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3度目のリュミリアは、悪女をやめて婚約解消のため奔走中  作者: 永月るか


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14/18

14.もっと強い

 リュミリアは触れた場所から苦痛が少ないように薄く魔力を流し、魔力の流れを探る。それが何かは、すぐに分かった。

 

(毒……!)


「誰か! 医師を呼んでくださいませ! それから、お茶と菓子には手をつけないで、そのまま保存してくださいませ!」


 侍女たちが慌ただしく動き出す。リュミリアはノワールの身体を支えながら、彼の胸元に手を当てて、光魔法を展開する。苦痛が少ないようにと、思いやる余裕はもうなかった。淡い光が指先から溢れ、ノワールの身体を包む。ノワールの中にある毒の位置を探り、包むように、逃さないように彼の中に小さな光結界を作る。幸い、毒はまだ全身に回りきってはいなかった。けれど飲んで直ぐに、この症状だ。少しでも対処が遅れれば危険だっただろう。


 ジリジリとした気持ちになりながら、リュミリアは毒に光魔法を使って消していく。ノワールの呼吸がゆっくりと静かに深くなった。


「ノワール様……」

「……リュミリア、様……?」


 かすかな……けれど確かなノワールの声に、少しだけリュミリアは安堵した。


「ノワール様! 意識が戻られましたのね!」


 リュミリアはもう一度薄く光魔力を流して、ノワールの身体を確認する。毒は完全に治癒できていた。そのことに安堵しながら、その胸元のブローチに目がいく。


 黒い宝石は、いつもと変わらず静かに輝いている。守護魔法は、発動していなかった。


 あのブローチは、危険からノワールを守るために作ったものだ。けれど、それは外傷に対して一度だけ……設定が甘く毒は防げなかった。


 リュミリアが彼のためにと贈ったものは、彼を守ることができなかったのだ。


「リュミリア様……?」


 ノワールがリュミリアを見上げる。その弱々しい声に、彼女は泣きそうな顔になった。


「……申し訳ありません」

「え……?」

「わたくしが、お茶会などにお誘いしたから……」


 言葉が、喉につかえる。


 ノワールが孤立しないように。少しでも多くの人と交流できるように。……社交界で力を持つように。そう願ってリュミリアは彼をお茶会に誘い、友人たちに紹介してきた。


 けれど、それが彼を危険にさらしたのだとしたら?


(フォルテリア(私の)家が、彼に毒を盛ることはない。レイラのノクトス公爵家にも理由がない。なら、彼に毒を盛ったのは……彼自身の(ソレイユ侯爵)家……彼に、力を持って欲しくない者が、ソレイユ侯爵家内にいるの?)


 今世で優しい家族に囲まれていたリュミリアは、その事実だけで胸が痛くなる。その上、リュミリアの好意が、彼を追い詰めたのだ。その罪悪感は果てしなかった。


「……私が、余計なことを」

「リュミリア様」


 ノワールの声がリュミリアを遮った。けれど、彼女は彼の顔を見ることができなかった。


 彼を守りたいと思っていた。

 彼が傷つかないように、彼が笑っていられるようにと願っていた。


 それなのに、リュミリアは逆に彼を傷つけたのだ。


 彼の胸元のブローチが、ひどく無力なものに見えた。


やがて駆けつけた医師によって、ノワールはノクトス公爵家の客間へと運ばれた。毒は完全に治癒されているものの、念のため安静にする必要があるという。


 公爵家の使用人たちが慌ただしく動くなか、レイラがリュミリアの傍らに立った。


「リュミリア……」


 その声に顔を上げる。


「ノワール様は、助かったのですよね?」

「ええ。毒はすべて取り除きましたわ。命に別状はないはずですし、後遺症も残らないでしょう」

「よかった……」


 レイラは胸に手を当て、深く息を吐いた。それから、リュミリアを真摯に見つめる。


「けれど、ノワール様をソレイユ侯爵家に帰すのは危険かもしれません。……あの方を狙った者が、ソレイユ侯爵家にいる可能性があります」


 レイラも同じ結論に辿り着いたのだろう。その言葉にリュミリアは頷く。


「……そうですわね」

「ノクトス公爵家で、しばらくノワール様をお預かりしようと思います。リュミリアは後遺症はないと言いましたけれど、ひとまず治療の名目で」


 その提案にリュミリアは目を見開いた。


 ノワールを、レイラの家で保護する。


 確かに、それが安全かもしれない。ノクトス公爵家は大きな権力を持つ家であり、警備も厳重だ。何より、今回の毒が侯爵家の人間によるものならば、彼を一時的に家から遠ざけることには意味がある。


「……お願いできますか?」

「もちろんです。私から父に話してみます」


 レイラは迷いなく頷いた。

 その優しさに、リュミリアは小さく頭を下げる。


「ありがとうございます、レイラ」


 けれど、胸の奥に沈んだ後悔は、消えることがなかった。


(……私も、ノワール様を守らなければ)


 今度こそ、彼を傷つけさせないために。


 脳裏に先ほどの光景が蘇る。倒れたノワールの青ざめた唇。リュミリアの手の中で、弱々しく乱れていた呼吸。……そして、彼を守れなかったブローチ。


(……もっと、強い守護魔法を)


 毒も、呪いも、魔法も。あらゆる危険から、彼を守れるものを作らなければ。


 そのためには、たくさんの時間が必要だろう。

 研究を重ね、素材を集め、魔法を練り直し、何度も試行錯誤を重ねなければならないだろう。


 ……ノワールと過ごす時間が減ってしまう。


 それでも、リュミリアは決めた。次こそは、必ず守る。


 たとえ、そのために彼と過ごす時間を手放すことになったとしても。

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