第46話 秋、消えた栽培園の野菜事件
合唱コンクールが終わり、少しずつ、秋の深まりを感じる季節になっていた。
「最近、涼しくなってきたね」
和奏が言うと、彩羽が、少し嬉しそうにうなずいた。
「動きやすい季節、好きだな」
放課後、部室に、環境委員会の生徒が、困った様子で訪ねてきた。
「学校の栽培園の野菜が、消えるんです」
「栽培園?」
和奏が聞き返すと、環境委員はうなずいた。
「中庭の花壇の隣にある、環境委員会で育てている、小さな畑です。収穫直前の、さつまいもや、大根が、朝、確認すると、時々、なくなってて」
美空がホワイトボードの前で、丸を三つ描いた。
「霊」「畑の妖精」「購買部」。
「今回、また、妖精だね」
「季節の実りには、それにふさわしい存在が、いるものだよ」
「その理論、収穫時期に、毎回、変化するね」
彩羽が腕を組んだ。
「野菜が消えるって、動物の可能性も、あるんじゃないか」
「彩羽、今回、現実的な視点だね」
信吾は前髪を払った。
「これは、栽培園を、狙う、何者かの、大胆な犯行かもしれない」
「今回、その表現、大げさすぎない?」
「野菜一つでも、油断はできない」
「その心意気は、分かるけど」
大地はソファでせんべいをかじりながら聞いていた。
「野菜、美味しそうだよね」
「大地、今回も、その視点、ぶれないね」
優助が控えめに言った。
「あの、栽培園、フェンスとか、囲いは、ありますか」
「低い柵は、ありますけど、動物なら、簡単に、入れると思います」
◇ ◇ ◇
六人は、栽培園を確認しに向かった。
畑の周りには、確かに、低い柵が設置されていたが、隙間から、小さな動物が、通り抜けられそうな場所も、見受けられた。
美空が、地面を調べると、小さな足跡が、点々と続いているのを見つけた。
「これ、動物の足跡だね」
「タヌキか、何かかな」
和奏が言うと、優助が、足跡の形を、丁寧に観察した。
「あの、この足跡、少し、特徴的な形をしています」
「どんな形?」
「爪の跡が、はっきりしていて、丸みのある、肉球の形が見えます」
「犬か、猫みたいな感じ?」
「かもしれません」
◇ ◇ ◇
足跡をたどっていくと、栽培園の裏手、体育倉庫の近くまで、続いていた。
その先には、見覚えのある、黒猫の姿があった。
「あっ、この子」
美空が声を上げると、猫は、警戒するように、少し身を引いた。
「茅野くんの、猫だよね」
彩羽が言うと、猫は、口元に、小さな野菜のかけらを、くわえていた。
「野菜、食べてる?」
◇ ◇ ◇
六人は、茅野に連絡を取り、事情を聞くことにした。
「その子、うちの猫じゃないんだけど」
茅野は、少し困った顔で言った。
「野良猫だけど、最近、僕に、よく懐いてくれてる。栽培園、荒らしてたのか」
「猫は、普通、野菜、食べないと思うけど」
和奏が言うと、茅野は、猫を撫でながら、考える様子を見せた。
「もしかしたら、野菜自体を、狙ってるんじゃなくて」
「じゃあ、何を?」
「虫、とか、かな。畑には、色々、小さな虫が、集まるから」
美空が、目を輝かせた。
「野菜を食べてるんじゃなくて、虫を狩ってる途中で、野菜を、掘り返してるのかもしれないね」
「今回、意外と、まともな推理だね」
「たまには、こういうことも、あるよ」
◇ ◇ ◇
環境委員会の生徒に、この推理を伝えると、実際に、畑には、虫食いの跡が、いくつも見つかった。
「本当だ、虫、たくさんいる」
「猫が、その虫を、狙って、掘り返してたのかもしれないですね」
優助が、静かに言った。
「対策として、畑の周りに、もう少し、しっかりした柵を、設置するのが、いいと思います」
「そうですね。予算、相談してみます」
茅野が、少し申し訳なさそうに言った。
「その子のせいで、迷惑、かけてたなら、ごめん」
「野良猫だから、茅野くんのせいじゃないよ」
和奏が言うと、茅野は、少しほっとした様子を見せた。
「でも、これからは、もう少し、遠ざけるように、しておく」
「無理しなくても、大丈夫だよ」
◇ ◇ ◇
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『秋、消えた栽培園の野菜事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・野良猫の虫狩り。動機・食欲、というより、狩猟本能』
「動機、今回、少し、専門的だね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「畑の妖精説、今回も使わなかったよ」
「毎回、候補には入れるのにね」
彩羽は、少し笑った。
「猫にも、猫なりの、理由が、あったんだな」
「彩羽、今回、しみじみしてるね」
「べ、別に、普通の感想だ」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「俺の勘、今回も、外れたな」
「珍しく、連続して、素直だね」
「大胆な犯行、という予想は、猫にしては、当たっていたかもしれない」
「その言い訳、毎回、無理やりだよね」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「野菜、これから、しっかり育つといいね」
「うん、そうだね」
優助が、静かに言った。
「あの、動物と、植物と、それを育てる人たちの、色々な関係が、見える事件でしたね」
「優助、今回、詩的なこと言うね」
「たまには、こういう表現も、してみたくなりました」
窓の外、秋の澄んだ空気の中、栽培園には、これから収穫を迎える、野菜たちが、静かに育っていた。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、猫の本能と、畑を育てる人たちの願いが、事件の正体だった。




