それが正気であったなら
ルミエラは俺の手を引いて、しっかりとした足取りで半壊した床と建物の中をペタペタと歩く。靴なんて履いていなくて、硝子も見えにくい。強引にエスコートするルミエラはこちらを一切振り向く気配は無い。
「…ルミエラ…その、さっきは…」
ルミエラの表情は怒っているのだろうか。泣いているのだろうか。それとも、思いの外無表情なのだろうか。見えない表情を考えて、ルミエラの意図を探ってしまって言葉が出なかった。
「…連れ出してくれて…助かった、ありがとう」
拙く言ってしまった。これ以外に言葉が浮かばなかった。きっと幻滅しているに違いない。
「…セレジア、あのねー」
ルミエラは会話を止めてしまった。半壊した部屋の半開きのドアの先を視界に収めたらしい。俺はルミエラの横に行って、ルミエラが固まっている理由を知った。
部屋の中は多少の瓦礫で荒れているが、それでも原型を保っている様子で、窓のステンドグラスが様々光を反射して美しい絵を成していた。その部屋のど真ん中に1人、長身の人間がいる。うずくまって立ちそうにない。
「アゼル…先生…?」
ルミエラはボソッと声に出した。どうやら先生には聞こえていないようだ。先生は震えているように見えた。勇敢と言うべきか、驚きを生成させると言うべきか。俺は図々しくルミエラを後ろにまわして、前に出た。次の瞬間アゼル先生は叫んでいた。
「っ……!!!できなかったさ!!“あいつ”を救うことが!!だから俺自身もここに居るんだ!存在している…」
過呼吸に近いものを起こしているのかゼーハーと息をしている。どうやら泣いているそうだ。滴る液体が綺麗なステンドグラスの光に反射して確認が出来た。
「大体、俺自身が存在していることおかしい…!!大前提そうじゃないか!無理だった訳だ…ふふっ…あはは…最初から気づいていたなら…哀れだなぁ…!何度も…繰り返すのか…?」
ずっと独り言を叫んで言っている。ルミエラが怯えているではないか。
アゼル先生は振り向いた。見入ってしまったのだ。
「おまっ…なんで…ここに?」
見つかった。次の瞬間俺らは走り出していた。きっとアゼル先生は狂ってしまったのだ!正気だとしたらおかしい。なぜ避難先に居ないのか。どうしてここにいるのか。ー急に床が揺れた。多分爆発が起こったのだ。先の窓の風景の惨状から容易に想像できた。建物が崩れてきた。後ろで鈍い音を立てた。
「ルミエラ!!!」
何たる事態だ。巻き込まれてしまうとは。




