第55話 副会長就任、消えた予算案事件
優助が副会長に就任してから最初の一週間が過ぎたころだった。
「優助、最近忙しそうだね」
和奏が言うと、優助は少し疲れた様子で、それでも笑顔でうなずいた。
「はい。覚えることが多くて」
彩羽が心配そうに言った。
「無理しすぎるなよ」
「大丈夫です。やりがいがあるので」
美空はホワイトボードに、いつもより控えめな字で七不思議候補のメモを書いていた。
「優助が忙しいなら今週は静かな週にしようかな」
「美空、気を遣ってるんだね」
信吾は前髪を払いながら言った。
「副会長ともなれば色々な決断を迫られるものだろう」
「そんなに大げさな話まだしてないと思うけど」
大地はいつも通りお菓子を用意しながら優助を気にかけていた。
「疲れたら、いつでもこれ食べてね」
「ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
そんなある日、優助が部室に困った顔で駆け込んできた。
「あの、来月の予算案が見当たらないんです」
「予算案?」
和奏が聞き返すと、優助はうなずいた。
「新しい図書コーナーの設置と部活動支援のための予算案です。会議で提出する予定だったのに」
美空がホワイトボードの前で丸を三つ描いた。
「霊」「予算を狙う何か」「購買部」。
「今回は優助が困ってるからしっかり探そう」
「その真剣さ、頼もしいよ」
彩羽が腕を組んだ。
「予算案が消えるって、また、うっかり系な気がするな」
「彩羽、今回もその見立て鋭いね」
◇ ◇ ◇
六人は生徒会室に向かい、優助と一緒に机の周りを確認していった。
和奏が机の引き出しの奥を確認すると、そこに探していた予算案の書類が挟まっていた。
「あった」
「本当に?」
優助が駆け寄り確認すると、確かに彼が作成した資料だった。
「なんで、こんなところに」
優助はしばらく考えたあと思い出したように言った。
「あの、昨日急いで机を片付けたときに、他の資料と一緒にしまってしまったのかもしれません」
「単純な整理ミスだったんだね」
彩羽が少し笑いながら言った。
「優助でも、そういうことあるんだな」
「はい、最近色々なことを一度に処理しようとして」
「無理は禁物だよ」
美空が言った。
◇ ◇ ◇
優助は予算案を手に少し落ち着いた様子を見せた。
「あの、これで会議に間に合いそうです」
「良かったね」
和奏が言うと、優助は深く息を吐いた。
「はい、本当に」
信吾がいつになく優しい口調で言った。
「優助、少し頑張りすぎじゃないか」
「そう、でしょうか」
「就任してすぐだから気合が入るのは分かるが。無理しすぎると続かなくなるぞ」
「信吾さんの言う通りかもしれません」
優助は少し考えたあとうなずいた。
「あの、みんなに頼ることも大事にしようと思います」
「うん、それがいいと思うよ」
◇ ◇ ◇
大地が優助にお菓子の袋を差し出した。
「これ、糖分補給しなよ」
「ありがとうございます」
優助が素直に受け取ると、大地は嬉しそうに笑った。
「たまには僕にも頼ってね」
「はい、そうします」
◇ ◇ ◇
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『副会長就任、消えた予算案事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・優助自身の整理ミス。動機・忙しさ』
「動機、今回また優助自身なんだね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「予算を狙う何か説、今回も使わなかったよ」
「毎回候補には入れるのにね」
彩羽が優しく言った。
「優助、これから色々大変だと思うけど無理しないでな」
「はい、ありがとうございます」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「困ったときは、いつでも俺たちを頼れ」
「はい、心強いです」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「優助くん、これからも応援するよ」
「ありがとうございます」
優助が静かに言った。
「あの、副会長として、まだまだ慣れないことも多いですが、みんなの支えがあると頑張れます」
「優助、今回もいいこと言うね」
「いつも通りです」
窓の外、冬に向かう校内には少しずつ落ち着いた日常が戻り始めていた。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、新しい役目に向き合う優助の頑張りと、その裏にある小さな無理が事件の正体だった。




