第33話 部活動紹介、消えたスライド事件
新入生歓迎会が終わり、次に控えているのは、部活動紹介の日だった。
特事研も、体育館のステージで、他の部活動と同じように、活動内容を紹介することになっていた。
「スライド、ちゃんと出来てる?」
和奏が聞くと、美空が、得意げにパソコンを開いた。
「もちろん。七不思議の解明実績を中心に、まとめておいたよ」
「事件簿じゃなくて、七不思議推し、なんだ」
「特事研の華だからね」
信吾は前髪を払いながら、意気込んでいた。
「俺の見せ場も、ちゃんと入ってるんだろうな」
「一応、探偵役として、少しだけ」
「少しだけ、なのか」
大地は、少し緊張した様子で言った。
「僕、何か話すこと、あったっけ」
「大地は、部活の雰囲気担当だから、大丈夫だよ」
優助は、生徒会の仕事があるため、少し離れた場所で、準備の様子を見守っていた。
「あの、機材のセッティング、手伝いましょうか」
「優助、いつも助かるよ」
彩羽は、少し緊張した面持ちで、練習用の原稿を、何度も見返していた。
「私、司会、緊張するな」
「彩羽、大丈夫だよ。練習、たくさんしたし」
◇ ◇ ◇
紹介の順番が近づいたころ、体育館の裏で、機材を確認していた美空が、慌てた様子で戻ってきた。
「スライドのデータが、消えてる!」
「え?」
和奏が聞き返すと、美空は、青ざめた顔で、パソコンの画面を見せた。
「保存していたファイルが、開けなくなってる。中身が、空になってる」
「そんな、直前に……」
彩羽の顔が、さらに硬くなった。
「これ、本番、どうするんだ」
信吾は前髪を払った。
「これは、他の部活からの、妨害工作かもしれない」
「今回、あんまり、悠長に考えてる場合じゃないと思う」
優助が、冷静に言った。
「あの、バックアップ、取ってませんでしたか」
「一応、USBにも、入れておいたはずなんだけど」
美空が、鞄の中を探ると、USBメモリを取り出した。
しかし、パソコンに挿しても、フォルダの中は、空のままだった。
「これも、空になってる」
◇ ◇ ◇
六人は、機材室に、最後にパソコンを触った人がいないか、確認することにした。
機材係の生徒に話を聞くと、思わぬ情報が得られた。
「あ、それなら、さっき、機材のチェックで、パソコン、初期化しちゃったかもしれません」
「初期化?」
「体育館の共用パソコン、次のイベント用に、データを整理する予定だったんです。それで、古いフォルダ、まとめて消してしまって」
「それ、うちのだったかもしれません」
和奏が言うと、機材係の生徒は、顔面蒼白になった。
「す、すみません! 連絡が、行き違ってしまって」
◇ ◇ ◇
美空は、しばらく、呆然としていたが、やがて、覚悟を決めたように言った。
「よし、記憶を頼りに、話そう」
「え、スライドなしで?」
「幸い、内容は、全部、頭に入ってる。むしろ、七不思議の話は、話し出すと止まらないくらい、覚えてるから」
「その自信、頼もしいような、少し心配なような」
彩羽が、深呼吸をしながら言った。
「私も、司会、原稿なしで、できるかな」
「彩羽なら、大丈夫だよ。ここまで、たくさん練習したんだから」
優助が、静かに言った。
「あの、僕、簡単な進行表だけ、手書きで、急いで作ります」
「優助、頼りになりすぎるよ」
大地は、少し不安そうな顔をしていた。
「僕、話すこと、何だったっけ」
「大地は、活動の雰囲気について、話す予定だったよね。実体験、話せば大丈夫だよ」
「実体験なら、任せて。プリンとか、色々あったし」
「その調子で、いこう」
◇ ◇ ◇
紹介の順番が回ってきた。
スライドがないまま、六人は、ステージに立った。
彩羽が、少し緊張しながらも、しっかりとした声で、司会を始めた。
「特異事象研究部、通称、特事研です。今日は、スライドのトラブルで、口頭での紹介になりますが、精一杯、伝えます」
その素直な導入に、体育館から、小さな笑いと、拍手が起こった。
美空が、堂々と、身振り手振りを交えながら、これまでの活動を語り始めた。
「消えたプリン事件、幽霊ピアノ事件、そして、七不思議の解明。私たちは、学校の小さな謎を、笑いながら解決してきました」
「事件簿というより、もはや、口承伝承だね」
優助が、小声でつぶやくと、和奏は、思わず笑ってしまった。
信吾も、いつも通りの決め顔で、堂々と語った。
「探偵として、俺の勘は、時々、外れることもあるが、それでも、仲間と一緒に、真相にたどり着いてきた」
「珍しく、素直な発言だね」
大地は、少し緊張しながらも、明るく言った。
「特事研は、みんなで、事件を解決したあと、お菓子を食べるのが、恒例です。ぜひ、遊びに来てください」
その一言に、会場から、笑い声が広がった。
◇ ◇ ◇
紹介が終わり、六人は、ステージを降りた。
「スライド、なかったのに、意外と、うまくいったね」
和奏が言うと、彩羽が、ほっとした様子で、深く息を吐いた。
「終わった……。緊張したけど、なんとかなったな」
美空は、少し満足げな表情をしていた。
「原稿より、自分の言葉で話すほうが、案外、伝わるものなんだね」
「その気づき、今回、けっこう本質的だと思うよ」
◇ ◇ ◇
その後、機材係の生徒が、部室まで、改めて謝りに来た。
「本当に、すみませんでした」
「大丈夫だよ。むしろ、いい経験になったから」
和奏が言うと、機材係の生徒は、少しほっとした様子を見せた。
「今度、ちゃんと、データのバックアップ体制、整えておきます」
「うん、お願いします」
◇ ◇ ◇
部室に戻り、美空がホワイトボードに大きく書いた。
『部活動紹介、消えたスライド事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『犯人・機材係の連絡ミス。動機・整理整頓』
「動機、今回、けっこう地味だね」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「地味だけど、誰にでも、あり得ることだからね」
「その理解、優しいね」
彩羽は、少し誇らしげに言った。
「今回、司会、うまくできたと思う」
「彩羽、本当に、頑張ってたよ」
「べ、別に、普通にやっただけだ」
信吾は前髪を払い、決め顔を作った。
「今回の勘は、外れたが、俺の対応力は、証明できたな」
「対応力、確かに、あったかも」
「珍しく、素直に、認めてくれるんだな」
大地はせんべいの袋を開けながら言った。
「新入生、何人か、見に来てくれてたね」
「うん、興味持ってくれたら、嬉しいね」
優助が、静かに言った。
「あの、今回みたいに、予定通りにいかないことも、これから、あると思います」
「そうだね」
「でも、みんなで、なんとかできるんだなって、改めて、思いました」
窓の外、新緑の眩しい校庭には、部活動紹介を終えた、新入生たちの姿があった。
今日の放課後も、事件は笑いながらやってくる。
そして今回は、不測の事態を乗り越える、仲間の力が、事件の正体だった。




