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だいはちわ いずれねずみかおうじさま ちゅうへん

 それは、ホシネズミがまだ人間であった頃のお話です。


 ホシネズミは、とある国の王子でした。

 その国は「ご都合古代文明」が残した「キングダムパレス」という厨二っぽい名前の遺産によって成り立っていたのです。

 「キングダムパレス」の能力は多岐に渡り、王都を覆い隠すバリアーや、遠距離砲撃、肥料の製作から天気予報までほぼ何でもござれの万能遺産でした。

 あまりにも便利すぎるので、その国はもう「キングダムパレス」無しでは立ち行かないレベルで依存していたのです。

 現代地球でもいまさら電気が無い生活には戻れないと思われますので、それと似たようなものかもしれません。

 そんな一人勝ち状態のその国を、周辺諸国はあまりよろしく思っていませんでした。

 自分たちが冷害とかで食うや食わずやの生活を送っている横で、「たいへんだねー」とか言いながら暖かい食事をしているやつを見れば、誰だってむかつく事でしょう。

 周りの国々はその国を非常にねたましく思っていましたが、手を出す事はしませんでした。

 「キングダムパレス」は戦争にもすごい力を発揮しますし、何よりも闘って勝っても意味がないと思っていたからです。

 融通の利かない「キングダムパレス」は、その国の王位継承者で無ければ使えません。

 まして下手に王族を根絶やしにしたりその国を属国にしたりすれば、「キングダムパレス」は機能を停止してしまうのです。

 苦労して戦争に勝っても「キングダムパレス」が無いのでは、割に合いません。

 周りの国々も名前はアレでも性能はすごい事を、よく知っています。

 のどから手が出るほど欲しくはありますが、どうやっても手に入らないものは手に入らないので、諦めてかかわらないようにしていたのです。

 その国も「キングダムパレス」さえあればべつに輸出入とか必要なかったので、一切気にしていませんでした。

 それがまた周りの国々をイラつかせるわけですが、どうしようもなかったのです。

 ですがある時、その関係が一変する出来事が起こりました。

 ある人物が、「キングダムパレス」についてこんな事をもらしたのです。


「あれってさぁーあー。べっつに解体したり溶かしちゃったりしてもすんげぇー価値あるんじゃとおもうんじゃよねぇー。だってあれ総オリハルコン製よ? あ、もっちろんわしの方がゴイスーですけどぉー! あっはっはっは!!」


 それは、衝撃的な事実でした。

 周りの国々はそれまで、「キングダムパレス」の存在は知っていましたが、それが何で出来ているかなんて考えた事が無かったのです。

 そもそも現物は厳重に守られていて、他国のものは見ることすら出来ません。

 ならばそのある人物というのが行った言葉も信用できないのではないか、と、思うかもしれません。

 ですがその人物は当時最強の魔法使いであり、古代文明ともかかわりが深かったのです。

 周りの国々は一気に活気付きました。

 オリハルコンといえば、それで剣を作っただけで伝説になっちゃうようなとてつもない金属です。

 「キングダムパレス」は家一件分ほどの大きさがあり、その全てがオリハルコン製だといいます。

 圧倒的な火力を持つ兵器の材料になりうるそれは、戦争する理由としては十分なものでしょう。

 それだけのオリハルコンがあれば、国を二つ三つ滅ぼすのに十二分な兵器を作る事が作る事が出来るはずです。

 かなり犠牲を払う事になったとしても、「キングダムパレス」を奪いさえすればおつりが来ます。

 結局のところ、いつの時代も軍事力が強い国が正義なのです。

 それまで無視にも近い不干渉を保ってきた周囲の国々ですが、それを境に態度を一辺させました。

 何かしら理由を見つけては、難癖をつけ始めたのです。

 他国が冷害に苦しんでいるときも、栄華を貪り富を分け与えようともしない、とか。

 強力な兵器を持って、周辺の国々を脅かしている、とか。

 実は「キングダムパレス」の維持にはいけにえが必要で、それを他国の国民で賄っている、とか。

 かなり強引なものから無茶苦茶なものまで、ほとんどがただイチャモンをつけたいがために言っているような内容でした。

 無理もありません。

 何しろ今まで不干渉を保ってきたので、攻める材料も見つからなかったのです。

 その不干渉だったことを逆手にとるにしても、周囲の国々もかかわらないでくれと言ってきたので意味がありません。

 兎に角思いつく限りの無茶苦茶なイチャモンをつけ、思いつく限りのちょっかいを出しました。

 はじめのうちは無視を決め込んでいたその国も、次第にイライラし始めます。

 そしてついに、決定的な出来事が起きました。

 周囲の国々が挑発するために行った合同軍事演習中、その国に向って大魔法が放たれたのです。

 幸い「キングダムパレス」が瞬時にシールドを張ったため事なきを得ましたが、流石にこれは無視できません。

 その国はかなり厳重に抗議をしましたが、周囲の国々から帰ってきた返事は舐めているとしか思えないものでした。

 ちょっと失敗して誤射しちゃった、というのです。

 しかも、どうせバリアーとかあるんだし気にすんなよ! はげるぜっ! と言うような事すらいってきたのです。

 これには流石のその国もドブチギレました。

 引きつった表情で頭上に「?!」という記号が出るレベルです。

 ドブチギレたその国は、早速実力行使に出ました。

 自分の領土近くで合同軍事演習をしている軍隊に、二十四時間以内にどっか行かないとすっ飛ばすぞと警告したのです。

 当然挑発をするつもりでそこに居た訳ですから、合同軍事演習をしている軍隊の人たちはどっかに行ったりしませんでした。

 それどころか、あからさまに馬鹿にした様子で喧嘩を売ってくる始末です。

 その国は怒り狂いましたが、それでも二十四時間は我慢しました。

 我慢して我慢して、ちょっと出してまた我慢です。

 いよいよ二十四時間がたったとき、その我慢が噴出します。

 王様の指示により、「キングダムパレス」が閃光を放ったのです。

 それは、周辺の国々が予想していたものの、遥か上を行く破壊力でした。

 たったの一撃で、合同軍事演習に参加していた一国の部隊が消え去ったのです。

 しかもそれは、その国に向けて大魔法を放った部隊でした。

 それは警告だったのです。

 お前達の情報は筒抜けで、いつでも消し去れるのだぞ、という事を見せ付けるものだったのです。

 流石の周辺の国々も、これには驚きました。

 ガチでビビリまくりました。

 自分たちが喧嘩を売った相手がどれほどの力を持っていたのか、気が付いたのです。

 ですが、ここまで来たら後には引けません。

 悪逆非道の国といっていた手前、やっぱ強いから喧嘩するのやめる、ともいえないのです。

 周辺の国々は兎に角数でつぶしてしまおうと、四方八方から攻撃を始めました。

 幸い「キングダムパレス」が放ったあの強力な閃光は、打つために数日の充填が必要です。

 上手く分散して攻撃をすれば敵も狙いにくくなるため、戦いようはいくらかあったのでした。

 こうして始まった戦争は、当初の予測に反して泥沼の様相を呈し始めます。

 その国の王都周辺は「キングダムパレス」により強固に守られていましたが、辺境地域まではカバーし切れませんでした。

 そういった場所はその国の兵隊が守るしかないのですが、ここでも大きな問題がありました。

 「キングダムパレス」にばかり頼っていたその国の兵隊は、他の国よりもずっと弱かったのです。

 王都近くまで占領されては、「キングダムパレス」の力により撃退。

 同じく「キングダムパレス」により生産された物資が届く限りは、それを使い押し返す。

 でも、それが届かなくなればとたんに大敗をきす。

 そんな事が、何年も続きました。

 周辺の国々は自分の領土まで攻め込まれませんでしたから、国力が極端に減る事はありません。

 その国も、「キングダムパレス」が生み出す豊かさに守られ、すごく人口が減ったりすることもありませんでした。

 このままではどちらも決定打を打てず、戦争はいつまでも終わりません。

 痺れを切らしたその国の王様は、ついにある決断を下しました。

 自分の王子達に、「キングダムパレスの祝福」を受けさせる事にしたのです。

 いかにも厨二臭い響きの言葉ですが、その内容は実際それっぽい感じのアレでした。

 「キングダムパレス」は、王権を寄り強固なものにするため、王族の血に連なるものの体をより強靭なものにする機能を持っていたのです。

 手っ取り早く言えば改造手術でした。

 王族を死ににくい強靭で強力な体にしてしまえば、王国はより繁栄します。

 ですが、ここ数世代の王はその手術を嫌っていました。

 色々御託は並べていましたが、要するに人間からかけ離れる事に嫌悪感があったからです。

 にも拘らず王は、自分の子供達にそれを受けさせる事にしたのです。

 かなりの外道っぷりですが、それっぽい演説を事前にぶっておいたので、国民は特に疑問も持ちません。

 王子達も、それが国のためになるならばと、張り切って手術を受けました。

 王様は自分が手術を受けなくて済んだ事にほっと胸をなでおろしましたが、皆そんな事は知る由も有りません。

 「キングダムパレス」による改造手術は、あっという間に終わりました。

 王子達は凄まじい力をもつ存在に生まれ変わったのです。

 彼らの登場により、戦局は一変しました。

 一気に戦線は押しあがり、周辺の国々はほぼ壊滅状態まで追い込まれたのです。

 その頃になると、周辺の国々に暮らす人々の考え方も変化してきました。

 それまで人々は、「キングダムパレス」の力を話や噂でしか知りませんでした。

 ですが、王子たちの出現により、その片鱗を間近で感じさせられる事になったのです。

 周辺の国々は、がったがたになりました。

 国民はビビッて逃げ出そうとするし、兵隊はがりがり減らされます。

 こんなはずじゃなかったと頭を抱える周辺の国々でしたが、そこでラッキーな事が起きました。

 王子達が次々に死んで行ったのです。

 それは「キングダムパレス」の改造をハンパに受けたため、体が戦闘に耐えられなかったからなのですが、周辺の国々にはどうでもいいことでした。

 このチャンスを逃す手はないと、すぐに停戦を申し込みます。

 その国にはまだ何人か王子が居ましたが、王様も出来れば改造なんてしたくありませんでした。

 話し合いは終始その国主体で行われ、条件もその国に有利な形で結ばれました。

 周辺の国々はその国の属国になり、絶対的な忠誠を誓わされたのです。

 そこで、周辺の国々にとって、更なる不幸が襲い掛かります。

 なんと「キングダムパレス」には、属国を支配する機能まであったのです。

 「キングダムパレス」は周辺の国々に端末を発射し、反乱した瞬間に消し去れるようにしてしまったのです。

 周辺の国々は、絶望で目の前が真っ暗になりました。

 一人勝ちになった形のその国の王様は、飛びあがって喜びました。

 戦争で王子が何人か死んでしまいましたが、王子はまだいるので問題ありません。

 それに、どうせ死んだ王子は「キングダムパレス」に改造された王子です。

 改造にあまりいい印象を持っていなかった王様は、まさにこの世の春状態でした。

 残っている改造されていない一番上の王子は王様のお気に入りでもありましたし、もはやこの世に思い残す事は無い状態です。

 王様は満足して、寿命を全うしてこの世を去りました。

 戦争が終わってから十数年目のことです。




「王様の死後、キングダムパレスは後継者を選んだ。誰もが王様のお気に入りの王子だと思っていたが、実際は違ったわけだ」


 ホシネズミはどこか遠くを見え詰めるような目をしていました。

 手に持った植物の種を口に咥えると、反対側に火をつけます。

 その種は小さな生物達にとって、タバコのようなものなのです。


「死んだと思われていた王子の中で、一人だけ生きているやつが居たんだよ」


「それが、深い森の賢者様って訳ね」


 お姫様が冗談めかしていいます。

 ホシネズミはいやそうに顔をしかめますが、それでもなんとか気を取り戻してお話を続けます。


「まあ、そうだな。俺だ。他の連中がハンパに祝福……まあ、改造だわな。されて人間の部分を少しでも多く残そうとする中、俺だけは完全な改造を選んだんだ」


「完全な改造、ね。そもそもハンパに人間の部分を残そうとするのが信じられないわ。人間なんて脆弱なだけの存在なのに。私以外は、の話しだけど」


 お姫様はナチュラルに言い放ちます。

 それもどうかと思ったホシネズミですが、突っ込むのはやめておきました。

 お姫様のこの性格は、今に始まった事ではないからです。


「それで、何でその完全な改造、とかいうのを選んだわけ? 普通は忌避するんでしょう?」


「まあ、普通はな。そのとき俺はどうせ死ぬつもりだったし、戦って死ぬなら自分の体なんてどうだっていいと思ってたんだよ」


「でも、生き残った。ってことかしら」


「戦場で殴り合ってるとき、たまさか拾われてな」


「それが、お師匠様のお師匠様。先代の森の魔法使いってことね」


「いいや、違う」


 首を振るホシネズミに、お姫様を不思議そうな顔をします。


「死掛けてる俺を拾ったのは、娼館の娘達だよ。で、あのじじぃはいいカッコがしたいがために俺を弟子として引き取った訳だ」


「ああ……」


 お姫様は表情を少し引きつられました。

 直接会ったことはありませんが、噂は色々聞いています。

 いい噂が一切無いところが、じじぃの人となりを表していました。

 お姫様は呆れたように肩をすくめて、ため息を吐きます。


「通りでネズミにしてはとんでもない魔力を持ってるわけだわ。幾らこの深い森の動物でも、ホシネズミの力は飛びぬけてるもの」


「ネズミにしては、な。まあ、人間じゃなくなってもここじゃそんなもんさ。まあ、兎に角。あのクソジジィについてここで暮らしてるうちに、人間社会ってのが煩わしくなってな。下の弟やら何やらに権利を委託してたら、いつの間にか今みたいになってた訳だ」


「へー」


 バーニカが分かって居なさそうな顔で呟きます。

 恐らく、ここまでの話は一切理解していないでしょう。

 バーニカは難しい話がとても苦手なのです。

 お姫様は呆れたように首を振ってため息を吐きますが、それ以上は何も言いません。

 バーニカが難しい話が苦手なのは、今に始まった事ではないからです。


「細かいところは色々有ったんでしょうけど。まあ、いいわ。百年も二百年も前の人物同士の人間関係なんてどうでもいいもの。今まで良くわかっていなかったキングダムパレスとかいう玩具の事と、王族の秘密が分かっただけで十分よ」


 自信満々な顔で、お姫様は胸を張ります。

 勿論膨らんでいない胸はぺったんこです。

 きっと、一部の大きなお友達は大歓喜に違いありません。

 ホシネズミは呆れたような顔をしていますが、お姫様は気にも留めません。


「へー。ホシネズミってー。王子様だったんだねー」


「今は王子様って言うか、王様だよ!」


 フェアリードラゴンとリスが、感心したように頷いています。

 今までずっと一緒にやってきたホシネズミの衝撃の正体でしたが、二匹とも全く動揺していません。

 このぐらいで驚いていては、この森での小動物家業はやっていけないのです。


「なんにしてもあの国の弱点の一つが分かったわ! 将来私が支配するときの足がかりになるわね! おーっほっほっほっほっほっほっほ!」


 お姫様は腰に手を当てると、高笑いをかましました。

 まさに最高潮といった様子です。

 こうなっているときのお姫様は、何を言っても聞こえません。

 ホシネズミは後でよく口止めをすることにして、種の火を地面でもみ消し、二つ目の種に火をつけました。

 目に入るのは、高笑いをしているお姫様と、なにやら楽しそうに騒いでいるフェアリードラゴンとリス、そして、ボケーっとした顔でアメを舐めているバーニカです。

 ソッチを見ていると気がめいってくる気がしたので、ホシネズミは空を見上げました。

 まるくて明るい月が、ぽっかりと空に浮かんでいます。


「……そういえば、お穣を拾ったのもこんな日だったか……」


 今日のホシネズミは、いつもよりもセンチメンタルな気分でした。

 なんだか昔のことを色々と思い出したい気分だったのです。

 種から吸った煙を吐き出すと、ホシネズミは記憶をさかのぼり始めるのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] お姫さまの根拠のある傲慢さがとても好き。
[良い点] よき暇潰し! [気になる点] つづきーつづきーU^q^U [一言] うほっ
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