第49話 文化祭準備、消えた合同企画書事件
時計事件から数日後、校内には二年目の文化祭に向けた準備の気配が漂い始めていた。
「今年は去年より規模、大きくするらしいよ」
和奏が言うと、優助が静かにうなずいた。
「はい。生徒会でも去年の反省を踏まえて色々企画してます」
放課後、部室に愛理が書類の束を抱えて訪ねてきた。
「実は今年の文化祭で、特事研さんとがくほで合同の企画をやってみないかと思いまして」
「合同企画?」
和奏が聞き返すと、愛理は少し照れくさそうに言った。
「昨年の迷子捜索と打ち上げの経験から、両部で何かできることがあるんじゃないかと」
美空が目を輝かせた。
「七不思議、体験ブースだね」
「今回、それ実現できそうなんだ」
「せっかくだから、やってみようよ」
彩羽も少し楽しみな様子で言った。
「文化祭でみんなで何か作るの、いいな」
◇ ◇ ◇
その日のうちに、六人とがくほの六人で企画会議が開かれることになった。
「七不思議をテーマにした謎解き企画がいいと思うの」
美空が提案すると、才川が興味深そうにうなずいた。
「面白そうだね。演出は僕に任せてもらえるかな」
「才川さんの演技力、活かせそうだね」
瑠実が少し心配そうに言った。
「わたし当日、食べ物のブースも見て回りたいんだけど、いいかな」
「瑠実は休憩時間、しっかり作るから」
愛理がリーダーとして、テキパキと役割を割り振っていく。
「上坂さんは装飾を担当してもらえますか」
「わたくし装飾、得意ですわ。お金の力は使わずに頑張ります」
「その意気込み、いいと思います」
鵜沢は少し緊張しながらも、しっかりと言った。
「わ、わたしは受付を担当します」
「鵜沢さん、頑張ってね」
◇ ◇ ◇
企画会議は順調に進み、詳細な企画書がまとめられていった。
しかし翌日、部室に愛理が慌てた様子で駆け込んできた。
「企画書が消えてしまいました!」
「企画書?」
和奏が聞き返すと、愛理はうなずいた。
「昨日まとめた企画書の原本です。がくほの部室に置いていたはずなのに」
美空がホワイトボードの前で丸を三つ描いた。
「霊」「文化祭の企画を狙う何か」「購買部」。
「今回は時間があんまりないから、急いで探そう」
「その判断力、今回は頼もしいね」
彩羽が腕を組んだ。
「企画書が消えるって、また、うっかりミスな気がするな」
「彩羽、今回もその見立て鋭いね」
◇ ◇ ◇
六人とがくほの残りのメンバーで、部室の周辺を確認することにした。
優助が、がくほの部室の机の周りを静かに調べていた。
「あの、これ」
机の下に、企画書がコピー用紙の束に紛れ込んでいるのを見つけた。
「あった!」
愛理がほっとした様子で駆け寄った。
「なんで、こんなところに」
茅野が少し気まずそうに手を挙げた。
「たぶん僕だと思う」
「茅野くん?」
「昨日の夜、印刷物を整理してて。企画書、他の書類と一緒に重ねちゃったかもしれない」
愛理が少し呆れたように、それでも優しく言った。
「気づいたら教えてくれれば良かったのに」
「気づいてなかった」
「その調子、直していこうな」
◇ ◇ ◇
美空が少し残念そうな顔をした。
「今回も単純な、うっかりミスだったんだね」
「毎回そういう事件、多いよね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「でも平和な証拠だと思うよ」
「その前向きさ、いいと思う」
◇ ◇ ◇
企画書が無事に見つかり、両部は改めて文化祭に向けた準備を進めることになった。
美空と才川が中心となり、謎解き企画の内容を詰めていく。
「七不思議、それぞれの謎に簡単なクイズをつけようと思うの」
「僕が雰囲気作りの進行役をやろう」
優助と鵜沢は、受付の準備を一緒に進めることになった。
「あの、鵜沢さん。受付の台本、一緒に確認しませんか」
「は、はい」
鵜沢は優助と目を合わせることは、まだできなかったが、それでも少しずつ、緊張せずに言葉を返せるようになっていた。
◇ ◇ ◇
彩羽と愛理は力仕事を一緒に担当することになった。
「机、運ぶの手伝おうか」
「ありがとうございます。助かります」
「愛理さんとは、なんだか気が合うな」
「わたしも、そう思います」
大地と瑠実は、当日の食べ物ブースの下見に出かけていた。
「文化祭、食べ物たくさん楽しみだね」
「うん、リサーチ頑張ろう」
◇ ◇ ◇
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『文化祭準備、消えた合同企画書事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・茅野くんの、うっかり整理。動機・特になし』
「動機、また特になし、なんだね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「今回も誰かの意図じゃなくて、ただのうっかりだったからね」
「最近、そういう事件多い気がするけど」
「平和な証拠だと思うよ」
彩羽が少し笑いながら言った。
「両部で文化祭、盛り上げられそうだな」
「彩羽、今回は楽しみにしてるね」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「俺も今年の文化祭、色々活躍する予定だ」
「その予定、当日崩れないといいけどね」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「文化祭、お腹すいたらみんなで食べようね」
「うん、そうだね」
優助が静かに言った。
「あの、両部で一緒に企画を作るの、去年とはまた違う、いい経験だなと思います」
「優助、今回もいいこと言うね」
「いつも通りです」
窓の外、秋の深まりを感じさせる澄んだ空気の中、両部の文化祭に向けた準備は少しずつ賑やかに進んでいった。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、両部の協力体制が、この物語の主役だった。




