少女の意志は俺とは違って確固たるものだった
今回のお話は短いです。すいません。謝ることないか?
書類が片付き、脱力全開で天井を見上げていると、訪いが告げられる。
「どなたですかな?」
部屋中に散乱している書類を三人のメイドと片付けていたヘルザースが答える。
何故、部屋中に書類が散乱しているかと言うと、書類に押印するたんびに、腹立ちまぎれに俺が放り投げたからだ。
「トドネでしゅ。」
くぐもった声が扉の向こうから聞こえる。
ヘルザースが片手に書類を固めて、扉を開ける。
「どうぞ。陛下がお待ちですよ。」
子供には優しいんだよなぁ。現代日本なら、俺も子供の部類に入るのに。
『五十一歳のオッサンが何をぬかしてる。』
そうでした。
俺ももう五十一歳でした。だったら、こっちの世界じゃ、働かなくてもいい年齢じゃねえか。
『ヘルザース達もその点じゃ同じだがな。』
くっ。
「トガ兄ちゃん、何か御用でしゅか?」
くう。この舌っ足らずな喋り方が、また、素で可愛いんだよなぁ。
俺は一つ頷いて、執務机に身を乗り出す。
「トドネ。地上の連邦国内は、危ないぞ?お前は覚えていないかもしれないが、ハルディレン王国で起こった魔獣災害以来、魔獣が沢山いるんだぞ?治安だって悪いし、悪い人間ばっかりなんだぞ?そんな所で連邦特別捜査官なんて、本当に、本っとオオオオオに危ないんだぞ?」
トドネが満面の笑顔を見せる。
なんか、ニパッて音が聞こえてきそうな笑顔だ。
「治安が悪くなくって、危なくないなら、特別捜査官なんていらないんでしゅ。あたしはトガ兄ちゃんみたいに、皆のために働きたいんでしゅ。」
ンンン?
「いや、俺は、働いてないぞ?トガナキノ国の国王は働いちゃダメなんだからな?」
トドネが左右に首を振る。
「でも、外国に行って、奴隷問題とか、人種差別問題とか、魔獣狩りとか、災害復旧活動とかやってるんでしゅ。だから、あたしもやるんでしゅ。」
志は高いんだよな。
「じゃあ、トドネ。俺が、そういうことをしに行った時に、一緒に行くっていうのはどうだ?それなら…」
トドネが真剣な眼差しで、俺を睨んでる。
「一人で立派にお仕事をしている事実が欲しいのでしゅ。」
「?どういうことだ?実際に働けるようにしてやるぞ?」
「…あたしは、なんにもしてないんでしゅ。」
トドネが伝えようとしている事の意図がわからない。黙って、その先の言葉を待つ。
「トガ兄ちゃんは、沢山の人を助けて、こんな大きな国体母艦を造って、皆を幸せにしてましゅ。だから、皆がトガ兄ちゃんを王様だと認めるんでしゅ。」
神州トガナキノ国は、空中に浮かぶ国体母艦の上に建国されている。
全長五十四.六三キロメートル、全高三.七三キロメートル、最大全幅八.一七キロメートルの超巨大浮遊物体が国体母艦だ。
その国体母艦と甲板上の城塞都市は、俺が創り上げた。
そんな城塞都市を乗せた国体母艦が現在、五隻稼動している。他の耕作地用、牧草地用、養殖地用の国体母艦を合わせれば、全部で十四隻だ。
ハルディレン王国を多数の魔獣が襲った魔獣災害、カルザン帝国は、魔虫による疫病災害に見舞われた。その悉くを解決したのが俺だ。
「でも、あたしは、なんにもしてないのに、トガ兄ちゃんの従妹ってだけで、王族になってしまうのでしゅ。」
姉のトネリは、当初、サラシナという家名を名乗ることを良しとしなかった。今、トドネが言っている理由と同じ理由でだ。
セディナラが、「王族から逃げるな。」と、説得したので、今はサラシナと名乗っているが、娘のトドネは、ずっと悶々としていたのだろう。
もしかしたら、トネリが王族として、恥ずかしくないように教育してきたのかもしれない。多分、過剰に教育したんだろうなぁ。俺の許婚だったアラネが別の男と結婚した件で、かなり怒ってたからなぁ。
でもなぁ。
「いや、でも、トドネ。トドネが、連邦特別捜査官になったら、この国の王族は十二歳になったら、皆、連邦特別捜査官にならなきゃならなくなる。その前例をつくっちゃうんだぞ?」
俺の言葉にトドネが頷く。
「トロヤリちゃんとか、シャクヤちゃんも魔狩りになってましゅ。トガ兄ちゃんが魔狩りだったからでしゅ。でも、あたしには魔狩りは無理なので、連邦特別捜査官になりましゅ。」
つまり、今後、王族は、能力に見合った仕事を選択して、その仕事ぶりで王族の証を立てろってことか。
『お前が、そういう前例をつくったってことだな。』
そうなるか。
偉業を成し遂げた者が王様になると、子孫は大変だなぁ。
いやいや、感慨にふけってる場合じゃないでしょ?
「でもさ、それなら、連邦特別捜査官じゃなくって、災害復旧活動委員会でも、連邦特殊保健衛生機構でも良いんじゃない?」
トドネが首を振る。
「どっちも連邦内では、あんまり活躍の場がないでしゅ。連邦外なら活躍できましゅけど、連邦外での活動は義母しゃんがダメって言ってましゅ。」
たしかに、災害、疫病に関して言えば、連邦内は安定してる。マイクロマシンと六人のAIアンドロイドが活躍してるからなぁ。
それにしたって、なんで、連邦外での活動をトネリは反対してるんだ?まあ、その方が俺としてもフォローはしやすいが。
そうだな。
連邦内なら、フォローはしやすい。
「しょれと、あたしはシャラシナって名字を使いたくないんでしゅ。」
「ええ?」
また、なんで、そういうややこしい縛りを持ち出すのかな?サラシナって名字だけで、王族だとわかるんだから、便利だろうに。
『だから、使いたくないんだろうよ。』
むう。そうだよな。王族ってだけで、周りの人間が特別扱いをするよなぁ。そうなると、トドネの目的から外れるかぁ。
「じゃあ、どうするの?偽名を使うのかい?」
トドネがコクリと頷く。
「ゴルティア・トドネ・ヤートと名乗るつもりでしゅ。」
ゴルティアねえ。ゴルタスって名乗ると、ウルフノイドの族名だからな。語感を似せたのか。
俺はトドネを見詰めながら、溜息を吐く。
感情の起伏を見ることの出来る、俺の右目で見ていたが、トドネの感情は一切揺らいでいない。意志は固いようだ。
「わかった。じゃあ、幾つか俺の条件を呑むなら、連邦特別捜査官になっても良しとしよう。」
トドネが満面の笑みで、「ハイでしゅ!」と、答える。
「いいか?今日はゆっくり休んで、明日の、この時間に無縫庵においで。その時に条件を出すから。」
「わかったのでしゅ!!」
トドネが元気よく答えて、部屋から出て行く。
俺は、その後姿を見送りながら、もう一度、大きな溜息を吐いた。




