7.手紙
翌朝からリュミリアは、さっそく動き出した。知り合いの令嬢たちに、5日後に開催するお茶会の手紙を送る。よければお友達と一緒にどうぞ、と一言添えた。
ノクティス帝国では、未成年の男女は夜会に出れない。けれど今回はお茶会なので、夜会とは違う令嬢たちとも出会えるはずだ。彼女たちからならば、夜会では耳に入らない噂も聞くことが出来るかもしれない。
幸いにも今は光の第一月……帝都の社交シーズンの始まりだ。大勢の令嬢が帝都に集まっている。彼女たちの大半は、お茶会に来てくれるだろうとリュミリアは確信していた。フォルテリア侯爵家の歴史は長く、今のリュミリアは皇太子の婚約者だ。彼女に近づきたい貴族は山ほどいる状態だった。
その夜はまた夜会に参加して、リュミリアは翌日からお茶会の準備を整える。手紙のほとんどは予想通り『喜んで参加させて頂きます』というものだった。老若男女が揃う夜会ほどではないにせよ、帝都中の年若い令嬢が集まるのではないかと思えるほどの規模になりそうだった。そんな中届いたノワールも参加すると言う手紙だけが、忙しさに押し潰されそうなリュミリアの心をほんのりと照らす。
また夜が来て、夜会へ行き、帰って、お茶会の準備をする。その忙しい合間に、リュミリアはガイアスをフォルテリア侯爵邸へと呼び出した。
「よぉ、最近忙しそうだな、リュミリア」
「えぇ、少しね。ねぇ、ガイアス、黒髪黒目か闇属性のご令嬢を知らない?」
夜会の時とは違い、幼馴染の気やすさで2人は会話をする。フォルテリア侯爵領とテラステラ伯爵領は隣り合わせであり、当主同士の仲も良い。リュミリアとガイアスも自然と兄弟のように育ち、今に至る。
「黒髪黒目ねぇ。市井にならいるだろうが、貴族には少ないんじゃないか? 金や銀の髪を好む貴族が多いから、自然とその子供たちもそうなる。闇属性にしても同じだ。貴族の多くは、光属性の子供の方が有利だって知ってるから、闇属性の配偶者を持ちたがらない」
闇の魔物がノクティス帝国で、その最たる対抗手段となる光属性の子供たちは大切にされる。闇属性や他の属性よりも、効率的に魔物を倒せるだけでなく、光の結界を作り維持できるからだ。そして魔法属性は両親から影響を受けるし、光属性と闇属性が同時に発現することはないとが知られていた。
可能性の低さにリュミリアは少し重い気分になった。それを察したかのようにガイウスが口を開く。
「……まぁ……黒髪黒目の子や、闇属性の子を隠して育ててる家もいるかもしれないが」
ガイアスの言葉は、ノワールのことを示しているようで。リュミリアは胸が痛んだ。
「だが、なんで、黒髪のご令嬢を救おうなんて思った? 皇太子の婚約者としての慈善活動か?」
「……そうよ」
そんなことを考えたことはなかったが、良い言い訳だと思い、頷く。
「……分かった。騎士団の連中にも聞いてみる」
「助かるわ。ありがとう、ガイアス」
ガイアスが所属している騎士団員たちに聞いてくれれば、ご令嬢たちに聞くのとは、また別の情報が入るだろう。
(……もし見つかった令嬢が、ノワール様のようにライラではなかったとしたら?)
リュミリアは自問自答する。見も知らぬ隠すように育てられている令嬢たち。……答えは問う前に決まっていた。
(ノワール様のように冷遇されている令嬢がいるとすれば、助けないと……)
それはかつてリュミリアの前々世が光を尊び闇を忌むように、光神教を改めた影響もあるのだから。
ノワールを少しでも助けて、同じような存在の少女たちを見つけて、助ける。それが贖罪になるかは分からない。けれどノワールのように不当に冷遇される人々の存在を知った今、放っておくことなど出来なかった。
闇属性や黒髪をもつ冷遇されている少女たちを救う。それは困難な道だと分かっていたが、リュミリアは諦めるつもりはなかった。




