第43話 新学期、消えた自由研究展示事件
二学期の始業式を迎え、校内には、夏休みの自由研究の作品が、廊下に、ずらりと展示されていた。
「みんなの自由研究、無事に、仕上がったね」
和奏が言うと、美空が、誇らしげに、自分の作品を指さした。
「消える階段の謎、しっかり、まとめたよ」
「その研究、先生から、何か言われた?」
「『発想が面白い』って、褒められたよ」
「意外と、好評だったんだね」
信吾も、自分の展示を、少し得意げに見せた。
「探偵術についての、俺の考察、なかなかの出来だ」
「その内容、あとで、読ませてもらおうかな」
大地の展示は、お菓子作りの写真が、丁寧に貼られていた。
「これ、全部、僕が作ったやつだよ」
「美味しそうだね」
優助の展示は、生徒会の一年間の活動を、資料としてまとめたもので、他の展示に比べて、ひときわ整然としていた。
「あの、少し、地味かもしれませんが」
「優助らしい、丁寧な仕事だと思うよ」
◇ ◇ ◇
しかし、展示スペースを一通り見て回ると、彩羽の作品だけが、見当たらないことに、みんなが気づいた。
「あれ、彩羽の展示、どこ?」
和奏が聞くと、彩羽自身も、困惑した顔をしていた。
「私も、探してるんだけど、見つからない」
美空がホワイトボードの前で、丸を三つ描いた。
「霊」「自由研究を狙う何か」「購買部」。
「今回、少し、シリアスな響きだね」
「彩羽の作品、七月中に、しっかり仕上げてたはずだから、心配になってね」
彩羽が、少し不安そうな顔をした。
「早く終わらせたことが、逆に、仇になったのかな」
信吾は前髪を払った。
「これは、優秀な作品を、妬んだ何者かの、犯行かもしれない」
「今回、時と場合によっては、あり得そうな話だね」
優助が控えめに言った。
「あの、彩羽さん、展示、いつ、提出しましたか」
「夏休み最終日に、提出しに、来た」
「その日の、担当の先生、覚えてますか」
「確か、いつもの先生じゃなくて、代わりの先生だった気がする」
◇ ◇ ◇
六人は、担当の教師に、確認することにした。
「彩羽さんの、提出物のこと、確認したいんですけど」
和奏が聞くと、教師は、少し考えたあと、思い出したように言った。
「ああ、夏休み最終日は、私が、風邪で休んでいたの。代わりに、隣のクラスの先生が、受け取っていたはずよ」
「隣のクラスの先生ですか」
六人は、その代理の教師のもとを、訪ねることにした。
◇ ◇ ◇
「彩羽さんの、自由研究のことですね」
代理の教師は、少し申し訳なさそうな顔で言った。
「実は、あの日、提出物が、多くて。うっかり、別の教科の、資料の中に、紛れ込ませてしまったかもしれません」
「別の教科の資料?」
「保管棚を、確認してみましょう」
教師と一緒に、保管棚を確認すると、社会科の資料の束の中に、彩羽の名前が書かれた、自由研究の作品が、そのまま挟まっていた。
「あった……」
彩羽が、ほっとした様子で、作品を受け取った。
「先生の、うっかりミスだったんですね」
教師が、深く頭を下げた。
「本当に、ごめんなさい。展示、間に合うように、すぐに、掲示板に貼らせてもらいますね」
◇ ◇ ◇
彩羽の作品は、少し遅れて、展示スペースに、無事に、貼り出されることになった。
その内容は、体力づくりについての、実践的な研究で、写真とグラフを使って、丁寧にまとめられていた。
「彩羽の研究、すごく、しっかりしてるね」
和奏が言うと、彩羽は、少し照れくさそうに言った。
「毎日、続けられることを、テーマにしたかったからな」
美空が、感心したように言った。
「彩羽らしい、実直な研究だね」
「べ、別に、たいしたことじゃない」
「今回も、その口癖、出たね」
◇ ◇ ◇
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『新学期、消えた自由研究展示事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・代理の先生の、うっかり。動機・提出物の多さ』
「動機、今回も、特に悪意はなかったんだね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「今回も、誰かの意図じゃなくて、ただの、うっかりだったからね」
「そういう事件、最近、多い気がする」
「平和な証拠だと思うよ」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「俺の勘、今回は、外れたな」
「珍しく、素直に、認めるんだ」
「優秀な作品を、妬んだ何者か、っていう発想は、なかなか、悪くなかったと思うが」
「その言い訳、今回も、いつも通りだね」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「彩羽の研究、僕も、参考にしようかな」
「大地の自由研究、お菓子作りだったよね」
「体力づくりも、大事だから」
「その発想、今更だけどね」
優助が、静かに言った。
「あの、みんなの自由研究、それぞれ、個性が出てて、面白かったです」
「うん、そうだね」
窓の外、二学期が始まったばかりの校庭には、まだ、夏の名残を感じさせる、強い日差しが、降り注いでいた。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、ちょっとした、うっかりミスが、事件の正体だった。




