第52話 生徒会役員改選、消えたポスター事件
文化祭の余韻も落ち着いたころ、校内には生徒会役員改選の告知が貼り出された。
「優助、今回はどうするの」
和奏が聞くと、優助は少し考える様子を見せた。
「あの、実は、副会長に、挑戦してみようかと思っています」
「副会長?」
「はい。書記として一年やってきて、もう少し、責任のある立場から、みんなの意見を、まとめられたらいいなと」
彩羽が、少し驚いた顔をした。
「優助、そんなこと考えてたのか」
「はい。少しずつ、ですけど」
美空が、目を輝かせながら言った。
「優助が、また新しい挑戦をするんだね。応援するよ」
信吾は前髪を払いながら、いつもの調子で言った。
「副会長ともなれば、俺の探偵術も、生徒会の運営に、活かせるかもしれないな」
「それ、優助が当選してから、考えることだよね」
大地は、少し不安そうな顔をしていた。
「優助くん、忙しくなるのかな」
「たぶん、少しは」
優助が答えると、大地は、それでも、明るく言った。
「応援してるよ。お菓子、差し入れするから」
◇ ◇ ◇
立候補の受付が終わり、選挙運動の期間に入って数日、和奏のクラスに、優助のポスターを貼る係の生徒が、慌てた様子で駆け込んできた。
「優助くんのポスターが、消えたんです!」
「消えた?」
和奏が聞き返すと、係の生徒はうなずいた。
「廊下に貼ったはずのポスターが、朝、確認したら、なくなっていて」
美空がホワイトボードの前で、丸を三つ描いた。
「霊」「選挙妨害」「購買部」。
「今回は、優助が関わってるから、ちゃんと調べないとね」
「その真剣さ、今回、いいと思うよ」
彩羽が腕を組んだ。
「またポスターが消える系か。去年も、似たようなことあったよな」
「彩羽、覚えてるんだ」
「印象に残ってるからな」
信吾は前髪を払った。
「これは、対立候補による、卑劣な妨害かもしれない」
「今回、あんまり、その線、なさそうだけど」
「珍しく、俺も、あんまり自信ない」
◇ ◇ ◇
六人は、優助のポスターが貼られていた場所を確認した。
掲示板には、確かに、優助のポスターだけが、見当たらなかった。
優助自身は、少し複雑な表情をしていた。
「あの、実は、心当たりが、少しあります」
「心当たり?」
「僕のポスター、写真写りが、あまり良くなくて。撮り直したいと、思っていました」
「それで?」
「昨日の放課後、写真部の子に、撮り直しを、お願いしていたんです。もしかしたら、その関係かもしれません」
◇ ◇ ◇
六人は、写真部の部室に向かった。
部室には、優助のポスターが、丁寧に、机の上に置かれていた。
「あ、これ、僕が、預かってました」
写真部の部員が、少し慌てた様子で説明した。
「優助くんから、写真を、撮り直してほしいと頼まれて。せっかくなので、印刷し直した、新しいポスターも、用意しておこうと思って」
新しいポスターには、以前よりも、優助らしい、落ち着いた雰囲気の写真が、使われていた。
「これ、すごく、いい写真だね」
和奏が言うと、写真部の部員は、少し誇らしげに答えた。
「優助くんの、生徒会での、真面目な姿を、意識して撮りました」
「ありがとうございます」
優助が、丁寧に、頭を下げた。
◇ ◇ ◇
彩羽が、少し呆れたように、それでも優しく言った。
「優助、そういうことは、先に、みんなに、言っておいてくれよ」
「すみません。急に、心配を、かけてしまいました」
美空が、新しいポスターを、興味深そうに眺めた。
「これ、掲示板に貼り直したら、印象、すごく良くなりそうだね」
「はい。改めて、貼り直してもらえるよう、お願いしてきます」
◇ ◇ ◇
その日のうちに、新しいポスターが、正式に、掲示板へ貼り出された。
優助の落ち着いた表情の写真は、他の候補者のポスターの中でも、ひときわ、誠実な印象を、与えていた。
「これなら、優助の人柄、伝わりそうだね」
和奏が言うと、優助は、少し照れくさそうに、それでも、しっかりとうなずいた。
「はい。あとは、しっかり、演説で、伝えられるよう、頑張ります」
◇ ◇ ◇
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『生徒会役員改選、消えたポスター事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・優助自身。動機・より良い一枚を求めて』
「犯人、優助本人だったんだね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「選挙妨害説、今回も使わなかったよ」
「毎回、候補には入れるのにね」
彩羽は、少し笑った。
「優助らしい、真面目な事件だったな」
「彩羽、今回、しみじみしてるね」
「べ、別に、普通の感想だ」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「俺の勘、今回も、外れたな」
「珍しく、素直に、認めるんだ」
「対立候補による妨害、という発想は、選挙シーズンらしくて、悪くなかったと思う」
「その言い訳、今回も、いつも通りだね」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「優助くん、当選できるといいね」
「うん、応援しよう」
優助が、静かに言った。
「あの、みんなの応援、本当に、心強いです」
「優助、今回もいいこと言うね」
「いつも通りです」
窓の外、選挙運動の熱気を帯びた校内には、優助の新しいポスターが、静かに掲げられていた。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、より良い一歩を求める、誠実な気持ちが、事件の正体だった。




