも、犯罪は抑制される。

 世代を重ねれば、自己制御回路としての役割は失くしてもいいのではないかと、俺は考えている。考えているが、『その意見には反対だな。』とは、イズモリの見解だ。

 俺達とイズモリの唯一の違い。それは、自己制御しなくなった人間達の末路を知っているか、知らないかの違いだ。

『力を持つ者は、その力の使い方を知らなければならない。』

 巨大な力を持つ者は、どのような力の振るい方をするのか。俺達は、そのことを、身を持ってよく理解している。

 だから、連邦の地上国でも禊を推奨しているが、ヤートのかける魔法だということで、皆、受けたがらない。地上の支配階級も否定的だ。

 禊を受けない限り、精霊回路を人為的に作らせる訳にはいかない。

 精霊回路は自己制御機能を有しているが、同時に、体内の霊子に命令を刻みマイクロマシンにその命令を実行させるための物でもある。マイクロマシンを自由に使えるようになれば、魔法が使えるようになる。

 魔法が使えるようになった倫理観の低い人間が、何をするか、火を見るよりも明らかだ。

 そして、地上であることから、もう一点、神州トガナキノ国とは違う点がある。

 魔獣の存在だ。

 魔獣は、過去の科学技術が作り出したバイオロジカル兵器で、その能力は兵器として申し分ないものだ。

 以前はAIアンドロイドであるイデアが管理監督していたのだが、その管理権限を剥奪されて以降、魔獣が解放されて管理できない状態となっている。

 兵器として開発された魔獣は人間を喰うために存在する。

 イデアが管理していた時は人口調節のために魔獣は活動していたが、現在は、その管理から離れ、獣の本能に従って人を喰い殺している。

 当然、神州トガナキノ国では魔獣討伐隊を編成しているが、魔獣は過剰に幽子を摂取するためマイクロマシンの監視下に置けない。そのため、その存在を発見することが難しい。

 魔獣討伐隊が警戒警備にあたり、発見すれば、討伐する。

 とにかく、そんな政情が不安定で、倫理観の低い国民による犯罪が多発し、魔獣が跋扈する地上にトドネが降りるのだ。

 シッカリとした装備を身に着けさせる必要がある。

 俺は、俺個人の邸宅である無縫庵にて、その装備について思考を巡らせていた。

 まず、護身用の装備だが、神州トガナキノ国の人間が地上に降り際に身に着ける標準装備、魔導服の改良だ。

 この装備は、本来、魔導鎧の酒呑童子の裏地として開発したのだが、その利便性から対物理衝撃用の魔導服として使用している。

 マイクロマシンで結合した極細のドラゴニウムで布を織り、その布で服を作ってやる。

 この布、マイクロマシンが霊子の命令に従って、硬くなったり、柔らかくなったりする機能を持っている。

 硬くなる時に収縮し、柔らかくなる時に伸展する。その性質を利用して、服その物にパワーアシスト機能を付加した。

 この魔導服にF型マイクロマシンを塗布してやろう。

 最小のマイクロマシンであるF型マイクロマシンなら、この世界でオリハルコン製と呼ばれる聖剣であっても斬られることはない。F型マイクロマシンで聖剣対策をして、ドラゴニウムで高エネルギー衝撃対策とする。

 問題は炎、電撃への対策だ。俺は、炎に対しては真空で対処し、電撃については逆電荷のマイクロマシンで電撃を誘導していた。いずれにしろマイクロマシンで対応していたのだ。

 魔法使いの立場で言い換えれば、魔法に対して魔法で対応していたということになる。

 あと、可燃性のマイクロマシンへの対応も必要だ。

 可燃性のマイクロマシンは自己燃焼能力を有している。つまり、酸素を遮断しても燃え続けるということだ。

 う~ん。やっぱり、マイクロマシンの操作が必要だな。

『いっそのこと、トドネの精霊回路を霊子回路にバージョンアップするのはどう?』

 スーパーガールを作るのか?

 俺達の場合は、大人の分別があったからいいけど、トドネは、まだ十二歳だからなぁ。

『じゃあ、簡易錬成器に俺達と同等の霊子回路を付与してあげるってのは?』

『そうだな。それが妥当な線だろう。俺達と同等の霊子回路を脳底に作ったのでは、霊子欠乏になって体がもたんだろう。』

『あ、そうか。生まれながらに霊子回路を持ってる訳じゃないもんね。』

 うん。それなら、一日の使用回数に制限を設けてやれば、危険性としてはかなり低くなるか。

 常人にとって、脳底の精霊回路だけでは、マイクロマシンを自由に操作するのは難しい。何故かと言うと命令を刻んだ霊子を体外に放出するのが難しいからだ。

 精霊回路で命令を刻んだ霊子を体外に放出するための補助器具として作製したのが、簡易錬成器だ。

 この簡易錬成器は、体内に埋め込む霊子回路や精霊回路とは違って、体外に装着する外部デバイスだ。

 メモリーとしての能力も持たせてあるので、ある程度の分子構成などは、記録させておくことができる。

 あまり複雑な物や複数の素材を使用する物品などは再構築できないが、消火したり、電撃を無効化することぐらいなら、一般に支給している簡易錬成器でも十分にできる。

『一回に付き、使用できる霊子量に制限をかければ十分だろう?回数制限は、いざという時に困るんじゃないか?』

 おお。そうだな。イズモリの意見を採用。

 あとは研修期間をなるべく多くとらせて、霊子回路の使い方なんかを教えないとな。

『そんなに日数がとれるかな?』

 クシナハラか?どういう意味だ?

『トンナちゃんが待ってくれないってことだよねぇ。』

 イチイハラか、トンナが待ってくれないって…

『玄関でトドネちゃんを、ずっと待ってるんだよねぇ。』

 旅行を延期ってことには…

『無理、無理。アヌヤとヒャクヤもそんなの承知しないって。』

『コルナも、がぜん張りきって仕事を片付けてるようだしな。』

 死へのカウントダウンだな…

『諦めろ。トドネの研修は、精霊回路に直接焼き付ければ、一秒とかからん。』

 やっぱ、お前ら、超他人事だよなぁ。

 そして、トドネがやって来た。

「こんにちは。お招きに応じて、参りましたでしゅ。」

 舌っ足らずで丁寧な口調が、また、堪らんのだが、頑固なところは、オルラゆずりになるのかな?

『ヤートの女は基本、人の言うことを聞かんだろ。』

 そうだな。

 姉のトネリも頑固だしな。

トドネが座卓を挟んで、俺の対面に座り、トンナが、お茶の用意を始める。

「相変わらず、ここは賑やかでしゅね。」

 そうだ。ここ、無縫庵は常に賑やかだ。

 何故なら、俺の背中には、二歳の女の子、ヒャクヤとの間にもうけたコーデリアが。胸には、最近、トンナが生んだトクサヤが。膝の上にはアヌヤともうけた男の子トルタスが寝ている。

 そうですよ?

 こういう状態で小難しい言葉を使って、色々考えてたんですよ?

 それが何か?

 背中のコーデリアも胸に抱いてるトクサヤも、お漏らししましたが、ちゃんと、分解消去しましたが、それが何か?

 最近、トンナ達が下僕と使徒だってこと忘れてますけど?それが何か?

 俺?

 俺、奴隷。

 トンナ達は俺の下僕と使徒だけど、俺は、その下僕と使徒の奴隷ですが?それが何か?

 えっ?国王?

 何それ?美味しいの?

 これでも随分とマシになったんだよ?だって、テルナドが十四歳で、六歳のトロヤリと五歳のサクヤの面倒を見てくれてるからね。

 今も、少し離れた所では、コルナの娘であるテルナドがトロヤリとサクヤの相手をしてくれてる。

 銀色に輝く金属球を空中に浮かせて、その金属球を触れずに取り合うというゲームだ。

 遊んでいるように見えるが、本質はトレーニングだ。

 物体を浮かせるのは、結構難しい。

 この国体母艦を浮かせている原理と同じだ。

 物質内の霊子に上昇しようとする指向性を持たせるとその物質の質量が上へと方向を変える。

 ただ、質量と上昇しようとする力のバランスが難しい。上昇しようとする指向性だけを与えると上昇を続け宇宙空間にまで達する。

 上昇しようとする霊子量の調節が難しいのだ。

 テルナド達がやっている遊びは、そのバランスを保ったまま、金属球を奪い合うというものだ。

 宙に浮かせた状態で金属球を自分の方へと近付ける、別の者がそのプログラムを書き換え、自分の方へと引き寄せる。そうさせないためには、相手を上回る演算能力をもって阻止しなければならない。

 プログラムの暗号化をしても良いのだが、現段階で暗号化ができるのは、十四歳になったテルナドだけだ。

 六歳のトロヤリと五歳のサクヤにはまだできない。

「取ったアアア!!」

 金属球を右手に掴んだトロヤリが立ち上がり、俺の方へと走って来る。

「父さん!!取ったよ!初めてテルナド姉さんから取ったアア!!」

「おお!凄いな、トロヤリ、テルナドから取れるなんて大したもんだ。」

「ずるいよ。だって、トロヤリとサクヤは精霊の目を持ってるんだもん。あたしの魔法の裏を突いてくるんだよ~。」

 テルナドが仰向けに寝っ転がって文句を言う。

「じゃあ、お前にも精霊の目を作ってやろうか?」

 テルナドが起き上がり、「痛いからヤダ!」と即座に返答する。

 精霊の目とは、粒子の動きを見るために俺が自己改造した目のことだ。高スペックの霊子回路を接続して、粒子とマイクロマシンの動きを見られるようにしてある。

 トロヤリを始めとした俺の子供達には、霊子回路を作るのと同時に、この精霊の目を作ってやった。胎児の時に作ったので、痛みはなかったはずだ。それに対して、テルナドは八歳の時に俺の子供になったため、精霊の目を作ると、かなりの痛みを感じるはずだ。神経を繋げるため、痛覚遮断ができないのだ。

「姉ちゃん、痛がりなし。」

 サクヤがテルナドにぶっきら棒に言う。

「お前は、トンナ義母さんのお腹にいる時に作って貰ったから、あの痛さがわからないんだよ!」

 テルナドがサクヤの両頬を抓って、引っ張る。

「姉ちゃん、痛し。」

 頬を引っ張られながら、サクヤは表情も変えずに抗議する。

 テルナドは俺と出会った時、既に死んでいた。そのテルナドを救うために俺はテルナドと下僕契約したのだ。俺と下僕契約すると、下僕となった獣人たちの精霊回路では俺の霊子量に耐えられない。そのために精霊回路を霊子回路へとバージョンアップするのだが、かなりの痛みを伴う。

 六年経った今も、テルナドにとっては、あの痛みがトラウマになっているようだ。

「テルナドちゃんも(しゅご)いよ。あたしなんて、こんな重い物、宙に浮かしぇることなんてできないでしゅ。」

「う~ん。でもぉ、あたしは梟人(オウルノイド)だから、物を浮かせるのは、基本、当たり前なんだよねエエ。だから逆にトロヤリに取られるってのが悔しいのさ。やっぱ、父さんに頼んで精霊の目を作って貰おうかなあ…」

 テルナドが、再び、仰向けに寝っ転がる。

「そうなんよ。父ちゃんに作って貰えばいいんよ。その方が、魔獣を狩るのも楽になるんよ。」

 アヌヤが現れ、俺の膝からトルタスを取り上げる。

「ウンチした?」

 アヌヤが俺に聞いてくる。勿論、ウンチをしたかどうかの対象は俺ではなく、トルタスだ。

「うん。したから、分解しといた。」

「もう、なんで分解するんよ。父ちゃんに任しとくと、直ぐに分解するから、中々オムツが取れないんよ。」

「いや、だって、この状態を見ろよ。」

 背中にはコーデリアを背負って、胸にはトクサヤを抱いている。

 さっきまではトルタスが俺の膝上で眠っていたのだ。こんな状態で二歳児のオムツを替えろと?

「父ちゃんなら、分体を作って、替えられるんよ。」

 もう、その分体を誰に任せろって言うんだよ?

『俺は絶対にやらない。』

『遠慮しま~す。』

『右に同じ。』

『オムツなんて甘えたもの着けさせるんじゃない!!』

『女の子以外却下で。』

 ほらな。

「大体、お前らのお漏らしも俺が分解してんだから、そんなことで文句言うなよ。」

「え!アヌヤ姉ちゃんは、まだ、お漏らししてるんでしゅか?!」

「違うんよ!あたしはしてないんよ!お漏らしはヒャクヤなんよ!」

「なんで!?なんで、そこでウチの名前が出て来るの!!」

 ヒャクヤが飛び込んで来た。

「だって、お漏らしの代名詞ったらお前だろ?」

「違うの!あれは!あれは、おしっこじゃなくって、別の何かなの!」

 え?

 イズモリ、そうなのか?

『そんな訳ないって言ってるだろ。』

 そうか、そうだよな。吃驚した。

「さあ、皆、部屋から出な。これから、父さんとトドネちゃんは大事な話があるんだから。」

 トンナが俺とトドネにお茶を持ってくる。

 トンナに言われて、全員が口々に返事をしながら、部屋から出て行く。ヒャクヤは俺の背中からコーデリアを取り上げ、トンナは俺からトクサヤを抱き上げる。

 全員が出て行った、そのタイミングを見計らって、俺は前に座るトドネに話し出す。

「トドネ、俺がその気になれば、この話はなかったことにすることができるってのは、わかってるな?」

 トドネの顔が真剣味を帯びて、真直ぐに俺を見詰める。

 俺がその気になれば、人間の記憶を改竄できる。隠蔽することは可能だ。

「どうなんだ?俺の言ってることは理解できるな?」

 トドネがコクリと頷く。

「わかってましゅ。」

 うん。余計なことは言わない。(わきま)えてる。ここで、‘でも’とか、‘それでも’などと言って、連邦特別捜査官になると言えば不合格だ。自分の考えだけを押し通そうとするのは、他人と、特に先輩同僚とは上手くやっていけない。

「いいか。連邦特別捜査官は、経験年数を踏んだ捜査官が任命されるものだ。本来、十四歳から十六歳までの間に連邦捜査官として働き、十六歳から労働免除を受けた者が、引き続き、捜査官の仕事をしたいと望んだ場合、更に二年の捜査官経験を経て、特別捜査官に任命される。」

 トドネに視線を向ける。

 その後ろで、トンナが腕を組んで、早く終わらせろと不満気だ。

 いや、わかってるから。チョット待ってろよ。まったくもう。

 トドネが頷き、「はい。」と答える。

「そういった、本来の経験年数を飛び越えて、トドネは特別捜査官に任命される。」

 トドネが頷く。

「地上には、連邦内の様々な人間がいる。」

 トドネの視線は真直ぐだ。

「神州トガナキノ国の人間の方が少ない。特別捜査官は本国の人間だが、一般の捜査官には地上の人間の方が多い。」

 トドネの視線は揺らがない。

「やっかみも受けるし、苛められるかもしれない。地上ではヤートに対する特別な感情が残ってるだろうからな。」

 ヤート族と獣人は優先的に神州トガナキノ国に入国している。

 俺がヤート族だからだ。

 俺が優先的に入国させなくても良いと言っても、官僚、国民がそれを許さない。

 被差別民族であったヤート族の王が、国体母艦で空を支配し、海さえも支配領域に治めている現状だ。

 各連邦国家は、インフラ整備と医療技術、経済の活性化、魔獣と連邦外からの庇護と神州トガナキノ国から受ける恩恵は大きい。

 その恩恵とヤート族への国民感情は別だ。

 人々は神州トガナキノ国に救われることで、神州トガナキノ国に感謝するが、ヤート族に対する忌避感はいまだに拭えていない。

 だから、神州トガナキノ国に入国することを拒むが、連邦政府に参画することを望む。

「お前は、ゴルティア・トドネ・ヤートと名乗るんだな?」

「はい。ヤートである誇りを(わしゅ)れるな。生きることは戦いしょ(・・)のものだと思え。オルラ婆(しゃま)から、しょう、(おしょ)わりました。」

「そうか、じゃあ、特別捜査官としてやっていけるんだな?」

 トドネが、俺への視線を外すことなく頷き、大きな声で応える。

「やりましゅ。ヤートの女として、ヤートに対しゅる忌避感を(しゅこ)しでも減らしゅために。」

 うん。トドネが連邦特別捜査官にこだわるのはそういうことか。まあ、合格だな。ここで、頑張りますと言えば、不合格にするところだが、「やる。」と断言した。

「じゃあ、まずは、トドネの舌っ足らずな発音を治そう。」

 トドネが驚きの表情を見せる。

「しょんなことができるんでしゅか?」

「できるヨ。こっちにおいで。」

 俺はトドネを隣に呼び寄せ、座らせる。顔を横に向けさせて、右目でトドネの口腔内を確認する。

 俺の右目は霊子等の粒子の動き以外にサーモグラフィーでも物を見ることができる。その右目で確認すると、口腔内での舌の位置は正常だ。口呼吸もしていない。

「トドネ、口を閉じたまま、唾を飲み込んでみて。」

 トドネの喉が上下に動くが、舌の位置は変わらない。正常に動いていることが確認できる。

『外科的処置が必要だな。』

 そうなのか?

『舌裏の中央にある、舌小帯が短いことが、舌っ足らずの原因だろう。』

「トドネ、サシスセソって、口を大きく開けて言ってみな。」

 トドネが頷き、「シャ・シ・シュ・シェ・ショ。」と発音する。

『おかしいな。舌小帯が短い訳じゃない。』

「そう言えば、昔はこんなに舌っ足らずな喋り方じゃなかったよな?」

 トドネがコクリと頷く。

「しょうなんでしゅ。大体、五、六年前からなんでしゅ。」

 右目を精霊の目に切り替える。

『精霊回路が脳底部分の血管を圧迫してる。』

 疑似的な脳梗塞か?

『ああ、可哀想なことをしたな。精霊回路の位置をずらせば大丈夫だろう。』

 そうか、そう言えば、この間、トドネが言ってたな、魔法が苦手だって、その原因はこれかもしれないな。

 よし。

「トドネ、少し痛いぞ。」

 俺の言葉にトドネが頷き、「お願いしましゅ。」と応える。

 トドネの髪を一本抜き、トドネの指に傷をつける。

 俺はトドネの髪の毛を呑み込み、いや、トドネ、そういう目で見るな。変態って訳じゃないから。そういう趣味じゃないから。

 トドネの指を口に含んで、トドネの血を取り込む。

 だから、そういう趣味じゃないんだよ。

 トドネの頬を両手で挟み込み、トドネが光に包まれ、粒子へと分解され、光の粒子が、再度、トドネを構築する。

 神経線維が繋がった精霊回路の位置をずらすのだ。一旦、全身を分解してから、精霊回路を正常な位置に戻してやるのが、一番負担が少ない。それと、この作業でトドネの遺伝子情報を取り込むことができた。これで、俺の支配するマイクロマシンの領域ならば、いつでもトドネを俺の元へと瞬間移動させることができる。

「喋ってごらん。」

 トドネは目をパチクリとさせて、口を開く。

「サ・シ・ス・セ・ソ…サシスセソ!サシスセソ!!」

 トドネが俺の方に視線を転ずる。

「治ってる!!舌っ足らずが治ってるのです!!」

 うん。良かったね。でも、俺はなんだか悲しい気分だよ?舌っ足らずなトドネの方が良かったなぁ。

「トガ兄ちゃん!ありがとうなのです!」

 まあ、喜んでるから良いんだけどさ。可愛かったのになぁ、あの、舌っ足らずな喋り方。

「トガリは何だか残念そうね?」

「まあね。舌っ足らずな喋り方の方が、可愛くって、トドネには似合ってたからな。」

 トンナの言葉に、何も考えずに答えると、トドネが顔を赤くする。

「もう、トガリは、また不用意にそういうことを言う。トドネちゃんがその気になっちゃうから、言葉は選んでよ?これ以上、女を増やす気はないんでしょ?」

「え?何が?俺、そんな変なこと言った?」

 トンナが大きく溜息を吐く。

「まあ、いいわ。トガリにその気がなくっても、女の方から寄ってくるんだから、しょうがないわ。それよりトドネちゃんの舌っ足らずを治すだけで良いの?終わったんなら、出発しようよ。」

 まったく、相変わらず外見とのギャップが凄まじい姉ちゃんだな。ゴージャスクールビューティーが子供みたいに甘えてくるんだから参るよ。

「ああ、ちょっと待って。」

 俺はそう言いながら、座卓に紫の袱紗を再構築し、その上にブレスレットを二つ、そしてネックレスを再構築する。

 いずれのアクセサリーも太さ六ミリメートルのプラチナ製の金属環だ。ブレスレットは腕輪、ネックレスは首輪と言ってもいいかもしれない。

「連邦特別捜査官になる条件だ。これを持ってろ。常に身に着けて、風呂に入る時も寝る時も付けているんだ。」

 三つのアクセサリーをトドネの方へと差し出す。

「これは…」

 トドネの言葉に俺は頷く。

「触ってごらん。さっき舌っ足らずを治した時に、トドネの精霊回路に使い方を焼き付けておいたから。触ればわかるよ。」

 トドネが三つのアクセサリーに触れる。肩が跳ね上がり、目を閉じる。すぐに目を開いて、ニッコリと笑う。

「ありがとうなのです。これがあれば、百人力なのです!」

 トドネの笑顔に、俺は苦笑するしかない。

「それとこれ。」

 俺が手を加えた魔導服を再構築する。

「トドネのサイズに合ってるとは思う。俺が手を加えた特別製の魔導服だ。二着しか用意してないが、外出時は必ずこれを着ること。」

「ありがとうなのです!」

 俺の用意した魔導服を胸にかき抱きながらトドネが笑う。

「あと、トガ兄ちゃんにお願いがあるのです。」

「なんだい?」

「ロデムスを貸してください。」

 トドネが勢いよく頭を下げる。

「ロデムスを?」

「はいです!一人暮らしは寂しいので、ロデムスが居れば寂しくないのです!」

 そういうところはトドネだな。ちょっと安心したよ。

 俺はトンナに視線を向けて、ロデムスを連れて来てくれるように頼む。

 ロデムスは黒豹型の魔獣だ。今は、俺の使役魔獣として無縫庵の離れに叔母のオルラと共に住んでいる。

 そのロデムスが、のっそりと現れる。

「主人よ。なんの用じゃ?」

 この言葉遣い。

 どうだよ?使役魔獣とは思えない言葉遣いだよ。

 戦闘時は体長五メートルを超えるが、今は並の黒豹と同じぐらいで一.八メートルほどの大きさに抑えている。突出した二本の犬歯も今は無い。どうも、喋りづらいらしい。

 ロデムスの後ろから、黒い生地に牡丹が縫われた着物を婀娜(あだ)に着崩したオルラが、トクサヤを抱いたまま現れる。トンナの奴、もうトクサヤをオルラに押し付けやがったのか。旅行に行く気満々だな。

「おや?トドネじゃないか。一体どうしたのさ?」

「今度、地上で連邦特別捜査官をすることになったんでね。その装備品を渡してたところなんだ。」

 オルラは赤い櫛と銀の簪で、巻き上げた髪を止めている。胸元を大きく広げ、襟を抜いている。曝した項を指先で撫でながら、俺の正面、元はトドネが座っていた場所に座り、その隣にロデムスが座る。

「そうかい。やっぱり、お前もヤートだねぇ。」

 俺の言葉を聞いて、ある程度のことは察したのだろう。オルラが感心したようにトドネを見る。

「うん。トガ兄ちゃんにも言ってたんだ。生きることは戦いだって、婆ちゃんから教えてもらったんだって。」

 トドネもオルラの前では、ただの孫だ。話し方が一気に砕ける。

 なんだか、トドネが、オルラに対して婆ちゃんって言ってるのを聞いて、違和感半端ねえわ。大体、外見が二十歳後半にしか見えない上に、やたらと艶やかなんだヨな。なんで、オルラってこんなに色っぽいの?意識してないのかも知れないけど、色っぽい格好が好きだよねぇ。

「おや?舌っ足らずな喋り方が治ったねぇ?」

「ああ。下はヤートへの風当たりがキツイからね。なんのかんのと、くだらないことを言う奴がいると思って、治した。」

「じゃあ、あたしのツブリを持って行くかい?」

 う~ん、設定を変えれば、使えないこともないだろうが、ツブリは使い方が難しいから、トドネには無理だろう。それにしても苛められないように武器を持たせるって発想は勘弁して頂きたい。

「ううん。代わりにロデムスを連れてくからいい。」

「なぬ?」

 トドネの言葉にロデムスが顔を上げる。

「しゅ、主人よ。聞いておらぬが。」

「うん。さっき決めた。」

「なんと、主人は我を捨てるつもりかのう?」

「捨てるも何も、お前、ずっと、オルラにべったりじゃないか。」

「いや、それでも、我の主人は主人であって、決してオルラ殿やトドネ殿ではないのだがのう。」

「うん。だから、主人は俺のままで、オルラの傍じゃなくてトドネの傍にいてやってくれ。」

 ロデムスの髭がシュンと垂れる。

「そうだね。ロデムスがトドネの傍にいてくれるなら、あたしも安心できるね。」

 オルラの傍を離れたくないロデムスとは対照的に、オルラはスッキリとしたものだ。

 そんなオルラの顔を見て、ロデムスが更にしょげる。

「じゃあ、ロデムス、頼むぞ。俺は既にこんな状態だからな。」

 トンナは俺の両脇に手を差し入れ俺を抱え上げている。俺は直立したまま待ち上げられている状態だ。百八十センチメートルの男を軽々と持ち上げるのは大したものだが、人前では止めて頂きたい。

「もういいでしょ?行きましょう。」

「いや、トンナ、出発前にトイレに行かせてくれない?」

「もう。」

 トンナが文句を言いながら、俺を左肩に担ぎ上げる。

「いや、自分で歩いて行けるんだけど。」

 スルーされた。

 昔だったら、泣きそうな顔して、「下りちゃヤダ。」ってお願いしてきたんだけどなぁ。最近は無視されるんだよなぁ。

「じゃあ、ちょっと待っててな。」

 俺はトンナに担がれて、トイレに向かう。

 そのトイレで、手首部分を分解して、俺は自分の左手を斬り離す。

 斬り離した手首をそのままにして、生やすようにして新たな左手を再構築する。

 脳底の霊子回路を分裂複製して、上顎からその霊子回路を生み出す。

 斬り離した手首に霊子回路を埋め込み起動させる。

 左手がチビトガリへと変貌する。

 ロデムスが持つ、分裂再生能力だ。

 この分裂再生能力は最小で二十センチメートル以上の大きさなら、自立型のクローンとなる。

「で、俺が、トドネと一緒にいればいいのか?」

 チビトガリ、生意気だな。

「そうだ。しっかり、トドネを護ってやってくれよ。」

「お前、俺を誰だと思ってるわけ?任せとけよ。」

 なんだ?こいつも偉そうだな。俺なのに凄いムカつく。

「いて!!なにすんだ!」

 思わず、思いっきりデコピンしちまった。

「うるせえ。偉そうなんだよ、お前。」

「なんだよ。それが人にものを頼む態度かよ。」

「お前は他人じゃないだろ?」

 チビトガリの服を再構築してやる。

 その襟首を摘まんで、分解、トドネに渡したネックレスに飛ばす。

 これで、ネックレスに仕込んだ霊子回路を起動させれば、俺、つまりチビトガリが起動する。

 トドネに渡したブレスレット二つはネックレスに連動している。

 ネックレスを起動させれば、ブレスレットも起動する。

 ネックレスには霊子のコントロール用のプログラムを組んである。右のブレスレットには、マイクロマシンによる物質再構築プログラムで左は分解プログラムだ。

 ネックレスのプログラムは、他人の霊子との周波数同一化とマイクロマシンへの命令の暗号化が主なプログラムとなる。

 あとはチビトガリを憑依させたような状態なので、俺がその気になれば、リアルタイムでトドネを助けることができる。多分。

 うん。大丈夫だ。俺の支配するマイクロマシンの領域なら瞬間移動もさせることができるし。万が一、その領域から出た時の保険として、チビトガリを付けたのだ。

 うん。大丈夫だ。

 大丈夫だと思う。

 それでも、心配なんだよなぁ。

『随分とトドネには甘いな。』

 だって、トガリの記憶では、小っさい時から妹みたいに可愛がってたんだぞ?俺達がトガリの体に転生してからは娘みたいに感じてたし…

 やっぱ、全力で阻止しようかなぁ。トドネの思考を誘導すればどうとでもできるんだし。

『やめとけ、身内の頭の中を弄るなんて、何森源也のようになるぞ。』

 そうだよなぁ。ここは男らしく見送ろう。

 そう思ってたのだが、トドネの出発は明後日とのことだったので、トンナに担がれた俺が、トドネに見送られることになった。

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