第54話 選挙結果発表、消えた掲示物事件
演説会の翌日、放課後になると、校内には選挙結果発表を待つそわそわした空気が漂っていた。
「優助、今日、発表だね」
和奏が言うと、優助は少し落ち着かない様子でうなずいた。
「はい。正直、朝からあまり集中できていません」
彩羽が励ますように言った。
「大丈夫。演説、すごく良かったから」
「ありがとうございます」
美空は今日ばかりは七不思議の話を封印している様子だった。
「今日は静かに結果を待とうと思う」
「美空、今回は律儀に空気を読んでるね」
信吾は前髪を払いながら、いつになく真剣な顔をしていた。
「俺も副会長優助の盟友として結果を見届けよう」
「まだ当選してないよ」
大地は結果発表の場所を確認していた。
「掲示板に貼り出されるんだよね」
「うん、放課後すぐに」
◇ ◇ ◇
放課後になり、六人は掲示板の前に集まった。
しかし選挙管理委員が結果を貼り出そうとした瞬間、困った様子で周囲を見回した。
「あの、結果発表の紙が見当たりません」
「発表の紙?」
和奏が聞き返すと、選挙管理委員は青ざめた顔で言った。
「開票結果をまとめた正式な発表用紙です。職員室の机の上に置いておいたはずなのに」
優助の顔も少し青ざめた。
「あの、それは大変です」
美空が少し複雑な表情を見せた。
「今回ばかりは七不思議の仮説、出す気分になれないな」
「その気持ち、分かるよ」
彩羽が周囲を見回した。
「職員室、確認しに行こう」
◇ ◇ ◇
六人は選挙管理委員と一緒に職員室に向かった。
担当の先生に話を聞くと、意外な事情が判明した。
「ああ、それなら大丈夫よ。会議で内容の最終確認が必要になって、私が預かっているの」
「確認、ですか」
「ええ。開票の際に僅差だった項目があって、念のため、もう一度票を数え直していたの」
「僅差、というのは」
先生は少し言葉を選びながら答えた。
「詳しくは、まだ言えないけれど、副会長の枠、かなり接戦だったのよ」
優助の表情が、さらに緊張したものになった。
「そう、なんですね」
「もう少しだけ待っていてくれる? 念のための確認だから」
「はい、分かりました」
◇ ◇ ◇
六人は部室に戻り、結果を待つことにした。
いつもは賑やかな部室も、今日ばかりは少し静かな空気が流れていた。
「優助、緊張してる?」
和奏が聞くと、優助は正直にうなずいた。
「はい、かなり」
彩羽が優しく言った。
「結果がどうであれ、優助が頑張ったことは変わらないからな」
「そうですね」
信吾はいつになく静かな声で言った。
「俺たちは優助の味方だ。それだけは確かだ」
「ありがとうございます」
大地はせんべいの袋を開けようとして少し躊躇った。
「今日は食べない方がいいかな」
「大地、いつも通りでいいよ」
美空が少し笑いながら言った。
「緊張してるときこそ、いつも通りが大事だと思う」
◇ ◇ ◇
しばらくして、選挙管理委員が正式な結果を持って部室に駆け込んできた。
「発表、できます!」
六人は掲示板に向かった。
貼り出された結果には、副会長の欄に優助の名前がしっかりと記されていた。
「優助、当選してる!」
和奏が声を上げると、優助はしばらく言葉が出ない様子で掲示板を見つめていた。
「本当に……」
「おめでとう、優助!」
彩羽が優助の肩を軽く叩いた。
信吾もいつになく素直に喜びを見せた。
「よくやった、優助」
「ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
優助はしばらく掲示板を見つめたあと、静かに言った。
「あの、僅差だったと先生が言ってました。応援してくれたみんなのおかげだと思います」
「優助自身が頑張ったからだよ」
和奏が言うと、優助は少し照れくさそうに微笑んだ。
「これから副会長として、しっかり務めます」
◇ ◇ ◇
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『選挙結果発表、消えた掲示物事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・確認作業。動機・僅差の慎重な判断』
「動機、今回は少し真面目だね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「今日は七不思議の仮説、出さなかったね」
「今回だけは、そういう気分になれなかったから」
「その判断、正しかったと思うよ」
彩羽が少し笑いながら言った。
「優助、当選、本当に良かったな」
「彩羽、今回、しみじみしてるね」
「べ、別に、普通の感想だ」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「これで生徒会にも正式に俺たちの盟友がいるわけだな」
「盟友って、優助、もともと生徒会にいたけどね」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「優助くん、これから、もっと忙しくなるのかな」
「たぶん、少しは」
優助が答えると、大地はそれでも明るく言った。
「その分、僕がお菓子で応援するよ」
「ありがとうございます」
優助が静かに言った。
「あの、これからもみんなと特事研の活動、両立させていきたいです」
「優助、今回もいいこと言うね」
「いつも通りです」
窓の外、選挙運動を終えた校内には少しずつ日常が戻り始めていた。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、僅差の結果を丁寧に確かめようとする誠実さが事件の正体だった。




