第24話 冬休み、初詣の消えたお守り事件
冬休みに入って数日、和奏のスマートフォンに、美空からのメッセージが届いた。
『みんなで初詣に行こう』
突然の誘いに、和奏は少し戸惑いながらも、了承の返事を送った。
◇ ◇ ◇
元日の朝、六人は、地元の神社の前で待ち合わせをしていた。
「あけましておめでとう」
和奏が言うと、彩羽が、白い息を吐きながら答えた。
「おめでとう。今年もよろしくな」
信吾は、いつもより気合の入った様子で、前髪を払った。
「今年は、探偵として、さらに飛躍する年にする」
「新年から、その調子なんだ」
大地は、屋台の匂いに、すでに気を取られていた。
「たこ焼き、あるね」
「大地、参拝の前から、そっちの心配してるんだ」
優助は、いつも通り静かに、参道の様子を眺めていた。
「あの、今年もよろしくお願いします」
「優助、丁寧だね」
美空は、白い息を吐きながら、神妙な顔で言った。
「今年こそ、七不思議の全容解明を目指すよ」
「今年も、ぶれない目標だね」
◇ ◇ ◇
参拝を終え、六人は、境内の屋台を回りながら、お守りの授与所に立ち寄った。
和奏は、学業成就のお守りを一つ買い、大事にポケットにしまった。
しばらく参道を歩いていると、隣にいた大地が、慌てた様子でポケットを探り始めた。
「あれ、ない」
「何が?」
「さっき買った、お守り」
「え、なくしたの?」
大地のポケットには、たこ焼きの割り箸だけが入っていた。
「さっきまで、確かにあったんだけどな」
美空が、目を輝かせた。
「これは、新年早々の事件だね」
「事件っていうか、単に落としただけかもしれないよ」
「油断は禁物だよ。年明けの神社には、色々な力が働いてる可能性がある」
「その理論、正月らしいけど、根拠は薄いよね」
彩羽が、周囲を見回した。
「落としたなら、この辺りに、まだあるかもしれないな」
◇ ◇ ◇
六人で、来た道を戻りながら、地面を確認していった。
優助が、屋台の近くで、しゃがみ込んだ。
「あの、これ」
地面に、小さな鈴の音を立てる、お守りの紐の一部が、落ちていた。
「これ、大地のかな」
「あ、この鈴、僕のやつだ」
大地が拾い上げると、紐だけが千切れていて、お守り本体は見当たらなかった。
「紐だけ、切れてる」
「どこかで、引っかけたのかもしれないね」
和奏がそう言ったとき、近くの屋台の陰から、小さな子どもの声が聞こえてきた。
「これ、拾ったの!」
振り返ると、三歳くらいの女の子が、両親と思われる大人に、何かを見せていた。
その手には、大地が落としたらしい、お守りが握られていた。
「あれだ」
大地が声をかけようとすると、女の子の母親が、先に気づいて、頭を下げた。
「すみません、うちの子が、落ちているものを拾ってしまって」
「大丈夫です。それ、たぶん、僕のなんです」
大地が言うと、女の子は、少し名残惜しそうな顔をしながらも、素直にお守りを差し出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
大地は、お守りを受け取り、女の子に、優しく微笑んだ。
「これ、大事なものだから、拾ってくれて、助かったよ」
女の子は、少し照れたように、母親の後ろに隠れた。
◇ ◇ ◇
美空は、少し残念そうな顔をした。
「新年早々の事件、単なる紐切れだったのか」
「単なる、で片付くの、いいことだと思うよ」
和奏が言うと、美空はうなずいた。
「確かに、大事にならなくて、良かったね」
彩羽が、大地のお守りを見ながら言った。
「紐、結び直しておくか」
「彩羽、器用なんだね」
「これくらいは、普通にできる」
彩羽は、慣れた手つきで、切れた紐を結び直した。
「これで、大丈夫だな」
「ありがとう、彩羽」
大地は、結び直されたお守りを、大事そうにポケットにしまった。
「今年も、よろしくお願いします」
お守りに向かって、律儀に頭を下げる大地を見て、和奏は、思わず笑ってしまった。
「大地、そこまで丁寧にしなくても」
「大事なものだから」
◇ ◇ ◇
信吾は、前髪を払いながら、決め顔を作った。
「今回の事件、俺の勘では、最初から、ただの紐切れだと分かっていた」
「今回、最初から何も言ってなかったよね」
「心の中では、思っていた」
「それ、誰にも分からないやつだよ」
優助は、静かに、境内の絵馬を眺めていた。
「あの、今年の目標、書いてみようと思います」
「優助、何て書くの?」
「まだ、考え中です」
美空が、隣から覗き込んだ。
「わたしは、七不思議の完全制覇、って書こうかな」
「その目標、絵馬に書くには、ちょっと変わってるよね」
彩羽は、絵馬を手に取りながら、少し照れたように言った。
「私は、今年も、みんなと、無事に過ごせますように、って書こうかな」
「彩羽、素直な目標だね」
「べ、別に、普通の目標だ」
◇ ◇ ◇
参拝を終え、屋台で買った甘酒を飲みながら、六人は、境内のベンチに座った。
和奏は、暖かい湯気を吐きながら、みんなの様子を眺めた。
信吾は、相変わらず前髪を払っている。
大地は、たこ焼きを頬張りながら、幸せそうな顔をしている。
彩羽は、寒さに肩をすくめながらも、穏やかな表情をしている。
美空は、まだ、絵馬に何を書くか、真剣に悩んでいる。
優助は、静かに、境内の景色を眺めている。
「今年も、色々な事件、起きるんだろうね」
和奏がつぶやくと、美空が、力強くうなずいた。
「起きるよ。事件は、いつでも、私たちのそばにあるからね」
「その言い方、頼もしいような、ちょっと物騒なような」
彩羽が笑いながら言った。
「今年も、笑って過ごせたら、それでいいさ」
「うん、そうだね」
今日という日も、事件は、笑いながらやってきた。
新しい一年も、きっと、そうなるのだろう。
六人は、湯気の立つ甘酒を片手に、まだ始まったばかりの一年を、静かに見つめていた。




