第47話 秋、消えた収穫祭の案山子事件
栽培園の一件から数日後、環境委員会主催の、小さな収穫祭が、開かれることになった。
「収穫祭、楽しみだね」
和奏が言うと、大地が、目を輝かせながら言った。
「野菜、たくさん、食べられるかな」
「大地、今回も、食べる気満々だね」
彩羽は、少し楽しみな様子で言った。
「あの野菜、私たちも、少し、収穫、手伝ったしな」
信吾は前髪を払いながら、いつもの調子で言った。
「収穫祭といえば、案山子だな。今年の案山子、どんなのか、楽しみだ」
「その発想、意外と、風流だね」
美空は、案山子について、何やら、興味深そうな顔をしていた。
「案山子には、昔から、色々な、言い伝えがあるんだよ」
「今回も、その方向、来るんだね」
優助は、生徒会の関係で、収穫祭の運営を、少し手伝うことになっていた。
「あの、当日の、飾り付け、確認しておきますね」
◇ ◇ ◇
収穫祭の前日、部室に、環境委員会の生徒が、慌てた様子で訪ねてきた。
「案山子が、消えてしまったんです!」
「案山子?」
和奏が聞き返すと、環境委員はうなずいた。
「収穫祭のために、みんなで作った、大きな案山子です。畑の真ん中に、立てておいたはずなのに」
美空がホワイトボードの前で、丸を三つ描いた。
「霊」「案山子の魂」「購買部」。
「今回、案山子の魂、初めて出た仮説だね」
「季節の風物詩には、それにふさわしい、物語が、あるものだよ」
「その理論、毎回、テーマに合わせて、器用だね」
彩羽が腕を組んだ。
「案山子、大きいのに、どうやって、消えるんだろうな」
「彩羽、今回、素朴な疑問だね」
信吾は前髪を払った。
「これは、収穫祭を、妨害しようとする、何者かの、仕業かもしれない」
「今回、また、その方向?」
「季節ごとに、色々な、妨害者が、現れるものだ」
「その発想、少し、心配になってきたよ」
◇ ◇ ◇
六人は、栽培園に向かった。
案山子が立っていたはずの場所には、確かに、何も残っていなかった。
地面には、大きな、引きずったような跡が、続いている。
「これ、大きいものを、引きずった跡だね」
和奏が言うと、優助が、跡をたどりながら言った。
「あの、跡、体育倉庫の方に、続いています」
◇ ◇ ◇
跡をたどっていくと、体育倉庫の裏で、意外な光景が、目に飛び込んできた。
そこには、案山子が、丁寧に、横たえられ、その周りを、数人の生徒たちが、囲んでいた。
「あっ」
生徒たちは、六人に気づき、慌てた様子を見せた。
「もしかして、案山子、みんなが?」
和奏が聞くと、生徒の一人が、うつむいた。
「すみません、勝手に、移動させました」
◇ ◇ ◇
生徒たちは、美術部のメンバーだと分かった。
「なんで、案山子、こんなところに?」
和奏が聞くと、美術部の部長らしき生徒が、説明を始めた。
「実は、今年の案山子、私たちが、デザインを、担当したんです。でも、完成させたあと、よく見たら、顔の部分、少し、バランスが、悪いことに気づいて」
「それで?」
「本番までに、直したくて。でも、畑に置いたままだと、目立って、恥ずかしくて。こっそり、ここで、修正しようと思って」
美術部の一人が、丁寧に、案山子の顔を、描き直している途中だった。
「もう少しで、直せそうなんです」
◇ ◇ ◇
彩羽が、案山子の顔を、じっと見つめた。
「これ、直す前も、そんなに、悪くないと思うけどな」
「本当ですか」
「うん。愛嬌があって、良いと思う」
美空も、興味深そうに、案山子を観察した。
「表情、少し、不揃いなところが、逆に、味があるよ」
「そう、言ってもらえると、少し、安心します」
◇ ◇ ◇
美術部の部長は、少し考えたあと、顔を上げた。
「せっかくなので、少しだけ、手を加えて、それでも、今の雰囲気は、残すようにします」
「それがいいと思う」
和奏が言うと、部長は、笑顔でうなずいた。
「勝手に、移動させて、すみませんでした」
「環境委員会の人にも、ちゃんと、話しておいたほうがいいよ」
「はい、これから、伝えに行きます」
◇ ◇ ◇
その後、案山子は、少しだけ手直しされ、無事に、収穫祭の日には、畑の真ん中に、堂々と立つことになった。
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『秋、消えた収穫祭の案山子事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・美術部の生徒たち。動機・完璧を求める気持ち』
「動機、今回も、優しいものだね」
和奏が言うと、美空は満足そうにうなずいた。
「案山子の魂説、今回も使わなかったよ」
「毎回、候補には入れるのにね」
彩羽は、少し笑った。
「案山子、完璧じゃなくても、いいと思うんだけどな」
「彩羽、今回、達観してるね」
「べ、別に、普通の感想だ」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「俺の勘、今回も、外れたな」
「珍しく、連続で、素直だね」
「妨害者、という発想は、季節柄、悪くなかったと思う」
「その言い訳、毎回、無理やりだよね」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「明日の収穫祭、楽しみだね」
「うん、そうだね」
優助が、静かに言った。
「あの、完璧を求める気持ちと、今のままでいいという気持ち、どちらも、大事なんだなと、思いました」
「優助、たまに、いいこと言うね」
「たまに、じゃなくて、いつもな気がするけどな」
彩羽が、横から、そう付け加えた。
「そんなことは……」
優助は、少し照れたように、目を伏せた。
窓の外、秋の澄んだ空気の中、栽培園には、明日の収穫祭を待つ、案山子の姿が、静かに立っていた。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、完璧を求める気持ちと、それを受け入れる優しさが、事件の正体だった。




