第34話 新入部員、消えた見学希望者事件
部活動紹介から数日後、部室に、一年生らしき生徒が、何人か、様子を見に来るようになっていた。
「見学者、増えてきたね」
和奏が言うと、美空が、嬉しそうにうなずいた。
「口頭紹介、意外と、効果があったみたいだね」
「あのアドリブ、伝わってたんだ」
彩羽も、少し照れくさそうに言った。
「私の司会も、少しは、役に立ったのかもな」
信吾は前髪を払った。
「俺の探偵っぷりに、憧れる者が、現れたということだな」
「その解釈、いつも通り、都合よすぎるよ」
◇ ◇ ◇
そんな中、部室に、体育委員の女子生徒が、困った様子で相談に来た。
「実は、見学希望者が、一人、いなくなってしまって」
「いなくなった?」
和奏が聞き返すと、女子生徒はうなずいた。
「今日、見学に来る予定だった一年生が、待ち合わせの場所に、来なかったんです。連絡も、取れなくて」
美空がホワイトボードの前で、丸を三つ描いた。
「霊」「新入生を惑わす何か」「購買部」。
「今回、少し、シリアスな仮説も、混じってるね」
「行方不明は、さすがに、心配だからね」
「その真剣さ、大事だと思うよ」
彩羽が腕を組んだ。
「行方不明、って聞くと、さすがに、私も、心配になるな」
「彩羽、今回、幽霊関係なく、真剣だね」
信吾は前髪を払った。
「これは、緊急事態かもしれない。すぐに、探しに行こう」
「今回、いつも以上に、行動が早いね」
大地も、珍しく、真剣な顔をしていた。
「早く、見つけないと」
優助が控えめに言った。
「あの、その一年生、名前と、教室、分かりますか」
「一年三組の、木下くんです」
◇ ◇ ◇
六人は、まず、木下のクラスに向かった。
クラスメイトに話を聞くと、思わぬ情報が得られた。
「木下くん、今日、お昼休みくらいから、ずっと、暗い顔してました」
「暗い顔?」
「何か、悩んでるみたいで。特事研の見学、楽しみにしてたはずなのに」
和奏たちは、心当たりのある場所を、順番に探し回ることにした。
教室、図書室、旧校舎、体育館の裏。
しかし、どこにも、木下の姿は見当たらなかった。
「どこにいるんだろう」
和奏が焦りを見せると、優助が、静かに言った。
「あの、屋上に続く、非常階段、確認しましたか」
「まだ、確認してない」
「僕、一度、見てきます」
◇ ◇ ◇
優助が向かった先、旧校舎の非常階段の踊り場に、木下は、一人、膝を抱えて座っていた。
「木下くん」
優助が声をかけると、木下は、びくりと顔を上げた。
「あ……」
優助は、無理に近づかず、少し離れた場所で、静かに座った。
「大丈夫ですか」
「すみません、見学、行けなくて」
「何か、あったんですか」
木下は、しばらく黙り込んだあと、小さな声で話し始めた。
「今日、クラスで、部活の話になって。友達は、みんな、運動部に入るって、盛り上がってて。僕だけ、特事研みたいな、変わった部活に興味あるって言ったら、少し、笑われた気がして」
「それで、行きづらくなったんですね」
「はい。変な部活だって、思われたくなくて」
◇ ◇ ◇
そこに、和奏たちも、追いついてきた。
「木下くん、見つかった!」
和奏が声をかけると、木下は、少し驚いた様子で、それでも小さく頭を下げた。
「心配、かけて、すみません」
彩羽が、優しく言った。
「変な部活、って言われたの、気にしてたのか」
「はい……」
美空が、まっすぐな声で言った。
「変わってるって、悪いことじゃないと思うよ。私たちの部活、確かに、傍から見たら、変かもしれない。でも、みんな、楽しそうにやってると思う」
「本当に、そう思いますか」
「うん。少なくとも、私は、毎日、楽しいよ」
信吾も、いつになく、素直に言った。
「俺も、この部に入って、悪くなかったと思う」
「珍しく、正直だね」
大地が、にっこり笑って言った。
「お菓子も、たくさん食べられるしね」
「大地、今回も、その視点、ぶれないね」
◇ ◇ ◇
木下は、しばらく、みんなの言葉を、聞いていた。
「僕、本当は、七不思議の話とか、興味あったんです。でも、友達に、変わってるって思われるの、怖くて」
優助が、静かに言った。
「僕も、生徒会に入るとき、少し、勇気がいりました。でも、自分が興味あることを、大事にするの、大切だと思います」
「優助さんも、そうだったんですね」
「はい。今は、入って、良かったと思っています」
◇ ◇ ◇
木下は、少し考えたあと、顔を上げた。
「あの、今からでも、見学、行ってもいいですか」
「もちろん」
和奏が言うと、木下は、少しほっとした表情を見せた。
◇ ◇ ◇
部室に戻り、六人と木下は、いつもの席に座った。
美空が、これまでの活動記録を、木下に見せながら、楽しそうに語り始めた。
「消えたプリン事件から、七不思議の解明まで、色々あったんだよ」
「すごく、面白そうです」
木下の表情は、先ほどよりも、ずっと明るくなっていた。
◇ ◇ ◇
その日の終わり、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『新入部員、消えた見学希望者事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・自分自身の不安。動機・変わり者と思われたくなかったから』
「動機、今回、少し、複雑だね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「誰かの悪意じゃなくて、自分の中の不安が、原因だったんだね」
「そういう事件も、あるんだね」
彩羽が、優しく言った。
「木下くん、勇気出して、戻ってきてくれて、良かったな」
「はい。ありがとうございます」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「これで、新しい仲間が、また一人、増えるわけだな」
「木下くん、まだ、正式に入部するとは、言ってないけどね」
「時間の問題だ」
大地はせんべいの袋を開けながら、木下に差し出した。
「食べる?」
「あ、ありがとうございます」
「甘辛味、美味しいよ」
優助が、静かに、木下に言った。
「あの、変わってることは、悪いことじゃないと思います。むしろ、僕は、この部の、そういうところが、好きです」
「僕も、少しずつ、そう思えるように、なれたらいいなと思います」
窓の外、新緑の季節の中、部室には、六人の日常に、少しだけ、新しい顔が混じっていた。
もっとも、正式に入部するかどうかは、まだ、木下自身、決めかねているようだった。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、自分らしさを、受け入れる勇気が、事件の正体だった。




