第14章 五枚の封を解く
買い付け資格を示す書類を出すのに、ロゼットはいつもより時間をかけた。
指先で角をそろえ、窓口へ置く。領都の認定販売所には、荷を受け渡す低い台と、その奥の保管棚があった。露店のように手へ取って品を比べる場所ではない。担当者が台帳を開き、書類の名と顔を見比べる。
「結界用ですね。先日は在庫の確認だけでしたが」
「今日は選定をお願いします。こちらの方に、検証条件を見ていただきます」
リシュアンは魔導局の職員だと名乗り、ロゼットの横へ立った。
「製造元と時期の違うものを比較したい。まず、在庫に対応する記録を見せてください」
担当者は棚へ手を伸ばしかけ、帳面をもう一冊持ってきた。
ロゼットは台に置かれた包みを見た。封に裂けはない。湿気を吸って波打った跡も見えなかった。
「この棚に入る前は、どちらで保管を?」
「奥の保管室です。搬入日は、こちらに」
「受領したときに外包みの傷みはありませんでしたか。あと、封を開いて試す場合の扱いを確認したいです」
検証に使ったから売り物へ戻せるとは限らない。代金と受領の条件を、口約束にしたくはなかった。
担当者が説明する横で、リシュアンは番号を転記していた。
「同じ工房でも、こちらは製造時期が違いますね。ロットに対応する用紙の供給記録はありますか」
「ブランクスクロールの分まで、ですか」
「はい。術式を書き込む前の用紙が同じ供給元なら、完成品の工房だけ変えても、比較できる条件は限られます」
ロゼットは帳面を覗いた。自分なら、まず封と保管を確かめる。リシュアンは、品物がこの店へ来るより前の記録まで戻っていた。
「この二つは、製造元が違うけれど、用紙の来たところは同じかもしれない、と」
「その可能性も含めて記録します。今、用紙が原因だと決めたわけではありません」
ロゼットはうなずき、自分の帳面へ書いた。
村で直せない品を買う。自分には開けられないところを、知っている人と確認する。そうするつもりでここまで来たはずなのに、書き加える欄が増えるたび、胸が落ち着かなかった。
「見れば分かるものでは、ないんですね」
言ってから、曖昧な聞き方をしたと思った。リシュアンは手を止めた。
「異常な品がどれか、ですか」
「はい」
「今は分かりません。だから、違う条件を含めて五枚を選びます。全部正常なら、それも結果です」
台の上の包みは、どれも同じように見えた。
ロゼットは封の端へ触れかけた指を引いた。
「では、この一枚も。保管状態を確かめられて、ほかとは製造の時期が離れています」
「記録を照合しましょう」
独断で一枚を選ぶときより、時間がかかった。だが、選ぶ理由をひとつ口にするたび、もうひとつ確かめることが返ってくる。そのやり取りは、少なくともロゼットひとりの胸の中では終わらなかった。
*
担当者が指定した検査場所で、五枚を順に開いた。
開封前の封の状態と、番号を読み合わせる。リシュアンが設置条件を定め、担当者も記録を持って立ち会った。
ロゼットは、一枚目が正しく収まるのを見た。
「起動します」
リシュアンの手が離れる。作動を確認し、記録へ印が入った。
二枚目。三枚目。
どれも正常だった。
ロゼットは、四枚目の欄へ線を引いた。筆先がわずかに滑る。最後の一枚も、同じ条件で作動した。
「五枚、すべて正常です」
担当者が言った。
胸が軽くなるはずだった。
一枚でも違いが出れば、フルーリで起きたことへ近づけると思っていた。動かない品が見つかることを、どこかで待っていたのだ。
筆先を次の欄へ進められずにいた。正常、と書けばいい。見たとおりに。
ロゼットは最後の欄を埋めた。ここで動く品を持ち帰れば、村は守れる。そう思いたかった。
「この結果を、村でも同じように確かめるんですね」
「はい。ここで動いたという記録を、持っていきます」
リシュアンは作動を止めた品を一枚ずつ確認した。
「どこで、どの品が、どういう状態だったか。それがつながらないと、後で違いが出ても比較できません」
ロゼットは自分の帳面を閉じず、包み直されるところまで見届けた。番号と数量、開封して試した事実、再び封をした状態を残す。五枚は混ざらないよう収められ、リシュアンが管理して運ぶことになった。
買い付けの書類へ名を書き、代金と受領の確認を済ませる。
「私が受け取った分の記録も、こちらに」
ロゼットは写しをリシュアンへ示した。
彼は一行ずつ照合し、うなずいた。
*
外へ出ると、通りの声が急に近くなった。
荷車を引く男が、曲がり角で相手に道を譲っている。パンを抱えた子がその間を抜け、叱られて足を止めた。
ロゼットは空いた手を見た。
持ち帰る五枚は、リシュアンが預かっている。ロゼットは受領の写しを帳面へ挟み、雨で濡れないよう内側の包みへ収めた。彼の持つ記録にも、同じ五つの番号がある。
「村で動いたら、管理人さんにも扱いを確かめてもらいたいです」
「お願いしましょう。設置に慣れた方の話は、必要です」
ロゼットは通りへ踏み出した。
五枚とも、ここでは動いた。
そのことを、ユーゴに伝えようと思った。




