第51話 文化祭片付け、消えた反省会メモ事件
文化祭が終わり、旧校舎には片付けの喧騒が広がっていた。
「今年も無事に終わったね」
和奏が言うと、彩羽が段ボールを運びながら答えた。
「去年より疲れた気がするけど、悪くない疲れだな」
優助は生徒会の後片付けを手伝いながら、少し眠そうな顔をしていた。
「今日は朝から動き通しでした」
「優助、少し休んだほうがいいよ」
「大丈夫です。反省会までには元気を取り戻します」
美空はブースで使った解説パネルを大事そうに抱えていた。
「これ、記念に部室に飾っておこうかな」
「七不思議の解説パネル、部室に似合いそうだね」
信吾は机や椅子をせっせと運びながら、いつもの決め顔を作った。
「片付けも探偵の仕事のうちだ」
「その理屈、今回はあんまり関係ないと思うけど」
大地は余った軽食を少し名残惜しそうに見つめていた。
「これ、みんなで食べちゃっていいのかな」
「先生に確認してからにしようね」
◇ ◇ ◇
片付けが一段落したころ、両部合同の反省会が開かれることになり、部室には十二人が集まっていた。
「今日の反省会のために、良かった点と改善点をまとめてきました」
愛理がノートを開こうとした瞬間、少し困った顔をした。
「あれ、メモがない」
「メモ?」
和奏が聞き返すと、愛理はノートのページをめくりながら答えた。
「昨日の夜、みんなの意見を聞きながらまとめたメモです。今朝までは確かにあったのに」
美空がホワイトボードの前で丸を三つ描いた。
「霊」「反省を嫌う何か」「購買部」。
「今回はさすがに時間があるから、しっかり考えられるね」
「その余裕、久しぶりだね」
彩羽が腕を組んだ。
「メモが消えるって、また、うっかり系な気がするな」
「彩羽、今回もその見立て鋭いね」
才川が芝居がかった仕草で顎に手を当てた。
「反省を嫌う何か、というのはなかなか面白い発想だね」
「才川さんまで、その調子なんだ」
茅野は猫を撫でながら静かに言った。
「別に僕はそういう発想あんまり信じてないけど」
鵜沢は少し離れた場所で心配そうに愛理の様子を見守っていた。
◇ ◇ ◇
六人とがくほの残りのメンバーで、愛理の鞄や机の周りを確認していった。
優助が机の下を丁寧に調べたが、そこには何もなかった。
「あの、鞄の中は確認しましたか」
「一応見たつもりだったんですけど」
愛理がもう一度、鞄の中を確認し始めた。
鵜沢が愛理の鞄の内ポケットを覗き込み、小さく声を上げた。
「あの、これ」
メモは鞄の内ポケットの奥、教科書の隙間に挟まっていた。
「あった」
愛理がほっとした様子で受け取った。
「なんでこんなところに」
瑠実が少し照れくさそうに言った。
「たぶんわたしだと思う。昨日、愛理の鞄借りて飴探してたの」
「瑠実、勝手に人の鞄漁らないで」
「ごめん。飴入れる場所、間違えたかも」
愛理は少し呆れたように笑った。
「まあ、見つかったからいいよ」
上坂が優雅に、それでも興味深そうに二人のやり取りを見ていた。
「瑠実さんと愛理さんは、いつも、こういう賑やかな感じですのね」
「上坂さんも、そのうち慣れると思うよ」
美空が言うと、上坂は少し笑った。
「もう、だいぶ慣れましたわ」
◇ ◇ ◇
部室に反省会の空気が戻り、両部で今回の企画について率直な意見が交わされていった。
「解説パネル、もう少し文字を大きくすればよかったかも」
美空が言うと、才川がうなずいた。
「あと進行のタイミング、もう少し余裕を持たせたほうがいいね」
優助が静かにメモを取りながら言った。
「あの、受付の混雑、午後の早い時間帯に集中してました。次回は時間帯ごとの案内を工夫したほうがいいと思います」
「優助、しっかり記録してたんだね」
「はい。生徒会の仕事柄、こういう記録は大事にしています」
彩羽が感心したように言った。
「愛理さんも優助も、こういうところ本当にしっかりしてるよな」
「私も見習わないと」
彩羽の言葉に愛理は少し照れたように微笑んだ。
上坂が控えめに手を挙げた。
「装飾の予算、来年はもう少し節約できると思いますわ」
「上坂さんの成長、本当にすごいね」
和奏が言うと、上坂は嬉しそうに微笑んだ。
「愛理さんの教育の賜物ですわ」
「わたしは、あまり教えたつもりはないんですけど」
「一緒に活動してきた時間が教育だったんだと思いますの」
◇ ◇ ◇
大地と瑠実は来年の食べ物ブースについて早くも盛り上がっていた。
「来年はたこ焼きもやりたいね」
瑠実が言うと、大地も目を輝かせた。
「いいね。マヨネーズたっぷりかけよう」
「大地、分かってるじゃん」
美空がその様子を見て少し呆れたように言った。
「反省会なのに、もう来年の話してるんだね」
「前向きってことで」
◇ ◇ ◇
信吾は少し離れた場所で一人、何かを考え込んでいた。
「どうしたの、信吾」
和奏が聞くと、信吾はいつもより静かな声で答えた。
「今年の文化祭、俺、あんまり活躍できなかった気がしてな」
「そんなことないと思うけど」
「時計のコーナー、任せてもらったのは良かったんだが。もっと探偵らしい見せ場が欲しかった」
彩羽が少し笑いながら言った。
「探偵らしい見せ場って、事件がないと作れないだろ」
「それは、そうなんだが」
「今日みたいな平和な日が続くのも、悪くないと思うぞ」
信吾はしばらく考えたあと、小さくうなずいた。
「まあ、そうだな。平和も大事だ」
◇ ◇ ◇
美空がホワイトボードに大きく書いた。
『文化祭片付け、消えた反省会メモ事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・瑠実の飴探し。動機・空腹』
「動機、また空腹なんだね」
和奏が言うと、瑠実は少し照れながら頭をかいた。
「いつものことで、ごめん」
彩羽が笑いながら言った。
「瑠実らしいオチだな」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「俺の勘は今回も外れたが、探偵として反省会に立ち会えたことに意味がある」
「その理屈、今回も強引だね」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「反省会も終わったし、来年はもっとすごい企画にしようね」
「大地、気が早いよ」
茅野が猫を撫でながらぽつりと言った。
「来年も、こうやって集まれたらいいけど」
「茅野くん、珍しくしみじみしてるね」
「別に、普通の感想」
◇ ◇ ◇
夕方、反省会が終わり、がくほのメンバーがそれぞれ帰り支度を始めた。
愛理が改めて六人に頭を下げた。
「今回も色々ありがとうございました。特事研さんがいてくれると本当に心強いです」
「こちらこそ、いつもありがとう」
和奏が答えると、才川が芝居がかった仕草で締めくくった。
「良い協力関係は良い物語を生むものだね」
「その台詞、今回も決まってるね」
◇ ◇ ◇
がくほの六人が帰ったあと、特事研の六人だけが部室に残った。
優助が静かに言った。
「あの、今回の文化祭、両部で本当にいい経験になりました」
「優助、今回もいいこと言うね」
「いつも通りです」
窓の外、片付けを終えた校庭には秋の夕暮れが静かに広がっていた。
美空が飾ったばかりの解説パネルをもう一度眺めながら言った。
「来年の文化祭も、きっと色々あるんだろうね」
「今から楽しみだね」
和奏が答えると、彩羽が静かに窓の外を見つめながら言った。
「こうやって一年一年、積み重ねていくの悪くないな」
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、みんなで作り上げた一年の記憶を、また一つ重ねられた日だった。




