第31話 がくほ!~学園生活保全部の活動記録~ 新体制、初仕事の一日
第31がくほの部室には、新しい顔ぶれが加わっていた。
「本日から、新体制で活動を開始します」
新リーダーとなった花村愛理が、いつも以上に、きりっとした表情で、メンバーを見渡した。
「まず、新しく加わった二人を、紹介します」
愛理の隣に立っていたのは、ふんわりとした雰囲気の、二年生の女子生徒だった。
「上坂美姫と申します。以後、お見知りおきを」
優雅に一礼する上坂の指には、控えめながらも、明らかに高価そうな指輪が光っていた。
「上坂さん、その指輪、学校には、あんまり相応しくないかも」
瑠実が、素朴に指摘すると、上坂は、きょとんとした顔をした。
「あら、そうなんですの? 学校というところには、あまり詳しくなくて」
「詳しくないって、ずっと学校、通ってたんじゃないの?」
「小学校からずっと、お屋敷で、家庭教師の先生に、教えていただいておりましたの。中学校からは、初めての、集団生活ですわ」
「なるほど、それは、なかなか珍しい環境だね」
才川が、芝居がかった仕草で、興味深そうに言った。
「箱入り娘、というやつだね」
「まあ、そのような表現も、使われますわね」
「その言い方、自分でも肯定するんだ」
◇ ◇ ◇
愛理は、続けて、もう一人を紹介した。
「そして、こちらが、一年生の、鵜沢華さんです」
小柄で、少し緊張した様子の一年生が、深く頭を下げた。
「う、鵜沢です。よろしく、お願いします」
その視線は、なぜか、女子メンバーの方にしか、向けられていなかった。
「鵜沢さん、なんで、才川くんと茅野くんのほう、見ないの?」
瑠実が聞くと、鵜沢は、みるみる顔を赤くした。
「あ、あの、その、男の人が、その……」
「男の人が?」
「うまく、話せなくて」
才川が、少し戸惑いながら言った。
「僕、そんなに、怖い顔してるかな」
「ち、違います! 才川さんが、怖いとか、そういうことでは……」
鵜沢は、うつむいたまま、消え入りそうな声で続けた。
「わたし、女の人ばかりの家で育って、学校も、ずっと女子校で。男の人と、話す機会が、ほとんどなかったんです」
「なるほど、それで」
茅野が、猫を撫でながら、淡々と言った。
「僕は、猫だと思えばいいんじゃない」
「猫、ですか」
「別に、無理に話さなくても、いいと思うけど」
その言葉に、鵜沢は、少しだけ、ほっとした表情を見せた。
「あ、ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
愛理が、パンと手を叩いた。
「では、早速、本日の活動に移ります。新入生歓迎週間中、校門付近で、無許可の物品販売が、行われているとの情報が入っています」
「無許可の物品販売?」
和奏たちが、廊下の掲示を見て、事情を知ったのは、その少し後のことだった。
登校中の新入生に、上級生らしき生徒が、お守りや、キーホルダーのようなものを、こっそり売りつけている、という噂だった。
◇ ◇ ◇
がくほの六人は、校門付近の見張りに向かった。
上坂が、優雅に周囲を見回しながら言った。
「無許可の販売など、わたくしが、すべて買い取ってしまえば、解決するのではなくて?」
「上坂さん、それ、解決になってないと思う」
愛理が、すかさず突っ込んだ。
「あら、そうですの? お金で解決できないこと、あまり経験がなくて」
「今回は、根本的に、間違った方法です」
才川が、興味深そうに言った。
「上坂さん、面白い発想をするね」
「褒められているのか、分かりませんわ」
しばらく見張っていると、正門の脇、植え込みの陰から、こっそりと、生徒に近づいていく、三年生らしき男子生徒の姿が見えた。
「あれだ」
瑠実が、指をさすと、愛理が、すぐさま前に出ようとした。
「わたしが、直接、注意します」
「愛理さん、待って」
奥津がいたら、きっと止めていただろうその勢いを、代わりに、才川が引き止めた。
「頭ごなしに叱るのは、最後の手段だったよね。まずは、話を聞こう」
「あ……そうでした」
愛理は、少し我に返った様子で、頷いた。
◇ ◇ ◇
六人は、その男子生徒に、声をかけることにした。
鵜沢は、男子生徒が話に加わると分かった瞬間、さっと後ろに下がった。
「あの、少し、お話、よろしいですか」
才川が、いつもより落ち着いた口調で声をかけると、男子生徒は、びくりと肩を震わせた。
「な、なんでしょうか」
「その、売っているもの、何ですか」
「これは、その……」
男子生徒は、しばらく言いよどんだあと、小さな声で答えた。
「合格祈願のお守りです。手作りで」
「手作り?」
「はい。実は、部活の後輩の、進級祝いと、新入生の合格祝いを兼ねて、作ったものです。でも、ただであげると、遠慮する子も多くて。少しだけ、お金をもらう形にすれば、受け取りやすいかと思って」
「学校で、無許可で、物を売るのは、良くないことです」
愛理が言うと、男子生徒は、頭を下げた。
「すみません、ルール、知らなくて」
「先生に、相談すれば、良かったのに」
「思いつきませんでした」
◇ ◇ ◇
上坂が、興味深そうに、お守りの一つを手に取った。
「これ、とても、丁寧な作りですわね」
「ありがとうございます」
「わたくし、これ、全部、買い取りますわ」
「え?」
「無許可の販売は、やめていただかないといけませんが、これだけ、丁寧に作られたもの、無駄にするのは、もったいないと思いますの」
愛理が、また、すかさず口を挟んだ。
「上坂さん、それも、少し違うと思います。むしろ、正式な形で、配れるように、してあげたほうが」
「あら、そうですわね。わたくし、つい、お金で解決したくなってしまいますの」
「その癖、少しずつ、直していきましょう」
◇ ◇ ◇
結局、六人は、その男子生徒と一緒に、生徒会に相談し、正式に、新入生歓迎の記念品として、お守りを配布する許可を、取ることになった。
優助が、たまたま生徒会室にいたため、手続きを手伝ってくれた。
「あの、これなら、堂々と、配れると思います」
「ありがとうございます、生徒会の方」
男子生徒は、ほっとした様子で、頭を下げた。
◇ ◇ ◇
がくほの部室に戻り、愛理が、活動記録ノートに、丁寧な字で書き込んだ。
『無許可販売事件――解決』
その下に、少し小さく付け加える。
『原因・遠慮を減らすための誤った工夫。対応・正式な配布方法への変更』
「今回、無事に、解決できましたね」
愛理が言うと、上坂が、優雅に微笑んだ。
「わたくしの、お金で解決する癖、これから、直していきますわね」
「はい、お願いします」
鵜沢は、まだ少し、緊張した面持ちで、隅の方に座っていた。
「あの、今日は、あまり、お役に立てなくて、すみません」
「鵜沢さん、そんなことないよ」
瑠実が、優しく言った。
「今日は、初日だから、無理しなくて、大丈夫」
「はい……」
茅野が、猫を撫でながら、ぼそりと言った。
「少しずつ、慣れればいいんじゃない」
「はい、頑張ります」
才川が、いつもの芝居がかった調子に戻って言った。
「僕たちは、いつでも、猫のような存在として、待っているよ」
「その例え、面白いですね」
鵜沢が、少しだけ、笑った。
◇ ◇ ◇
部室を出た帰り道、がくほの六人は、特事研の面々と、廊下でばったり出くわした。
「あ、がくほだ」
和奏が声をかけると、愛理が、少し誇らしげに、六人を紹介した。
「新しいメンバーが、増えました」
「よろしくお願いします」
上坂は、優雅に一礼した。
「わたくし、上坂美姫と申します」
鵜沢は、女子メンバーの方だけに視線を向けながら、小さく頭を下げた。
「う、鵜沢です」
美空が、目を輝かせながら言った。
「新しいメンバー、これは、また、新しい謎の可能性が広がるね」
「美空さん、その発想、今日も健在ですね」
奥津がいなくなった分、少し寂しい雰囲気もあったが、六人ずつの、新しい形になった二つの部活は、これからも、少しずつ、色々な事件と、向き合っていくことになるのだろう。
今日も、学園の秩序は、新しくなったがくほの手によって、少しずつ、守られていくのだった。




