第40話 夏本番、消えたラジオ体操カード事件
梅雨が明け、本格的な夏の到来とともに、夏休みが始まった。
「今年も、ラジオ体操、あるんだね」
和奏が言うと、彩羽が、少し眠そうな顔で答えた。
「朝早いの、正直、きついよな」
夏休み初日、地域のラジオ体操の集まりに、六人は、それぞれ参加することになっていた。
信吾は、前髪を払いながら、意気込んでいた。
「俺は、皆勤賞を、狙う」
「毎年、途中で、寝坊してる気がするけど」
「今年は、違う」
大地は、少し眠そうにしながらも、しっかりと立っていた。
「朝、早いけど、ラジオ体操のあと、みんなで、お菓子食べるの、楽しみ」
「大地、そこは、ぶれないね」
優助は、いつも通り、きちんとした様子で、カードを手にしていた。
「あの、出席カード、忘れずに、持ってきてくださいね」
美空は、何やら、ラジオ体操の隊列を、じっと観察していた。
「この並び方、実は、七不思議の目撃情報と、関係あるかもしれない」
「朝から、その話、しないでね」
◇ ◇ ◇
ラジオ体操が終わったころ、近所の子どもたちの間で、ちょっとした騒ぎが起きていた。
「出席カードが、消えたの!」
泣きそうな声で訴えてきたのは、地域の小学生だった。
「出席カードって、判子を押す、あれ?」
和奏が聞くと、小学生はうなずいた。
「うん。毎日、来て、判子もらってたのに、今日、鞄の中に、入ってなくて」
美空がホワイトボード代わりのメモ帳に、丸を三つ描いた。
「霊」「夏休みの妖精」「購買部」。
「今回、夏休みらしい仮説だね」
「季節感、大事にしてるからね」
「その一貫性、いつも通りだね」
彩羽が、小学生の様子を見ながら言った。
「これは、地域の子どもたちの、夏休みの一大事だな」
「彩羽、今回、真剣だね」
「子どもの泣き顔、放っておけないだろ」
信吾は前髪を払った。
「これは、俺たちの、初めての、地域貢献事件かもしれない」
「今回、意外と、いいこと言うね」
◇ ◇ ◇
六人は、小学生に、詳しい話を聞くことにした。
「今朝、家を出るとき、確かに、あったんだけどな」
小学生は、しょんぼりと言った。
「途中、公園で、友達と、ちょっと遊んでから、来たんだ」
「公園で、何して遊んだの?」
「かくれんぼ」
美空の目が、きらりと光った。
「かくれんぼ中に、落とした可能性がある」
「今回、割と、まともな推理だね」
◇ ◇ ◇
六人は、小学生と一緒に、近くの公園に向かった。
公園の茂みや、遊具の周りを、丁寧に探していく。
「あった!」
大地が、砂場の近くの茂みの中から、出席カードを見つけ出した。
「本当だ、これだ!」
小学生が、嬉しそうに、カードを受け取った。
「かくれんぼしてるとき、しゃがんだ拍子に、鞄から、落ちちゃったのかもね」
優助が、静かに言った。
「これから、鞄の口、しっかり閉めるようにすると、いいと思います」
「うん、そうする」
◇ ◇ ◇
小学生は、無事にカードを取り戻し、笑顔で、お礼を言った。
「ありがとう、お兄さんお姉さんたち!」
「どういたしまして」
和奏が答えると、彩羽が、優しく、小学生の頭を撫でた。
「明日も、ちゃんと、参加するんだぞ」
「うん!」
◇ ◇ ◇
その日の帰り道、六人は、少し離れた場所で、意外な顔ぶれと、遭遇した。
「あら、こんなところで」
優雅な声に振り返ると、そこには、私服姿の上坂と、鵜沢の姿があった。
「上坂さんと、鵜沢さん?」
「わたくしたち、この近くの、地域清掃活動に、参加しておりましたの」
「がくほも、地域活動、してるんだ」
「がくほは、学校の秩序だけでなく、地域との、繋がりも、大切にしていますの」
鵜沢は、少し照れくさそうに、和奏たちのほうを見た。
「あ、あの、久しぶりです」
「鵜沢さん、少し、話しやすくなったね」
「はい、少しずつ、ですけど」
◇ ◇ ◇
美空が、ホワイトボード代わりのメモ帳に、大きく書いた。
『夏本番、消えたラジオ体操カード事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・かくれんぼ中の不注意。動機・特になし』
「動機、今回、特になし、なんだ」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「今回は、誰の意図もない、ただの、うっかりだったからね」
「そういう事件も、あるんだね」
彩羽が、少し笑いながら言った。
「地域の子どもたちの、笑顔、見られて、良かったな」
「彩羽、今回、しみじみしてるね」
「べ、別に、普通の感想だ」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「今回、俺の、地域貢献の第一歩だったな」
「一緒に探しただけだけどね」
「それも、立派な貢献だ」
「その解釈、いつも通り、都合いいね」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「明日も、ラジオ体操、頑張ろうね」
「うん、頑張ろう」
優助が、静かに言った。
「あの、地域の人たちとの、こういう繋がりも、大事にしていきたいですね」
「そうだね」
窓の外――いや、朝の公園の空には、夏本番を告げる、眩しい太陽が、輝いていた。
今日の放課後――いや、朝も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、地域の子どもたちの、小さな夏の思い出が、事件の正体だった。




