第50話 文化祭本番、七不思議探偵団の一日
文化祭当日、旧校舎の一角には、両部合同の企画「七不思議探偵団」のブースが完成していた。
入り口には美空が描いた、少し不気味だが愛嬌のある看板が掲げられている。
「お客さん、来てくれるかな」
和奏がつぶやくと、優助が受付の準備をしながら答えた。
「パンフレットにはしっかり掲載してもらいました。きっと大丈夫です」
開場と同時に、廊下にはたくさんの生徒や来場者の姿が見え始めた。
◇ ◇ ◇
最初の来場者は近所の小学生の団体だった。
「お化け屋敷?」
「お化け屋敷じゃなくて謎解きだよ」
鵜沢が少し緊張しながらも、しっかりと説明した。
「校内の七不思議をみんなで調べていくんです」
「わ、たのしそう!」
小学生たちが目を輝かせながらブースの中へ入っていく。
その様子を見て、鵜沢はほっとした表情を見せた。
「あの、子ども相手だと少し話しやすいです」
「鵜沢さん、それも立派な進歩だよ」
優助が言うと、鵜沢は小さく微笑んだ。
◇ ◇ ◇
ブースの中では才川が演出係として、雰囲気たっぷりに進行役を務めていた。
「さあ、旧校舎に眠る七つの謎。その扉を開けてみようか」
その芝居がかった語り口に、来場者たちはすっかり引き込まれていた。
美空は各コーナーで七不思議についての解説パネルを、誇らしげに指し示していた。
「消える階段の謎。実はこういう科学的な理由があったんだよ」
「へえ、面白い」
科学的な説明に、意外にも大人の来場者からも感心の声が上がっていた。
◇ ◇ ◇
彩羽と愛理は力を合わせて、会場の整理と行列の誘導を担当していた。
「思ったより人、来てるな」
彩羽が言うと、愛理がキビキビと案内をしながら答えた。
「秩序を守りつつ、みんなに楽しんでもらえるよう頑張りましょう」
「愛理さんと組むと安心するな」
「わたしもです」
◇ ◇ ◇
大地と瑠実は休憩スペースで簡単な軽食を提供する係を担当していた。
「これ、余った予算で少しだけ用意したんだ」
大地が小さなお菓子の袋を来場者に配っていく。
「甘くないやつ、ちゃんと混ぜてくれた?」
瑠実が確認すると、大地はうなずいた。
「うん、マヨネーズ味のスナック菓子もちゃんとあるよ」
「ありがとう」
◇ ◇ ◇
信吾は七不思議の一つ「逆回りの時計」のコーナーで解説役を任されていた。
「この時計、時間を遡る力があると噂されていたが、実際には……」
「実際には?」
来場者の一人が興味深そうに聞くと、信吾はいつもの決め顔で答えた。
「老朽化した歯車の仕業だった」
「なんだ、普通なんだ」
「だが、その裏には、この時計を大切にしていた人の想いがあった」
信吾の意外なほど真剣な語り口に、来場者たちは静かに聞き入っていた。
◇ ◇ ◇
上坂は装飾担当として、ブース全体の飾り付けを丁寧に手作りで仕上げていた。
「お金を使わずにみんなで作り上げるの、初めての経験でしたが楽しかったですわ」
「上坂さんの飾り付け、すごく素敵だよ」
和奏が言うと、上坂は優雅に微笑んだ。
「みなさんと一緒に作れたからこそ、ですわ」
◇ ◇ ◇
昼過ぎ、ブースが一時的に落ち着いた時間帯に、十二人は少しの休憩を取ることにした。
「みんな頑張ってるね」
和奏が言うと、美空が満足そうにうなずいた。
「予想以上に盛況だね。七不思議の真の姿、みんなに伝わってる気がする」
「その言い方、なんだか誇らしげだね」
彩羽が少し笑いながら言った。
「両部で一緒に何か作るの、やっぱりいいものだな」
「彩羽、今回すっかり満足そうだね」
「べ、別に普通にそう思っただけだ」
◇ ◇ ◇
午後、再びブースが賑わい始めたころ、思わぬ来場者が姿を見せた。
「あら、久しぶりですね」
優雅な声に振り返ると、そこには私服姿の奥津素子の姿があった。
「奥津さん!」
愛理が驚いた様子で駆け寄った。
「卒業生も招待されてるって聞いて、来てみましたの」
奥津はブース全体を興味深そうに見回した。
「素敵な企画ですね。わたしがいたころより、ずっと賑やかだわ」
「みんなで頑張って作りました」
愛理が言うと、奥津は優しく微笑んだ。
「愛理、いいリーダーになっているようね」
「まだまだ修行中です」
才川も奥津に気づき、少し照れくさそうに挨拶した。
「奥津さん、僕も来年は卒業ですね」
「才川くんも立派に成長しているようで、安心したわ」
◇ ◇ ◇
夕方、閉場の時間が近づくころ、七不思議探偵団のブースは予定していたよりも、ずっと多くの来場者を迎えることができていた。
部室代わりのブースの片隅で、美空が大きな紙に、こう書いた。
『文化祭本番、七不思議探偵団の一日――大成功』
その下に、少し小さく付け加える。
『理由・十二人の力と、たくさんの優しい協力』
「今回は事件じゃなくて、成功の記録だね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「今日はみんなで作り上げた一つの成果だからね」
「その表現、いいと思うよ」
優助が静かにブースを見渡しながら言った。
「あの、去年の文化祭のときより、僕たち少し成長できたなと思います」
「優助、今回もいいこと言うね」
「いつも通りです」
その返し方に、周りのみんなが少し笑った。
窓の外――いや、旧校舎の廊下の向こう、夕暮れの空には、文化祭の終わりを告げる優しい茜色が広がっていた。
今日という日も、事件は笑いながらやってきた。
そして今回は、十二人で作り上げた一つの物語が、この日の主役だった。




