第48話 七不思議、逆に回る時計事件
案山子事件から、少し落ち着いた、秋の終わりのことだった。
部室に、美空が、勢いよく、依頼の紙を掲げて入ってきた。
「七不思議、三つ目の依頼が来たよ」
「今回は、何?」
和奏が聞くと、美空は、目を輝かせながら、ホワイトボードに、大きく書いた。
「旧校舎の、逆回りの時計」
「聞いたことある気がする」
彩羽が、少し考えながら言った。
「三階の廊下にある、古い時計だよな。針が、逆に、動くことがあるって噂」
「彩羽、詳しいね」
「小耳に、挟んだことがある程度だ」
信吾は前髪を払った。
「時計が逆に回るとは、時間を、遡る力が、働いているのかもしれない」
「今回、スケールが、大きすぎない?」
「七不思議には、それくらいの、想像力が、必要だ」
「その心意気、分かるけど」
大地はソファでせんべいをかじりながら聞いていた。
「時計、逆に回ったら、お腹すくの、遅くなるのかな」
「大地、今回も、独特な視点だね」
優助が控えめに言った。
「あの、その時計、いつごろから、噂になってるんですか」
「詳しくは、分からないけど、結構、昔からみたいだよ」
◇ ◇ ◇
六人は、旧校舎の三階、問題の時計を、確認しに向かった。
古い、木製の枠に収まった時計は、確かに、少し変わった、独特な佇まいをしていた。
「今は、普通に、進んでるね」
和奏が言うと、美空が、腕時計と、時計の針を、見比べた。
「合ってる。今のところ、正常だね」
「じゃあ、いつ、逆に回るんだろう」
彩羽が、時計をじっと見つめながら言った。
「噂だと、確か、特定の時間だけ、って話だったな」
「特定の時間?」
「昼休みの、終わりごろだったと思う」
◇ ◇ ◇
六人は、昼休みの終わり近く、再び、時計の前に集まることにした。
時間が近づくにつれ、廊下を通る生徒たちの数も、少しずつ、増えていく。
美空が、時計を、じっと見つめる。
「そろそろ、時間だね」
しばらくすると、時計の長針が、確かに、一瞬、逆方向に、動いたように見えた。
「動いた!」
彩羽が、思わず、声を上げた。
「本当に、逆に回ったのか?」
優助が、冷静に、時計の内部の様子を、確認しようとした。
「あの、これ、機械的な、不具合の可能性が、あります」
「機械の、不具合?」
「はい。古い時計は、部品が、劣化していると、針が、一瞬、戻ることが、あります」
美空が、少し残念そうな顔をした。
「今回も、科学的な、説明が、つくのかな」
◇ ◇ ◇
六人は、時計の管理をしている用務員さんに、話を聞くことにした。
「ああ、あの時計ね。実は、もう、何十年も、前のもので。時々、内部の歯車が、うまく噛み合わなくて、針が、少し、戻ることがあるんだよ」
「それ、いつ頃から、あるんですか」
「私が、この学校に来た頃には、もう、あったからね。誰も、修理の予算を、つけてくれなくて、そのままに、なってるんだよ」
美空が、少し考えながら言った。
「じゃあ、七不思議の、逆回りの時計は、単純な、機械的な、老朽化だったんだね」
「そうみたいだね」
◇ ◇ ◇
用務員さんは、少し懐かしそうに、時計を見上げた。
「実は、この時計、私が、若い頃、先輩の用務員さんから、聞いた話があってね」
「どんな話ですか」
和奏が聞くと、用務員さんは、静かに語り始めた。
「昔、この学校に、時計が好きな、用務員さんがいたそうだ。その人が、自分の手で、この時計を、直しながら、大事に、使い続けてたらしい」
「大事に、使ってたんですね」
「ああ。でも、その人が、退職したあとは、修理できる人が、いなくなってしまってね。少しずつ、調子が、悪くなっていったんだよ」
優助が、静かに言った。
「あの、修理、僕たちで、何か、できることは、ありませんか」
「難しいと思うけど、興味があるなら、専門の業者さんの、連絡先、調べてみようか」
「はい、お願いします」
◇ ◇ ◇
その後、優助は、生徒会の活動の一環として、時計の修理予算について、先生方に、相談することにした。
「古い時計ですが、学校の、歴史の一部でもあると思います。直せるなら、直したいです」
優助の提案は、職員会議で、検討されることになった。
◇ ◇ ◇
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『七不思議、逆に回る時計事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・老朽化した歯車。動機・長年の役目』
「動機、今回、少し、詩的だね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「時間を遡る力、じゃなかったのは、少し、残念だけど、これはこれで、いい話だったね」
「その気持ち、分かるよ」
彩羽が、少し微笑んだ。
「昔、大事にしてた人がいたんだな、あの時計」
「彩羽、今回、しみじみしてるね」
「べ、別に、普通の感想だ」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「俺の勘、今回は、外れたな」
「珍しく、連続で、素直に、認めるんだ」
「時間を遡る力、という発想は、なかなか、ロマンがあったと思う」
「その言い訳、毎回、無理やりだけど、嫌いじゃないよ」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「時計、直ると、いいね」
「うん、直るといいね」
優助が、静かに、時計を見上げながら言った。
「あの、古いものを、大事に、受け継いでいくこと、大切だなと、思いました」
「優助、今回も、いいこと言うね」
「はい、いつも通りです」
優助は、少しだけ、いたずらっぽく、微笑んだ。
窓の外、秋の終わりを告げる、澄んだ空気の中、旧校舎の古い時計は、今日も、静かに、時を刻み続けていた。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、長年、時を刻み続けてきた、時計への想いが、事件の正体だった。




