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第58話 年末、消えた大掃除の雑巾事件

冬休みを目前に控え、校内では恒例の大掃除が行われていた。


「今年も大掃除の季節だね」


 和奏が言うと、彩羽が雑巾を片手にうなずいた。


「窓拭き、去年より上手くなった気がする」


 信吾は張り切って掃除道具を配っていた。


「今年は俺が班長として、みんなを引っ張る」


「班長って、誰が決めたの」


「立候補した」


 大地はほうきを持ちながら少し不安そうに言った。


「僕、掃除、あんまり得意じゃないんだよね」


「大地は力仕事、頑張ってね」


 美空は雑巾を眺めながらいつもの調子で言った。


「掃除も突き詰めれば七不思議の解明につながる気がする」


「今回はあんまり関係ないと思うよ」


 優助は生徒会の仕事で各クラスの掃除分担を確認して回っていた。


「あの、うちのクラスは廊下と特別教室を担当します」


   ◇ ◇ ◇


 掃除が始まってしばらく経ったころ、和奏のクラスに掃除委員が困った様子で駆け込んできた。


「雑巾が何枚かなくなってるの」


「雑巾?」


 和奏が聞き返すと掃除委員はうなずいた。


「用具入れに保管していたはずの雑巾、五枚くらい見当たらなくて」


 美空がホワイトボードの前で丸を三つ描いた。


「霊」「掃除を邪魔する何か」「購買部」。


「今回は雑巾だからあんまりロマンがないね」


「地味な事件もしっかり調べるのが特事研だよ」


 彩羽が用具入れを確認した。


「本当だ五枚くらい足りないな」


   ◇ ◇ ◇


 六人は校内を手分けして雑巾の行方を探すことにした。


 優助が特別教室の近くで床が特に丁寧に磨かれていることに気づいた。


「あの、ここだけやけに綺麗です」


 和奏が近づいて確認すると確かにその一角だけ他の場所より磨き込まれていた。


 しばらく調べていると理科室の奥から雑巾を手にした一年生の男子生徒が出てきた。


「あっ」


 男子生徒は六人に気づき慌てて雑巾を隠そうとした。


   ◇ ◇ ◇


 男子生徒は理科部の部員で名前は木村と名乗った。


「なんで雑巾、持ち出したの」


 和奏が聞くと木村は少し恥ずかしそうに答えた。


「実験で使う器具、汚れが目立ってきていて。大掃除のついでに、しっかり磨いておきたくて」


「それで、たくさん借りたんだね」


「はい。普通の雑巾だと汚れが落ちにくくて、何枚も使ってしまいました」


 彩羽が優しく言った。


「器具、大事にしてるんだな」


「はい。理科部の先輩から受け継いだ器具なので」


   ◇ ◇ ◇


 木村は丁寧に磨かれた顕微鏡や試験管立てを六人に見せてくれた。


「これ、すごく綺麗だね」


 和奏が言うと木村は少し照れくさそうに笑った。


「先輩たちが大事に使ってきたものなので、次の代にも、ちゃんと引き継ぎたくて」


 優助が静かに言った。


「あの、雑巾、必要な分、掃除委員に相談すれば多めに用意してもらえたかもしれません」


「そうだったんですね。知らなくて」


「今度からは遠慮なく相談してください」


   ◇ ◇ ◇


 木村は使った雑巾を丁寧に洗い掃除委員に返しに行くことになった。


 部室に戻り美空がホワイトボードに大きく書いた。


『年末、消えた大掃除の雑巾事件――解決』


 その下に少し小さく付け加える。


『犯人・理科部の木村くん。動機・器具への愛着』


「動機、今回も優しいものだね」


 和奏が言うと美空はうなずいた。


「掃除を邪魔する何か説、今回も使わなかったよ」


「毎回候補には入れるのにね」


 彩羽が少し笑った。


「器具を大事にする気持ち、いいものだな」


「彩羽、今回しみじみしてるね」


「べ、別に普通の感想だ」


 信吾は前髪を払い決め顔を作った。


「班長として今年も無事に大掃除を締めくくれたな」


「その締めくくり、今回あんまり関係なかった気がするけど」


 大地はほうきを片付けながら言った。


「冬休み、もうすぐだね」


「うん楽しみだね」


 優助が静かに言った。


「あの、掃除ひとつにも色々な想いが込められてるんだなと思いました」


「優助、今回もいいこと言うね」


「いつも通りです」


 窓の外、年の瀬を感じさせる冷たい風が綺麗になった校舎の窓を撫でていった。


 今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。


 そして今回は道具を大切にする気持ちが事件の正体だった。

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