第42話 夏休み後半、消えた自由研究事件
夏休みも後半に差し掛かり、部室には、夏休みの宿題を持ち寄った六人の姿があった。
「自由研究、まだ終わってないんだよね」
和奏が言うと、彩羽が、少し呆れたように言った。
「和奏、いつも、後半になってから、焦るよな」
「彩羽は、もう終わってるの?」
「私は、七月中に、終わらせておいた」
「その計画性、見習いたい」
信吾は、前髪を払いながら、自信満々に言った。
「俺は、自由研究のテーマ、探偵術についてまとめることにした」
「その内容、大丈夫なの?」
大地は、料理の自由研究に、取り組んでいた。
「お菓子の作り方、まとめてるよ」
「大地らしいテーマだね」
美空は、当然のように、七不思議についての、自由研究に取り組んでいた。
「今年は、消える階段の謎を、詳しくまとめる予定だよ」
「その研究、学校の先生に、どう説明するの」
優助は、生徒会の活動記録を、自由研究としてまとめていた。
「あの、僕は、一年間の、生徒会の取り組みを、まとめています」
◇ ◇ ◇
そんな中、部室に、隣のクラスの女子生徒が、困った様子で訪ねてきた。
「自由研究のデータが、消えてしまったんです」
「データ?」
和奏が聞き返すと、女子生徒はうなずいた。
「学校のパソコン室で、作業していた研究データが、保存していたはずのフォルダから、消えていて」
美空がホワイトボードの前で、丸を三つ描いた。
「霊」「データを食べる怪物」「購買部」。
「今回、データを食べる怪物、新しいね」
「夏休みらしい、少しホラーな仮説を、考えてみたよ」
「その努力は、認めるけど、根拠がね」
彩羽が腕を組んだ。
「パソコンのデータが消えるって、機械的なトラブルの可能性、あるよな」
「彩羽、今回、現実的だね」
信吾は前髪を払った。
「これは、ライバル研究者による、妨害工作かもしれない」
「今回、自由研究に、ライバルって、あるの?」
「探偵の勘が、そう告げている」
「その勘、当てにならないこと、多いよね」
優助が控えめに言った。
「あの、パソコン室、使用記録、残ってますか」
「先生に、確認してみます」
◇ ◇ ◇
六人は、パソコン室の担当教師に話を聞いた。
「ああ、それなら、心当たりがあるわ。夏休み中、システムの更新作業をしていて、一時的に、共有フォルダの中身を、バックアップに移していたの」
「バックアップ?」
「ええ。作業中に、うっかり、通知を出し忘れて。データ自体は、無事に、別の場所に、保存されているはずよ」
教師が、バックアップフォルダを確認すると、確かに、女子生徒の研究データが、そのまま残っていた。
「あった、これです!」
女子生徒が、ほっとした様子で、声を上げた。
「良かったね」
和奏が言うと、女子生徒は、深く安堵の息をついた。
「てっきり、全部、消えてしまったのかと、思いました」
「先生の、説明不足だったわね。ごめんなさい」
教師が、申し訳なさそうに言うと、女子生徒は、首を振った。
「無事なら、大丈夫です。ありがとうございました」
◇ ◇ ◇
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『夏休み後半、消えた自由研究事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・パソコンのシステム更新。動機・特になし』
「動機、また、特になし、なんだね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「今回も、誰かの意図じゃなくて、単純な、連絡ミスだったからね」
「そういう事件も、あるよね」
彩羽が、少し笑いながら言った。
「データ、無事で、良かったな」
「彩羽、今回、しみじみしてるね」
「べ、別に、普通の感想だ」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「俺の勘、今回は、外れたな」
「珍しく、素直に、認めるんだ」
「ライバル研究者、という発想は、自由研究シーズンらしくて、悪くなかったと思う」
「その言い訳、毎回、無理やりだよね」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「僕の自由研究、進めないと」
「大地、頑張って」
優助が、静かに言った。
「あの、僕たちも、そろそろ、自由研究、本気で進めないといけませんね」
「そうだね」
◇ ◇ ◇
その日の残りの時間、六人は、部室で、それぞれの自由研究に取り組んだ。
美空は、消える階段の謎について、これまでの調査結果を、丁寧にまとめていった。
信吾は、探偵術について、これまでの活動を振り返りながら、原稿用紙に、あれこれと書き連ねていた。
大地は、お菓子の作り方を、写真付きで、まとめていた。
彩羽は、すでに終わらせていた自由研究の代わりに、みんなの作業を、手伝っていた。
優助は、生徒会の一年間の活動を、丁寧に、資料としてまとめていった。
和奏は、少し焦りながらも、自分のテーマを、ようやく決めることができた。
「私は、この一年の、部活動での出来事を、まとめてみようかな」
「和奏らしい、いいテーマだと思うよ」
美空が言うと、和奏は、少し照れた様子で微笑んだ。
「みんなとの、色々な思い出、書き残せたら、いいなと思って」
窓の外、夏の終わりを感じさせる、少し涼しい風が、部室の中を、吹き抜けていった。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、単純な連絡ミスの向こうに、それぞれの、夏の頑張りがあった。




